血のつながり
8つ離れた兄がいた。
わたしが5歳の時には兄は13歳。多感な時期であったと思う。
身体の弱かった私にばかり掛けられる、母の手、声。
そういったものをただ聞きながら、兄は高校生になった。
入学した高校は、その地域では有名な由緒ある男子校。その特進コースへと進学した。
絵の才能のあった兄は、美術部へ所属。
並行して自宅で描いた小さな絵を、夜になると商店街に並べては画材代を稼いでいた。
「自分の描いた絵が売れた」
それは、混沌としていた彼の人生で、唯一自分という存在を認められた瞬間だったのだろう。
学校以外での友人もでき、彼の生活にようやく明かりが見えてきたころ。
彼は美術部を強制的に退部させられた。
「絵や芸術は、お金のために創作するものではない」
そう、当時の顧問は言ったそうだ。お金のために創作するものではない。
商店街で自作の絵を売っているところを目撃したのだという。
それから、兄は徐々に変わっていった。
家出、家庭内暴力、ひっそりと大麻を育てたりもするようになった。
家出した兄を探すため、母が何度も警察とやりとりしている光景が、今も思い出される。
高校生になった兄は、荒れていた。
その当時の心の傷、これから歩む人生での心の傷。
それらはゆっくりと、しかし着実に、彼の心を蝕んでいくのだ。
ゆっくり、ゆっくり。
確実に。