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「魔王が倒れ、戦争がはじまった」  作者: 松脂松明
第二章ー功名の時代
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大国間開戦

 ディアモンテ王国の勢力圏へと、サフィーレ帝国の軍勢がとうとう足を踏み入れた。表向き初となる人間種の大勢力同士がぶつかり合う。多少でも世に関心があるものならば、怯えながらもその状況を知ろうと好奇心を覗かせていた。

 田舎の農夫のような人間でも、他人事ではない。専門兵を育成する帝国のような存在の方が珍しい。大抵の国は徴募兵だとか義勇兵と称して一方的に男手を徴収するのだ。


 平和な時代ならそれも容易くは無いだろうが……良くも悪くも人魔戦争の空気が残る時代だ。かき集められる側も辟易しつつ応じた。


 その結果、現れた光景に人々は恐怖した。当のサフィーレ帝国とディアモンテ王国すらもだ。

 戦場になったのはディアモンテ王国の傘下であるパイラ国とロープ国の少し北にある平原だ。


 パイラもロープも本来は帝国と争えるような国ではないが、ディアモンテからの大部隊の補充で格好をつけることが出来た。

 対する帝国も第5から第7の三軍団を送り込んだ。


/


 戦場はお定まり通りに進んだ。

 まずは遠距離から帝国軍の魔術兵達が一斉に〈火球(ファイア・ボール)〉を放つと、王国側は民兵達を使い捨てに肉の盾で防いだ。すると今度は王国側から〈火球〉が飛んでくる。数では劣るが質では大きく勝る帝国軍は余力のある魔術兵達の〈氷壁〉か重装歩兵の盾で防いだ。


 挨拶じみた最初の応酬が終わると、兵たちも指揮官達も動きを止めた。



「これは……酷すぎる……」



 誰かが漏らした呻きが戦場にいる者全ての代弁だった。

 火に巻き付かれたまま踊り狂う兵。転げ回る間に他の者へと燃え移り、死者の輪を広げていく。脂の燃える匂いが充満して、風とともに流れていった。

 炭になる前に苦痛から解放するべく味方を刺す兵もいた。


 魔法にせよ武具にせよ……人間の持つ戦闘技術は、そのほとんどが人間よりも頑強な魔族を想定して作られたものだ。それをさして頑強でもない人間に使えばどうなるか……言わずもがな過剰殺傷(オーバーキル)であった。


 誰もがこれで戦の虚しさを思い、争いを止めるのならばどれほど良かったことだろうか。

 ここまで大規模なモノは初めてにせよ、戦慣れした帝国軍の軍士達はディアモンテ側より僅かに早く立ち直ってしまう。

 ほんの一瞬の差。そこに攻め入るべき進路を見出して、覇道の軍が動いてしまう。

 前例は作られた。戦争はさらに広がって止まらないだろう。いずれは焼ける脂の臭いにも慣れて殺戮へと踏み込むようになる。


 そして、そんな呵責とは無関係に最初から殺す気の者たちもまたいた。


/


 合戦場にも勇者や英雄がいるのは勿論だが、集団行動に向かない者も多い。そうした者達は別の戦場を形成して相争う。それは道を外れた剣聖であるセイフも同じこと。


 そう思って合戦場の端にある森へと皇帝直下部隊……闇の融合個体達は移動してきたのだった。そこは確かに外れもの達の戦場ではあったが、皇帝側の予想を大きく外れていた。



「……四方八方の気配、ついてきておりますな。しかも速い……いかがなさいますか軍士殿」

「いかがも何もない。向かってくるのならば斬るだけだ。とはいえ、考えることは皆同じか。やはり侮れないなディアモンテ」



 並走する融合個体の男へと応えるセイフ。

 疾走する彼らの狙いは森に潜む者たちを討伐。そしてあわよくば敵の拠点ないし都市への攻撃だ。占領までもは無理だろうが、突出した個の集まりであれば多大な被害を与えることが可能だろう。頭数が少ないために例え敵を全て殺せたとしても、維持はできない。



「ここにいる連中の気配を感じる限りでは……」

「他の地点が大変なことになりますね。しかし、我らは我らが軍団長閣下の代わりを務めるのみ。そう考えれば気楽なものです」



 この森にいる敵は……人間とは呼べないだろう。

 足音や気配を読む限りでは、同類と呼ぶべきものだ。そしてその姿をようやく目視することに帝国軍の魔は成功した。



「これが、ディアモンテ風の融合個体。ところ違っても発想は同じとは本当に奇妙だ」



 目に映ったのは赤い瞳をした軍獣の類。

 猟犬のような姿をした個体やイノシシに似た怪物。牛馬めいたものもいる。

 ある程度の体系化に成功しているのか……そろって硬質化した毛皮を持ち、獰猛さを発揮している。操縦可能かどうかよりも、強力さのみを主眼にした点が帝国の融合個体との違いだ。


 目が合うと同時に、風のような速度で飛びかかってくる。異常なほどに好戦的である。

 しかしその攻撃は野獣よりも格段に上。セイフ達は当然に回避したが、敵が激突した岩や木は砕けて大地が抉れている。



「数も性能も向こうが上ですね」



 黒衣の一人が淡々と感想を述べる。魔族化したことで、ある種の諦念を抱いている融合個体もいる。そうした者は自分の敗北や死にも特に思うところがない。



「確かにな。ベースにした生物の性能差だな。人と獣では差が出ようよ」



 攻撃を回避して、木の枝の上に立ったセイフも静かに首肯する。

 野に生きる獣の身体能力は言うまでもない。それを強化したディアモンテ流の融合個体は性能において極めて高い。



「しかし……操れているようには見えん。何か仕掛けを施して、この一帯から出ないようにしているのか?」



 性能は優れていても、ディアモンテの融合個体には大きな欠点がある。

 ベースが獣であるために普通の兵などと足並みを揃えるのが不可能なのだ。いずれはそこを改良してくるにしても、かなり先の話となるだろう。



「ディアモンテは精神に影響を与える術に優れる。そこを考えれば、恐らくは近辺に小細工をしているやつがいるな。お前たちはそいつを探し出して、殺せ」

「軍士殿は?」

「決まっているだろう。あいつらを独り占めだ」



 樹の上から飛び降りるセイフを見た融合個体達は思いを同じくして、行動を開始した。



「急ぐぞ皆。我らが隊長ならば、術者を見つける前にここの敵を全滅させかねん」

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