始まり②
目が覚めると、知らない部屋のベットにいた。
部屋には俺以外誰もいないが、この家の外と思われる所から多くの人の声が聞こえてくる。
ここはどこだろうと考えていると、部屋のドアが開き、180cm以上はあるゴツい体格の男が入って来た。
「おお!目覚めたか。そりゃー良かった」
そう言って来た男は、鎧を着ており腰には剣らしき物をぶら下げていた。
一瞬コスプレかと思ったが、それにしてはいきすぎている。
何かがおかしい。そう思って部屋を改めてよく見ると、天井には蛍光灯もない。
ベットの横にある机の上にランプが置いてあり、あとは本が数冊置いてあるぐらいの寂しい部屋だ。
「どうした?キョロキョロして……あーそうか。俺の名前は郷田 大だ。それでここは騎士拠点だが……分かるか?」
分かるか?と聞かれても、騎士拠点のことだろうか?それ以前に、この状況を理解できていないのだが……
困惑していると、顔に出ていたのかゴツい男は、俺の頭を触りながら言う。
「やはり何かしらの後遺症が……自分の事は、分かるか?」
自分のこと?
「はい。俺の名前は春風 瞬です。……後遺症ってどう言うことですか?」
「自分の名前は覚えているのか。そうか…………いや……まぁ。君は吸血鬼に襲われたんだが、覚えているか?」
え?吸血鬼って言った?まさか……そんな。 何かに噛まれた事は覚えているが……吸血鬼?
俺は半信半疑で聞き返す。
「吸血鬼って言いました?」
「ああ。吸血鬼って言ったが?ああ!そうだな。助かったのは奇跡と言っていい。本当に危ない状態だったんだ」
俺は言葉を失った。どう見ても嘘をついているようには見えないからだ。
吸血鬼?笑えない冗談だ。ここは違う世界とでも言うのか?
もしそれが本当なら、このゴツい男の格好にも納得出来るが……イヤイヤ、納得できるか!
ならどうやって俺はこの世界に来たんだ?
「おい!大丈夫か?」
正直全然大丈夫ではないが、この状況をハッキリさせる為、質問をする。
「ここは……日本ですか?」
俺は息を呑んだ。
「にほん?……どこだ?そこは…………」
俺は、頭が真っ白になった。
我に返った時、俺の心は不安や恐怖でいっぱいになった。
これからどうすればいいのか。
一生この世界で生きなければならないのかと考えると、胸が熱くなり涙が溢れてきた。
「お、おい。どうしたんだ」
返事をする余裕もなくなっていると。
突然泣き出してしまったから気まずくなったんだろう。
「あ。医師を呼ぶのを忘れていた!少し待っててくれ!今呼んでくる」
そう言ってゴツい男は逃げるように部屋から出て行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
涙も止まり、だいぶ落ち着いて来た時、ドアからノックされる音が聞こえ顔を向ける。
やはり部屋に入って来たのは、さっきのゴツい男だった。
横には、白い顎髭と眉毛が伸びている年をとった老人が立っており、同じく部屋に入ってきた。
老人はこちらをジッと見ている……と思う。
眉毛が邪魔で、どこを見ているか分からないのである。
「この人が医師の万医先生だ。この北区では指折りの名医だ」
「どうも春風 瞬です」
さっきいきなり泣いてしまったからだろう。ごつい男は、気まずいといった感じで目を泳がせている。
老人は相変わらず、こちらをジッと見ている……と思う。
俺は泣き止み落ち着くまでに決意したことがある。
それは元の世界に帰る事だ。
どうやって来てしまったかは分からないが、来れたなら帰る事も出来るだろうと思ったからだ。
この世界で普通に暮らそうかとも思ったが、爺ちゃんを1人にするわけにはいかない。
この世界の事は殆ど分からないが、少なくとも元の世界の方がましだと思う。
何せあのゴツい男の話によると、俺は吸血鬼に殺されかけたとか……それに騎士拠点とか言ってたし、絶対このゴツい男、騎士だろ。そして吸血鬼を退治する仕事が騎士……決まりだな。こんな世界まっぴらだ。
まあ、帰り方は1から調べないといけないが…………
「大丈夫……か?」
医師の老人がやっと口を開いたと思ったら、老人の声は弱々しく、逆に心配になる程だ。
「君は吸血鬼に噛まれ……生死をさまよっていた……普通は絶対に助からないのだが…………」
「そう言う事だ。何か他に知りたい事はないか?」
俺はもう一度聞く。
「日本と言う国は本当に知らないんですよね?」
「あ、ああ……知らないな」
次に俺の頭に浮かんだのは、異世界から来た事を話すかどうかと言うことだ。
話したところで信じてもらえそうに無いが、帰るためにはまず聞くのが1番だと思った。
だから単刀直入に言う。
「俺……たぶん…………異世界からきました」
2人は驚いているようだった。まあ、老人の方は分からないが……
最初に口を開いたのは以外にも老人だった。
「ああ……そうか……異世界から……本当にあるのだな…………」
俺は驚きを隠せないでいた。異世界の事を知っている!?
そして興奮気味に聞く。
「異、異世界から来た事を、信じてくれるんですか?」
「ああ……信じるさ……まあ……言い伝えだがな……異世界の話がある」
「その言い伝えなら俺も知ってるぜ。何でも漆黒の穴に入ればいけるとか。異世界か……だからそんな変な服を着ていたのか?」
あ、そう言えば今俺が着ているの、寝巻で使ってるアニメTシャツだった。
なんかちょっと恥ずかしくなる。
「ああ……詳しい事は誰も知らない……だが……中央区にある宝物庫に行けば……何か分かるだろうが……あそこは基本立ち入り禁止……入れるのは一級学者だけ……」
学者に一級とかあるのか。でもその一級学者になれば帰れるかもしれない。
「その一級学者ってどうやってなれるんですか?」
ゴツい男は驚いた顔をし、そのあと笑いを我慢している感じで言った。
「おいおい!一級学者になるつもりか?やめとけ!あれは一握りの奴しかなれないんだ!」
俺はイラっとしたが、顔には出さず真面目に言う。
「でも……どうしても元の世界に帰りたいんです!」
「そうか……気持ちは分からなくもない。だが、なるにも時間がかかる……なれないかも知れない……それに……宝物庫に必ず手掛かりがあるかも分からない…………それでもいいのか?」
俺は答える事が出来なかった。
よくよく考えてみれば、俺は運動は出来ても勉強は苦手だった。
「1つ提案がある……学者じゃなく……騎士を目指したらどうじゃ?この世界は……学者より騎士と言った職種の方が……融通が聞く。騎士になり……自分を守れる強さを持てば……他の種族とも関われるだろう」
え?騎士?そりゃー運動の方が得意だが……
命がけじゃないのか?そう思ったが、ゴツい男は乗り気になったらしい。
「おお!それはいい!俺が学校に入学出来るよう頼んでやろう!」
てっ!学校?学校ってあの学校か?行って卒業すればなれるとか!?
それなら騎士の方がいいかも知れない。
まあ、一応どうしたらなれるか聞いてみるか。
「騎士って、その学校を卒業すればなれるんですか?」
「いや、ただ卒業するだけじゃ無理だ。最低でも3年間は通わないといけない。また、騎士はゾーンに入る事が条件になる。まずは卒業して、そこから兵士になり、ゾーンに入れるよう鍛錬するしかない」
ゾーン?聞いたことある言葉だが、何だったか思い出せない。
「ゾーンって何でしたっけ?」
「ああ。ゾーンとは簡単に言うと、動体視力、身体能力が通常より上がっている状態のことだ」
そう言えば、そんな感じだった気がする。でもなんか違うような……
それに卒業してからも鍛錬しないといけないのか……
騎士になるのも時間がかかりそうだ。
「まあ、上位騎士の俺も、入学するまで稽古をつけてやるから、他の生徒よりゾーンに早く入れるかもしれないからな。どうだ?学校にいかないか?」
上位騎士?やっぱりこの男騎士だったか。
あれ?じゃあ、この男が学者とかに聞いてくれればよくね?
「騎士ならあなたが学者に聞いてくれれば良いんだと思いますが……」
そう言い終わると、ゴツい騎士の男は何故か笑いだし、笑いを我慢しながら話し出す。
「ああ……すまない…………もちろん俺も情報収集するつもりだ。でも最初から他人任せとは、良いとは言えないな。君もゾーンに入れるように鍛錬して、強くなったほうがいい。あと、あなたじゃなく郷田さんと呼んでくれ!」
何も言い返せない……
まあ……でも……学校に行かなと騎士にはなれなし、自分の身を守れるだけの力があれば安心か。
「はい!よろしくお願いします。郷田さん」