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虚構世界のナイトメア  作者: 夏芽 悠灯
謎の世界
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第4話 ~クロウ・ロードライト~

「終わったね」


「あぁ……。で、お前は誰なんだ……?」


 狼を殲滅した愁翔に青年が軽く手を挙げながら近寄ってくる。そんな青年に対して愁翔は警戒を緩めることなく二振りの剣を持つ両手に力を込めたままでいた。


「そんなに警戒しないで、君の敵じゃないよ。僕はクロウ=ロードライト、君は?」


 愁翔は先程の行動と今の発言から鑑みて敵ではないと割り切り、敵意を取り払った。すると手中の剣が零と一に分解されて消滅した。


「黒井 愁翔。あんたはこの世界の住人なのか?」


 愁翔はクロウと名乗る青年の戦いぶりを見て、この世界に精通している人間だと考えそう聞いた。


「そう、だと思うんだ」


 クロウは後頭部を掻きながら申し訳なさそうに答えた。


「……記憶がないのか?」

「そうなるね」


 クロウは小さな笑みを浮かべながら、弱々しく返事をした。


「ならなんで魔法のようなものを使えるんだ?」

「あぁ、それは君の剣と同じだよ。ボクにはほとんど自分の記憶はないけど、この世界で生きてきたような曖昧な感覚だけが残ってる。だからこの世界についてなら理解しているつもりだよ。それに君だって少しずつこの世界の仕組みが分かってきるんじゃない?」


 クロウの言う通り、確かに戦いを通して分かったことがある。それは自分の想像・理想が現実となるということだ。


「つまり魔法もイメージすれば使えるってことか?」


「うん、そうだね。ただしそのイメージは正確なものでなければホンモノとして現実に昇華されない。剣であればその構造、材質などをしっかりとイメージしないと何かが欠けてしまう。君が創った剣も重さが足りなかったんじゃないのかい?」


 その通りだ。鋼の剣にしてはあまりにも軽すぎた。


 それは愁翔が本物の剣の重量を知らないからイメージしきれなかったのだろう。


 ゴブリンや狼のようなモンスターだったからあんな剣でも倒せたが、もっと大型であったり硬かったりしたら一瞬で砕け散っていたかもしれない。


「キミが行使した力は想いから物質を創りあげる【想造】という忘れられた技術。 この世界で使えるのはほんの一握りだけだよ」


 クロウは足元の小石を左手で拾い上げて説明しながら、右手に同型同質の小石を右手に【想造】した。その際、彼の掌に零と一の数列が集まって小石を形成していた。


 一連の流れにいくつかの疑問を持った愁翔だったが、それを質問として言葉にする前にクロウは魔法の説明へと移行してしまった。


「魔法は適性を持っていれば誰でも使えて、この世界の住人はほとんどが行使できる。小さな規模のものなら簡単だけど、大規模になればなるほどそれに至る手順をイメージして、言葉として紡がなければならないんだ」


 クロウの説明は端的だったがそれ故に分かりやすく、愁翔はすぐに理解することが出来た。


「ただ詠唱が中断されると魔法が小規模になったりうまく発動しなかったり、最悪の場合暴走することもあるから気を付け……」

「【集え黄粒(ルクス)】」


「ちょっといきなり二文魔法って!」


 説明途中で詠唱を初めた愁翔を見て、クロウは非常に焦っていた。対する愁翔はそんなこと気にも止めていなかった。そして彼は先ほどクロウが放った魔法を思い返していた。


 黄粒とは中空に浮遊している黄色の光のことであろう。クロウはあれを集めて雷へと変換した。


「我が命により雷と化せ】」


 集まった黄粒にそう命令して右手を前方にかざし―――


「【雷光(ライトニング)】」


 放つ。



 ドオォォォォン!!!



 鮮烈な発光と大轟音を伴い、愁翔の右手から岩壁に向かって雷撃が放たれた。


 その一撃により岩壁の上部は大きく穿たれ、破壊された部分は零と一の数字として消滅した。


「凄いね、いきなりミス無しで二文魔法を成功させるなんて」

「……」


 感嘆しているクロウに対して、愁翔は自分の掌を見つめて息を呑んでいた。


 こんなことが出来るなど、この世界は明らかに異常だ。いっそVRゲームだと言われてしまった方が納得できるが、全ての感覚があまりにもはっきりとし過ぎている。これがゲームや漫画によく出てくる異世界というものなのだろうか。


 愁翔は現実感のない想像を脳内で反芻してみるものの、答えなど一向に出る様子はない。


「シュウトくん、これからどうするんだい?」

「あ、あぁ……。 取り敢えずこの世界の情報を得たい。人が集まる町なんかに行けるといいんだが」


 この世界が何なのかという解決しない問題を黙考していた愁翔は、突然クロウに声をかけられてはっとした。そして情報を得るためには町、というゲーム脳を働かせてそういった。


「そうだね。 けれどこの場所には町は愚か、ボクたち以外に人の気配がしない。 ここは空に浮かぶ浮島のようだからね」


 クロウは先ほど愁翔が破壊した岩壁上部を指さしてそう言った。そこには満点の星空が広がっており、愁翔が先ほど見た景色を思い起こさせた。


 なるほど。ここが浮島であるのなら空の近さにも頷けるし、広大な大地が地平線まで見渡せることにも納得だ。


「ならどうすれば……」



 ドゴォォォォォォン!!!



 だが愁翔の問いかけは、かなり近くから響き渡った轟音によってかき消された。


 その一瞬後に浮島全体が震撼するほどの衝撃が発生した。


「「!?」」


 一体何が起こっているのだ。同時にそう考えた愁翔とクロウは視線を交錯させた後に、音の発生源へと駆けだした。


 音のした方角は窪地の向こう側。草が禿げた坂道を登って右手に折れて少し走ると、木々が少ない広場のような場所が見て取れた。そこに巨大な何かの影と、人らしき影が二つ見て取れた。


「ぶっ倒れろ、オラァァ!!」

『ヴオォォォォォ!!』


 粗野な叫び声と、人のものとは思えぬ獣のような雄叫びが絡み合いながら愁翔の耳朶を打った。


 その直後、先ほどと同じような轟音と、衝撃波がこちらに届き、愁翔は思わず吹き飛びそうになる。


 それを必死にこらつつ、森を抜けて広場に身をさらす。そして戦場と化している広場を見て愁翔は驚愕した。


 その理由は二つある。


 一つは愁翔と同じ程度の背格好の少年が自身の二倍以上の体躯を誇る巨人と拳を打ち合わせていたためだ。


 少年が相対するのはいわゆるオーガで、生身の人間が太刀打ちできるような生き物ではないはずだ。


 そしてもう一つはその少年と、彼の背後で心配そうに見守っている青年に見覚えがあったためだ。


「あの二人、どこかで……」


 少年と青年の顔を見るや、愁翔の脳裏にあの日の記憶が蘇った。

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