第44話 ~もう一度~
「放てぇ!!!」
銀鈴のような美しい声音が叫びにより、ひび割れた音として戦場に響き渡る。
その声を聞いた部隊は詠唱した状態で待機させていた魔法を一気に解き放った。
『グオォォォォォォ!!!』
無数の魔法が着弾した直後、大地を震撼させるようなけたたましい叫び声が戦場を駆け巡った。
「これでもダメなのか……!?」
百人規模の魔法での同時に攻撃でも倒しきれない敵を前に、緑髪の麗人は膝を屈しそうになっていた。
しかしここで折れたら背負っている数百人の命が失われてしまうと考え、自身の甘える気持ちに鞭打って堪えた。
その直後、大規模な魔法陣が敵の足元に展開され、天空を貫く柱の如き氷柱が敵を串刺しにした。
「姉さま、良く堪えてくれました! 援軍です!!」
白馬に跨って最前線に現れた、あどけなさが残る水色の髪の少年は緑髪の麗人に小さく笑いかけた後、緊迫した表情で敵方を見つめた。
「奴らは一体……」
「分からない……」
目の前に広がる悍ましい光景をしっかりと捉えながら、少年と麗人は小さく呟いた。
今二人の眼前に広がっている光景は、まるでこの世界のものとは思えないものであった。
頭部が雲に隠れてしまうほどの大巨人。
人に似通っているが明らかに人ではない生物。
無数の触手や手足を携えた化け物。
それらが群れを成してこちらに攻め込んできているのだ。
「分からないが、敵であることは間違いないだろう」
少年に続き、長い藍色の髪を風に靡かせる青年が麗人の隣に立った。
彼は腕を組みながら異形の軍勢を睨みつけ、とてつもない気迫を放っていた。
「これまで数え切れないほどの人間が犠牲になってきた。 それに攫われた人たちも数多くいる」
青年はこれまで重ねられてきた数多くの侵攻を思い返して唇を噛み締めた。
「今度こそあの異形どもを絶やして、同胞を救いに行くぞ……!!」
「えぇ……!!」
「はい!!」
青年は一個人が保有できる限界値を優に超えるほどの魔力をその身に纏い、戦線へと駆け出した。
それを追うように麗人は駆けながら自身の周囲に無数の剣を生み出し、少年はその場に残って魔法を詠唱し始めた。
最悪を超過している絶望的な状況で、それでも圧倒的力の前に屈することなく立ち向かう彼らの意志は鋼のように硬く、折れないものであった。
しかしこの戦場の誰もが心の片隅で考えてしまっていた。
彼らがいてくれれば、と。
◆ ◆ ◆
窓やドア、カーテンまでもが閉め切られ、電気すら点されていない真っ暗な部屋。
それもそのはず、今は草木も眠る丑三つ時なのだから、部屋の主もすっかり眠りに落ちている頃だ。
その暗闇の中で、メールを受信したスマートフォンの画面がぼうっと点灯した。
しかしサイレントマナーモードに設定された端末の着信に持ち主が気付くわけもなく、静かな部屋で淡い光だけが浮かんでいる。
そのメールにはこのような事が書かれていた。
From:Midgard
Subject:
text:
Helfen Sie mir.
ドイツ語で書かれた、たった一文だけのメール。
普通の人間なら迷惑メールとして即削除するような怪しい文面だ。
しかし翌日このメールを見た、スマートフォンの持ち主は血相を変えて仲間たちに相談し、そして決意する。
危機を救い、そこに住む人々を助けるためにもう一度あの世界へ赴くことを。
事件は序章に過ぎなかった。
あの世界を生み出した天才と、魅せられた狂人は事態を予見していた。
彼らは手段は違えど、あの世界を守るために動いていたのだ。
その意志を継いで、少年たちは強大な邪悪からあの世界を守ろうと動き出した。
――これは現実と仮想が交錯する、創造の物語。




