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虚構世界のナイトメア  作者: 夏芽 悠灯
謎の世界
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第10話 ~三文魔法~

「ぁ……」


 白に塗りつぶされた視界が正常に働き始めると、そこに映し出されたのは天へと昇る数列とボロボロになった白銀の大盾であった。


 そして大盾は砂の城が崩れるように形を失い、数列と化して消滅した。


「凄いね、ボクたち二人を運んであの崖を登るなんて」

「それですぐ盾出せなんて無茶だったよ」

「はっ! そのお陰でこいつら守れたんだろ」


 無数の数列の奥から三つの影と、彼らの会話が聞こえてきた。


 その声を聞いて愁翔は安堵のため息を吐く。


 そして愁翔は痛む身体をなんとか持ち上げて巨竜を睨みつけた。


「クロウ! この竜を倒すぞ!」

「えぇ!? これってこの子の魔法なんでしょ? ……ってこれはトランス状態に入ってるね」


 愁翔の呼びかけにクロウは信じられないと言ったような声を上げ、しかし背後の音無に目を向けて納得する。


「倒すって……どうするんですか……?」


 巨竜の敵意を真正面から受けた本郷は震える声でそう問いかける。


「ん? キミもシュウトくんと同じで、この世界の住人じゃないの?」

「この世界って……ここは何なんですか!?」


 徐々に冷静さを取り戻してきた本郷は、現在置かれている状況を思い出してクロウに問いかけた。


「ん~……詳しくは後かな。まずはこの竜を何とかしないとね」


 本郷は目を伏せながらもクロウの言い分に納得して引き下がる。そんな本郷に対してクロウは笑いかけ、言葉を継ぐ。


「この世界では想いが形になる。 キミにだってそれが出来るはずだ。 シュウトくんはそうしてキミたちを守ろうとしているんだから」


 本郷はクロウの言葉にはっとして愁翔の方を見遣る。


 彼は満身創痍になりながらも、強大な力を持つ竜に立ち向かおうとしている。自分が挫けていてどうするのだ。


 二人が言葉を交わしている間に、巨竜が再び攻撃態勢に入る。


「でけぇし目障りだ。さっさと片付けるぞ!」


 巨竜が動いた瞬間に金髪の少年が飛び出す。先陣を切った彼は巨竜の敵意を一身に引き受け、その通りに巨竜の爪が振り下ろされた。


「当たるわけねぇだろ、ノロマ!」


 少年は割り砕くように地面を蹴り、直進の勢いを横手へと変換する。


 直後、先程まで駆けていた地面が爪によって叩き潰された。


 攻撃を躱された巨竜は爪を地面に突き刺したまま口腔に白炎を溜める。


「んなもん、撃たせるかよ」


 少年は白炎がちらついた瞬間に跳躍し、巨竜の頭部あたりまで跳び上がった。


 そして(ブレス)が放たれる寸前に強烈な回し蹴りを側頭部に叩き込んだ。


 刹那、横を向いた巨竜の口から白炎が放たれ、右方の木々が一瞬にして灰燼と化した。


「【大空を支配する雷雲よ】」


 それと同時に愁翔が詠唱を開始する。


 今必要なのは武器程度の威力ではない。巨竜に致命傷を与えられる規模の魔法だ。


「【我が祈りを受けて雷槍を放て】」


 イメージするのは天から降り注ぎ、地を穿つ雷。


 順調に二文目までたどり着いた愁翔は、しかしそこで詠唱を括らなかった。


 その瞬間、強引に背を引かれたかのように愁翔の視界が一瞬にして遠退く。


 その光景はまるでゲームの主人公を操作している時のような俯瞰の視点で、愁翔は不気味な感覚に、焦燥を隠せずにいた。


「【放たれる槍は神の怒り】」


 自身で紡いでいるはずの言葉は、まるで他人が紡いでいるように勝手に口をついていた。


「三文……魔法……!?」


 愁翔の様子を遠くから見ていたクロウが声を裏返しそうになりながら驚愕する。



「【神槍(ゼルスピア)】」



 愁翔が括った魔法名の直後、巨竜にかざした右手に白色の魔法陣が形成され、間を置かずに白の雷が駆け抜けた。


 それは無音で巨竜を背後から穿ち、浮島を大きく外れた蒼穹でようやく消滅した。


 その一撃にこの場の全員が、巨竜までもが声を失っていた。


 少し遅れて、自身の胸に空いた風穴を認識した巨竜は絶叫する。


『グオォォォォ!?』


 そしてその巨体を振り乱して暴れ始めた。


 風穴から漏れ出す数列からして消滅までは秒読みなのだが、この巨体で暴れられたらたまったものではない。


 そして大暴れする巨竜の腕が横薙ぎに本郷へと襲いかかった。


「はっ……! 本……!?」


 不気味な感覚から解放された愁翔は巨竜の動きを見て本郷に向かって叫ぼうとした。


 しかし攻撃の矛先となった本郷は無手では無かった。その手には刀身が淡い光に包まれた長剣が握られていたのだ。


 一目見ただけで理解出来た。その剣は、愁翔が【想造】するような武器とは一線を画すものだということが。


「【フラガラッハ】」


 本郷は長剣を構えながら小さく呟いた。


 そして榛色だった彼女の瞳は燃えるような橙色へと変化して、迫り来る巨竜の腕の動きを見極めていた。


 刹那、巨竜の腕と本郷の長剣が交錯し、振り抜かれた剣から目に見えない真空刃が駆ける。


 その次の瞬間には、巨竜の右腕が宙を舞っていた。


「「ッ……!?」」


 本郷の洗練された剣撃に、この場の誰もが絶句する。


 そして巨竜は駆け抜けた衝撃によって身動きを止め、爆裂するように零と一の数列として分解された。



「……はっ! 私は……」


 巨竜だった数列が天へと昇る様子を橙色の瞳でぼんやりと眺めていた本郷は、瞬きをした後にはっとして自身の手の内にある長剣に目を落とした。


「凄いね、それはなんだい?」


 隣に立っていたクロウは、発動させようとしていたであろう魔法を収束させながら本郷に問いかけた。


 彼は巨竜の攻撃を魔法でなんとかしようとしていたのだろう。


 その傍に立つ青年も巨竜がいた方向に手をかざして、いつでも盾を【想造】できるように準備していた。


「あ、これは【フラガラッハ】という剣をイメージしたら出来ました……」


 本郷は淡い光を放つ長剣を胸元まで持ち上げながらそう説明した。


「フラガ……んだよそれ?」


 クロウと本郷の会話の最中、戻ってきた金髪の少年がそう問いかける。


「【フラガラッハ】。 ケルト神話に登場する光の神ルーの武器、だったか? 」


 その問いかけに答えたのは満身創痍の愁翔であった。彼は肩を押さえながらゆっくりと本郷たちの会話の輪へと入った。


 愁翔はゲームや漫画で無駄に蓄積された神話や伝説の知識を巡らせて、フラガラッハという剣の概要を導き出したのだ。


「そうです……って大丈夫ですか、黒井さん!?」

「あぁ、なんとかな……。本郷は大丈夫みたいだな。音無は……」


 駆け寄ってくる本郷の身体に目立った外傷が無かったことに安堵し、視線を足元の音無に向けた。


 彼女は力んでいた全身から強ばりが抜けて地面に倒れ伏している。


「力を使い果たして眠っているみたいだね」


 しゃがみこんで様子を見たクロウが優しげな声で愁翔の問いに答えを返す。


「なら良かった……」

「結局あのでけぇ竜はこいつの力だったのか?」


「そうだね、制御が全くできてなかったけど召喚(サモン)と呼ばれる珍しい魔法形態だ」


 金髪の少年は小さな寝息を立てる音無を横目にそう問いかける。


 この世界の仕組みだけは理解しているクロウは、小さな笑みを浮かべながらそう言った。


「そ、それよりここにいたらまた怪物に襲われちゃうかもしれないよ。来る時にあった洞窟に移動しない?」



 青年の自信が無さそうな提案により、クロウたちが愁翔を追っている途中に見つけた洞窟に移動して今後の方針を決めることとなった。


 洞窟へは、クロウが回復魔法を行使して愁翔の傷を治しながら向かった。

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