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第6話 森の中で会った人

「……誰?」


私の前に突如現れた女性はボサボサとした長い赤髪を弄りながら話しかけてきました。

女性は動きやすそうなピッシリとした服をしていて腰の辺りにナイフのような物をぶら下げています。


「……ここ、危険。一人で来る場所じゃない」


私が彼女の格好を確認していると、ゆっくりと近付きながら警告してきます。


「あ、その……ちょっと欲しい物を知り合いと取りに来たんだけどはぐれちゃって……」

「……知り合い?どっちにしても危険」

「ですよねー……」


女性にとっても当たり前なことを言われました。師匠が異常過ぎるからこういう当たり前の事を言われると何か衝撃です。


「ってそういうあなた大丈夫なんですか。一人みたいですけど」

「……私は大丈夫」

「そ、そうですか」


もしかしたら彼女も中々変な人なのでは?なんて思っていると、彼女は髪を弄りながら周りをキョロキョロと見渡しています……そうだ、彼女なら森の出口が分かるかも。


「あ、あの……」

「……何?」

「私この森で今迷ってて」

「……そう」

「あなたは出口とか分かりますか?」

「……歩いてれば、出れる」

「……そうですね」


あ、やっぱりこの人もちょっと変だ。










「……」

「……」


赤毛の女性と私の間に沈黙の空気が流れながら二人で立っています。謎の女性は私のほうを観察するようにじっと見ながら髪をずっと弄っています。私の方は師匠が助けに来てくれるのを動かずに待っているのですが、この微妙に……いや、やけに気まずい空気は色々辛いです。何で赤毛の人は動かないのでしょうか?


「あなたが、変なモンスターに襲われないため……」


私が女性の行動に疑問を持っているとぼそりと呟きました……って心読まれてる!


「こっちの顔を不思議そうに見られていれば誰でも分かる……」

「あ、そうですか。ごめんなさい……」

「気にしてない」


こうしてまた二人の間に訪れる嫌な沈黙。うぅ、私は知り合い以外の人と話すのは苦手なんです。相手の女性もおしゃべりな方ではないみたいだし……でもこの空気は嫌だし、一念発起して話しかけよう!


「あの」

「ん?」

「お名前は?」

「……」


私の言葉を聞いた後、女性からの返答が有りません。こちらをジッと少し睨む位見つめ、何か訝しんでいます。な、名前の聞くのってそこまで変なことだったっけ。もしかして師匠のせいで私も変に……


「トリエラ」

「はい?」

「トリエラ……だったはず」


そう女性……トリエラさんは言いました。「だったはず」というのは気にならないわけではないですが、まあ女性がそう名乗ってるし聞かないことにします。


「えっと、じゃあトリエラさんは何でこの森に入ったんですか?トリエラさんが言うように危ないモンスターとかも居ますよ」

「私の前に、森が有った」


なにそれちょっと格好いい。


「あなたは……」

「あ、ミリアです」

「そう、じゃあミリアは何で入ったの?欲しい物って、何?」


今度はトリエラさんから私に聞いてきました。入った目的……白雪草を取りに来たのだけれども、別に隠す必要もなさそうなので教えていいかな?


「えっと白雪草って草を……」

「白雪草……」


私の言葉を聞いた後、トリエラさんは髪をクルクルと弄りながら何やら考え事をし始めました。……それにしてもトリエラさんって結構スタイル良いなぁ。全体的にすらっとしてるけど出る所はしっかり出てる。余りスタイルが良くない私としては羨ましいです。


「……何?」

「あ、いえ別に」

「?それよりも白雪草、ついさっき見た」

「え!本当ですか!」


私のことを変な生き物を見る目で見ながらトリエラさんはそんな事を言いました。どうやら先ほどの考え事は何処かに白雪草が無かったか思い出していたみたいです。トリエラさん、変な人だけど意外と優しい人なのかな?


「どの辺りで見たんですか?」

「あっち」


そう言うとトリエラさんは彼女が出てきた所を指さしました。なんというアバウト。


「採りに、行く?」

「え、でも」

「どうせ迷ってるなら、目的の物を探したほうが良い」

「は、はあ……」

「それに目的の物が決まっているなら、出会うかもしれない」


そう言った後、女性はスタスタと私から離れていきます。そして暫く歩いた後こっちを見て


「行かないの?」

「……行きます」


何か言おうとしましたが、トリエラさんのジーッと見てくる視線に耐えられず思わず肯定してしまいました。……私も師匠の事馬鹿に出来ないかもしれませんね。







という訳で深い森の中をトリエラさんと二人で進んでいきます。トリエラさんは森の中を何の抵抗もなくスイスイと歩いていきます。その様子からしてこういった道は歩き慣れているのが分かります。

それに比べて私は余りこういった場所になれていないのと背負っている荷物のせいでトリエラさんに距離を離されてしまいます。

けれどある程度距離が開く度にトリエラさんは私の方に向き直って待ってくれるので、トリエラさんの事を見失うことは有りません。どうやらこういった事にも慣れているみたいです。


「……」

「……」


ですが、トリエラさんは歩いている時も、待つ時も無言で少し居心地が悪い。良い人なのは分かるんだけど……いや、ここで怖気づいてちゃダメ!相手が話題を振ってこないなら、私から振らなきゃ!


「あの、トリエ「ねえ、ミリア」

「ああ!はい、何ですか?」

「……何か言いかけた?」

「い、いえ!大したことじゃないで」


残念ながら、私の少しの勇気はトリエラさんの一声で粉々にされてしまいました……いや、会話をしたいんだから粉々にされてもいいのかな?


「……そう、じゃあいいや。ミリア、あなたこの森の近くに住んでるの?」

「へ?あぁ、はい。この森の近くに街が有るんです。私はそこに暮らしているんです」

「……そう。そこに宿は有る?」

「有りますよ。首都の通り道に有るから泊まる人が多いので、宿も結構有りますよ」

「……そう」


……うーん、会話が続きません。こういう時はなんて言ったら良いんだろ。


「そ、そうだ!宿を聞いてきたってことはトリエラさんって旅人かなにかなんですか?」

「……そう。あちこちを旅してる」

「じゃあ、どんな場所に行ったこと有るんですか?」


若干、ウザったくなるくらいトリエラさんにぐいぐい話しかけていきます。するとトリエラさんはチラッと私を見た後「……例えば」と呟き口を開きました。


「オーレイス王国の中でも北の方に、マジシアって街が有った」

「マジシア……」

「そう。その近くの沼に全身が黄金の足が生えた魚が居た」

「何ですかそれ……」

「私もびっくりし……」


その時、トリエラさんが急に口を閉じました。そして辺りをキョロキョロと見渡し始めます。


「ど、どうしたんですか?」

「……静かに。何か近づいて来てる。人じゃない」


私がトリエラさんの言葉を聞いた瞬間、体がトリエラさんに会った時みたいに再び強張りました。人じゃない何かが、近づいてくる。それって……


「まさか……」

「……モンスター」


私が恐る恐る聞いたら、トリエラさんは私の顔を見ずにそう答えました。

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