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第5話 キーヌの森

キーヌの森に続く道を師匠と二人でのんびりと歩いていきます。周りは平坦な草原が広がり、心地よい風が肌に触れます。街では滅多に感じない爽やかな風です。


「う~ん。ピクニック日和だね~」

「師匠、目的を忘れないでくださいね」

「うん、分かってるー」


師匠はのんびりと私に語り掛けてきます。ですが、街祭りの準備とかが無ければここら辺の草原でのんびりとお昼寝したい位良い天気です。実際にそんな事をしたらモンスターの餌になるだけですが。

なんて考えながら歩いている私たちの視界には鬱蒼とした森が見えて来ました。草原の一角に急にこんもりとしていてとっても分かりやすい。


「あれがキーヌの森ですか?」

「うん、ミリアは入ったことある?」

「いえ、全く無いです。師匠は?」

「何回か有るよ。材料が無い時にちょちょっとね」

「1人でですか?」

「うん、大体はね」


師匠がのんびりとした声で伝えます。……さらっと言ってますがそれはすごく危険なのでは?


「大丈夫だよ。ミリアは心配性なんだから」

「普通の人は私と同じ反応をします」


私の言葉を聞いた師匠は「それじゃ私が普通じゃないみたい」とわざとらしく頬を膨らませていました。師匠は魔法使いなので普通ではない……というツッコミはしない方が良いですよね。








暫く2人で歩くと森の前まで来ました。看板などは一切無く、大きな木々によって草原と空間を分けていて堂々と自分の領域を主張しています。外から見る森の中は薄暗くてよく分かりません。街のすぐ近くにある森ですが、未開拓で不気味な雰囲気が出ています。


「よーし、じゃあレッツゴー」


師匠はそんな森にのんびりとした声を上げながら、手に持っている棒状のもので周りの草をかき分けながら侵入していきます。師匠に恐怖心という単語は無いのでしょうか。


「ちょ、師匠。待ってください!」


師匠が森の中にどんどん入っていくのを慌てて私は付いていきます。森の中は手つかずで、街の公園に植えられている木とは比べ物にならない太さの木、苔が生い茂っている岩等が至る所に有ります。


「あ、この草取っとこうかな」


師匠にはすぐ追いつきました。地面にある草を採取するために足を止めたようです。私のことを気にしていないのは若干アレですが、師匠は目の前の事に夢中になるのはいつものことなので気にしないようにします。


「師匠、何ですかそれ?」

「ん?これはね噛むととっても苦いんだよ。でも薬とかに混ぜれば怪我の治りを促進する成分があるの」

「へー……」

「あ、あっちにも有る!」


そういうと師匠はまた1人で森に入っていきます。そんな自由に動き回る彼女の後を私はまた頑張って付いていきます。けれども全力で走っても中々追いつきません。

師匠は普段ずっと部屋に籠っている割にはかなり運動神経が良いです。これも魔法の力なのでしょうか……なんとなく違う気がします。










そんな感じで森を進むこと約20分。


「道に迷った……」


私の周囲に人の姿は無く、あるのは鬱蒼と茂る木々のみ。聞こえる音は時々鳥が鳴いた声位なものです。迷子です。見事なまでに迷子です。

植物採取に夢中になっていた師匠は気が付いたらいつの間にか消えていました。恐らく私が迷子なのはまだ知らないでしょう。


「とりあえず師匠と合流しなくては……」


ひとまず落ち着くために今自分がすべきことを口に出して確認します……けれども似た風景ばかりで私がどっちの方向からやってきたのかも分かりません。ここは動くべきか、立ち止まっておくべきか……。


「……少し動いてみようかな」


師匠のことだから下手すれば一日中夢中になって、私の事など頭からすっぽかしているかもしれません。なら自分から動いてどうにか合流しなければ……。大丈夫、ちょっと迷ってもここに戻ってまた考えれば良いんです。

なんて若干言い訳をしながら一歩踏み出します。……よくよく考えてみれば、迷った後に戻れるのならば今迷っている筈がないんですよね。






その後、どのくらい歩いたかは分かりません、ですが空の太陽がゆっくりと進んでいるのだけは木々の隙間から確認できました。

私の周りは、草木は更に深くなっていて葉っぱの隙間から漏れる程度の光しかなく、夜と変わりない位の暗さです……まさかここまで迷ってしまうとは私の頭の方位磁石のポンコツぶりに涙が出そうです。


「……もう動かないようにしよ」


私は近くにあった苔まみれの岩に腰を下ろし、ため息を一つ着きます。重いバッグを持っていて足が疲れたし、もうここで大人しく師匠の救助を待つことにしました。もしかしたらたまたま森に来ていた冒険者や騎士と遭遇するかもしれませんしね。


「……はあ」


にしても今の状況は本当に笑えません。師匠が一人で行くって言っていたのに「心配だ」って言って付いてきた自分が迷うなんて……。


「師匠、助けに来てくれるかな……」


にしてもまた一人です。薄暗い森の中、いつの間にか消えていった両親、空から落ちてくる水の滴……そういえばあの時もこうやってうずくまってたっけ。そして


『こんにちは?こんばんは?まあいいや、あなたも薬草採取?』


私の前にのんびりとした声で現れた女性が……

ガサリ……と唐突に私の耳に音が入ってきました。その音で私の意識が急速に現実に引き戻されます。

もしかしてモンスター?そう思った瞬間、私の体が強張ります。師匠ならなんとかなるかもしれない。けれども私はモンスターと戦ったことなんて一度もない。どうすれば……

そんな風に考えていると私の前の木の後ろから、ガサリと草木を踏む音がまた聞こえます。そして


「あ……」


私の緊張感とは真逆の声を出しながら一人の女性が姿を現しました。

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