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第15話 街祭りその後

お祭りが終わってから十日。

沢山の露店が開かれ買い物客で賑わう商人通りに、珍しい異国の格好をした青年や鎧を着こんだ荒れくれものが食事や娯楽を楽しむ旅人通り、そして何時も通り人はおらず何処からか鉄を叩く音が聞こえる職人通り……街の雰囲気はすっかり元通りになってしまいました。

レイシア曰く「街祭りとしてなら大成功」だそうです。

「来賓の方も大満足してくれたし、これなら街の外からも新しい人がどんどん来るだろうってお父さん上機嫌だったのよね~。だから、来年もよろしくって師匠に言っておいてくれない?」

とのこと。ちなみに師匠にそれを伝えたところ「何かハードル上がってきて面倒くさくなりそぉ」と余り前向きではない回答を貰いました。

まあ、来年どうなるかは分かりませんが、「レース魔法雑貨店」の方にも少なからず変化がありました。

ジワリジワリといった感じですが、出店や師匠の出し物の影響からか、お店に顔を出してくるお客さんが徐々に増えてきたのです。

そのおかげで飛ぶようにという訳ではないのですが、商品が一定数売れるようになってきました。これで出し物の為にギリギリになっていたお金が持ち直し、少し余裕が出来るほどになりました。


「まあ、とりあえずこれで一件落着って感じかな?」

正午頃、客さんの姿が無い店内。そこで師匠が最近減りが早い品の補充をしています。師匠が今置いているのは超漂白石鹸(師匠命名)。洗濯の時にこの石鹸を使うととんでもない位泡立ち、服の汚れを一気に落とすという代物で、毎日共同井戸の周りに集まって雑談を交わす主婦の皆さんからは好評の一品で、今この店の売れ筋商品といっても過言ではないでしょう。

「そうですね……あ、でも師匠。まだ変な物を買わないで下さいよ、そこまでお金に余裕がある訳じゃないんですからね」

「分ってるよぉ。そこまで私は考えなしじゃないもん」

「……」

「な、なんか言ってよミリアぁ~」




「ねぇ、ミリア」

品出しを終え、ちょっとした休憩時間。師匠と一緒にお茶を入れてのんびりとした時間を過ごしています。トリエラさんはこの時間はいつも街の何処かへ行ってしまいます。何してるんでしょう?お茶とか一緒にしたいんですけど……。

「ミリア、聞いてる?」

「あ、はい。何ですか?師匠」

少しぼうっとして考え事をしていたら前に居る師匠に不思議そうな表情をされてしまいました。

「ちょっとミリアに聞きたいことあるんだけど。後日にしようかなぁ」

「はい?ああ、いや大丈夫です」

私が答えると「そう?」と呟くと、お茶を一杯飲んでからため息を一つ。

「お茶おいしいねぇ。茶葉変えた?」

「え?いえ、変えてないですけど」

「そう?」

「で、話っていうのは何ですか?」

「んー」と声を上げる師匠。珍しい、普段は何も考えてなさそうな師匠が悩んでいます。

「……何か失礼な事、考えてる?」

「いえ、別に?」

「……そう?あ、ミリア。聞きたいことっていうのはね……ミリア、魔法習ってみない?」

「魔法、ですか?」

師匠の突然の言葉に思わず固まってしまいました。魔法……店名にもありますし、師匠もよく使っている(はず)の凄い力……なのは分りますが、原理とかさっぱり分りません。

「ほら、街祭りの準備の時に話があったけど、私、全然ミリアに教えてないしね。少しは学びたいのかなーって思って」

「うーん……」

正直言って、私は魔法を学びたいとは思っていません。いや、学びたくないって訳ではないのですが……。何ででしょう。

私が心の中で悩んでいると私の前に座っている師匠は何だか、そわそわと落ち着かないって感じです。

……師匠は私に魔法を学んでほしいのでしょうか?師匠の何処か緊張している様子を見ていると、そこもまた疑問に感じてしまいます。

「師匠は、どうなんですか?」

思わず聞いてしまいました。師匠はそれを聞くと「へ?」って呟き、おろおろと視線を動き回らせます。

「う、うぅん。私としてはちょっとぉ、どうかなぁ、いや、でも……うーん」

……師匠、すっごい悩んでいます。

「なら、別に教えてもらわなくていいですよ」

「へ?」

師匠がそこまで私に学んでほしくなさそうなので、私はスパッと言いました。

「ほ、ほんとに?」

「本当です」

私の言葉を聞いた途端分りやすい位安心した表情に変わる師匠……やっぱり師匠は魔法を教えたくはないみたい。

「さ、師匠。この話は終わりです。ところで今日の夕飯は何か食べたいの有りますか?」

「ん?じゃあ、私も買い物付き合うよ!」




「……ただいま」

「あ、おかえり~」

空が暗くなり、旅人通りの楽器の音が少し聞こえてくる時間帯。魔法雑貨店にトリエラさんが帰ってきました。

私は夕飯の準備中なので、声しか分りませんが、お店の入り口から入ってきたトリエラさんとレジで本を読んでいた師匠が会話しているみたいです。

「トリエラちゃん、どうだった?」

「……これ」

その後、ドンという音と共に何かを机に置いた音が聞こえました。……トリエラさん、師匠に言われて何か買い物でもしていたのでしょうか?

「ありがとぉ。わざわざごめんね。街の外まで」

「気にしないで良い」

どうやら師匠に何か取ってきてほしいと言われ、街の外まで行ったようです。……会話からすると余り危険な場所へは行ってないみたいですが……トリエラさんの靴私ので余り運動には適してないから余り遠くには行かせないように師匠には後で言っておきましょう。

「そういえば、遠くに馬車が見えた」

「馬車?」

「そう……かなり派手な馬車、商人のものとは思えない」

「うーん……また何かお偉いさんかもね。でもここは国の南部の中継地点みたいなものだからそこまで珍しくもないかも」

「そう……」

師匠の言葉を聞いた後、トリエラさんはどうやら興味をなくしたみたいで、その後は、お店の商品を勝手に触っては師匠に色々聞いていたりしているようです。トリエラさんも世界を旅する冒険家(恐らく)ですから魔法の道具に興味が有るようです。

「師匠、トリエラさん。テーブルの準備して下さい。ご飯出来ましたよ~」

そうやって三人の静かな時間が過ぎ、私の言葉がお店の中に響き渡りました。

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