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第10話 お祭り準備 その2

「……うーん?」

私がテーブルに置いたお皿を見て、師匠の表情が笑顔から微妙なものへと変わっていきました。

「これ、朝ご飯?」

「はい、そうです」

まあ、私の言葉を聞いた師匠は更に表情が変化します。見事なガッカリ顔。まあそうなるのも仕方が無いでしょう。

今の「レース魔法雑貨店」の財政は今火の車です。元々少ないお金を師匠の道具の製作費に大半を取られてしまい、底をつくのが目前といった状態になってしまいました。

その為、とりあえず一番お金を節約しやすい食費の部分をどんどん削ります。

「本当にお金ないんだね……」

「はい、無いですよ。今知ったんですか?あ、すみませんトリエラさん本当にピンチなので」

「……問題ない」

型を落としながら食べ始める師匠といつもと変わらぬ無表情でもくもくと食べ始めるトリエラさん。二人の様子を見ながら私も食事に手を付け始めます。




「あ、そうだ。ミリア、ロゼッタの所に行ってきてくれないかな?」

食事を初めて数分。唐突に師匠がお願い事をしてきました。

「ロゼッタ……ああ、宝石店のロゼッタさんですか?紫光石を?」

「うん、そうそう。ちょっと取りに行ってくれないかな?」

「はい、良いですよ」

「ありがとね。ごちそうさま」

師匠は立ち上がってそのまま私室へと入っていきました。まだ出し物作りの準備が有るのでしょう。

「……用事?」

「はい、ちょっと注文していた物を取りに行くんです」

「そう……その間閉める?」

「へ?……ああ、お店の事ですか。そうするしかないですね」

師匠は恐らくご飯以外は部屋から出てこないでしょうし、少しの間お店を閉めなければならなそうです。

私がそんな事を考えていたら、トリエラさんが私に何か言いたそうにジーッと見ていることに気がつきました。

「どうしました?」

「……店番位は、出来る」

「え、でも……」

「問題ない」

「は、はあ」

トリエラさんがそこまで自信満々に言いますけど大丈夫なのでしょうか?お金を盗むとかはしなさそうですが、余り接客とか得意そうには見えません。でもまあ、お店を閉めるよりはマシ……?

「じゃ、じゃあよろしくお願いしますね」

「うん」

いつも通り頷くトリエラさんに若干不安を感じながら、私はお店の扉を外へと出ていきました。





「いらっしゃ~……ん?」

私がお店に入った時、その店主……ロゼッタさんはレジのショーケースに顔を乗っけて、如何にもやる気なさそうな挨拶の途中で、私に少し不思議そうな顔を向けました。

「あ、レースの弟子の……」

「ミリアです。頼んでいた物を取りに来たのですが」

「ああ、うん、成程成程……ちょっと待ってて」

ロゼッタさんはそう言うとゆっくりと立ち上がり、若干体を右左とゆらゆら揺らしながらお店の奥へと入っていきます。

「あれ、何処に置いたっけ?」なんて若干不安になる声を聞きながら、私は「ロゼッタ宝石店」の店内を見渡します。

壁に掛けられた宝石がちりばめられた時計。ショーケースに並ぶ色とりどりの指輪。ペンダント等のアクセサリーも飾られています。

けどそれだけじゃない。一つ一つの商品がしっかりと客に見えて、更に商品が良く見えるように、高さや角度、細かい向きなんかも考えられていることが分かります。

師匠と来た時、そしてついさっきのロゼッタさんの様子を見ると、そういうことをしっかりやっているようには見えないけれど……。

「あ、あったあった」

そんな事を考えていると、裏から大きな箱を抱えたロゼッタさんが現れました。私からじゃ顔が見えないくらいの大きさの箱をよたよたと歩きながらやってくる彼女の様子にただ見ている私の方がハラハラします。

しかし彼女の方はそんな私の事を気にせず、レジのショーケースの上に箱を置いて、「フー」と額の汗を拭っています。

「はい、これが頼まれてた紫光石。結構重いけど、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。えっと2万2000Gですよね。はい、これです」

「お、ちゃんと持ってきたんだ。ちょっと待っててね」

私が払った硬貨を指でパパッと素早く数えるロゼッタさん。結構硬貨多いけど、よくそんなに早く数えられるなあ……なんて少し思いながら眺めます。

そういえばロゼッタさんは一人でこのお店を切り盛りしているのでしょうか?しっかり手入れされている店内等を見ているとそう疑問に思いました。

「ん?どうしたのミリアちゃん」

「あ、いえ。宝石をちょっと見ていただけです」

「あぁ、私が見極めた良いものを揃えてるからね。見とれるのも分かるよ」

ロゼッタさんはそう言って明るく笑った後、私の方を少し見ます。

「ミリアちゃん。やっぱりレースの所からこっちに来ない?ミリアちゃんみたいな可愛い看板娘が欲しいなぁ……」

「え、可愛いだなんて」

ロゼッタさんの言葉に冗談半分で言っていると分かっていても思わず顔が赤くなってしまいました。そんなこと余り言われたことが無かったからどう反応したらいいのか……。

ロゼッタさんは狼狽えた私を暫くニヤニヤと笑いながら見ていましたが、その後「それにしてもレースに弟子ねえ……」なんて言って私の方を少し懐かしそうな感じで見てきます。

「あの、ロゼッタさんって師匠と知り合いなんですよね」

「ん?そうだよ。レースがあのお店を始めた頃からのね」

そう言うとロゼッタさんは一旦話を切り、私の方をジッと見つめてきます。

「知りたい?レースの昔の話」

「へ?」

私は師匠の事を余り知りません。私が知っているのはいつも面倒くさそうにしていて、良く変な物を買ってくるお人よしの優しい師匠。けれど昔何があったとか思い出話は全然して貰ったことが有りません。……正直言って、知りたい。

「ま、今は教えないけどね」

「へ?」

「そのお荷物を運んで、出し物を成功させてからね~。レースがそろそろ「まだかな~」って言ってるんじゃないかな?」

「あ、ああ!そうでした!荷物運ばないと」

ロゼッタさんに言われて、私は慌てて紫光石の入った箱を持って、少しふらつきながら部屋を出ます。

「レースによろしく言っといてね」

私がお店を出る直前。ロゼッタさんは笑いながら手を振って見送ってくれました。

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