第1話 魔法雑貨店の1コマ
「師匠、この怪しい色の液体入りの瓶はどこに置くんですか?」
「それは右の棚だよ。気をつけて運んでね~」
私の言葉に師匠ののんびりとした返答が返ってきます。
「え~っと右の棚右の棚……」
私は呟きながら棚の前に立ったとき、私は思わずため息を1つ付いてしまいました
「……師匠、勝手に新しい物買いました?」
「あっ、ばれちゃった?」
私がビーカーを置こうとした棚に見たことのない金色の像が置かれていました。瓶を持って水浴びをする官能的な女性の像。かなり高そうです。
「師匠、無駄遣いしないで下さいよ。いつも火の車なんですから」
「でも、これを逃したらもう買えないって……」
「それで何回変なものを買っているんですか!」
ここは1人の王様が統治するオーレイス王国の中のとある街。その中の一角に師匠のお店は有ります。
名前は「レース魔法雑貨店」。あ、レースは師匠の名前です。このお店は名前通り、魔法の道具を作って売っているお店です。
私が思わず大声を上げると、裏手から師匠が顔を出してきます。腰にまで届くストレートの茶髪に若干垂れている青目。肌は白くて、まるで真珠か雪と例えられても名前負けしません。師匠はそんな美女なのですか、色々ダメダメな人です。
「えぇ~、そんなに買ってないよ~」
「買いましたよ!前は運気が上がる木の山羊像。その前はよく分からない石柱。後、肩こりが良くなる邪剣なんていうのも買ってたじゃないですか!」
「あ~、有ったね~」
まずは、金銭感覚……というか謳い文句に弱いです。ちょっとプラスな事を言われるとコロッと買ってしまいます。私が師匠の元に来る前もずっとこんな調子だったのでしょう。良く生きてこれたものです。
「でもミリア聞いてよ。この像ね、置いてあると金運がぐんぐん上がっちゃうんだって!」
「そういうの何回目ですか師匠~!」
「でも、悪い人では無かったもん」
そして師匠は人が良いです……というか良すぎです。こうやって人から物を買うのはまだ良い方で、酷いときは人にお金を無利子で貸して、逃げられたことが何回もあります。でも、そんな事は気にせずにいつも人を簡単に信じてしまいます。
あ、ついでですかミリアとは私の事です。身長はちょっと低めで髪は肩ほどしか無く、身長が高く美人な師匠とは正反対の見た目をしています。師匠は可愛いと言ってくれますが、私は師匠みたいな美人に憧れているので複雑な気持ちです。
「……まあ、良いです。師匠、ひとまずお店の準備をさっさと済ませましょう」
「うん、そうだね。あっミリア、こっちのを裏へ持って行って~」
私が怒った事はどこへやら、師匠がのんびりした声で私に命令を送ってきます。私はそれにこれからの経営の事を考え、頭痛を覚えつつ荷物を運ぶ。
「ところで師匠。こんなの作っていましたっけ?」
「あ、それはね。昨日像を買ったときにセットで買ったら安くなるって……あ」
「師匠、今日は昼飯無しにしますよ」
「そ、それはやめてミリア!」
「レース魔法雑貨店」の開店から約2時間。今日の客は今のところ0。まあ、いつものことですが。
師匠は今、研究室に引き籠もって新しい道具を作っています。唯一の従業員である私はレジの前で店番。お店の前を通る人を目で追いながらぼうっと眺めて考え事。
「う~ん、師匠が使ったお金は大体3万G……うーん、今月はなんとかなるかも知れないけどキツイなー。お金を使わないように師匠に言わなくちゃ……」
「ミリア、入るわよ」
私がお金について悩んでいると扉を開ける音と、少女の声がお店に入ってきました。 私がそっちに視線を向けると、立っていたのは私と同じ位の歳の少女。若干赤い髪を後ろで1つに束ねており、若干の吊り目が特徴的。身長は私よりも高くて少し羨ましい。
「あ、レイシア。いらっしゃい」
お店に入ってきたのはレイシア。この街に住んでいる私の友達です。
「どうしたの?なんか悩んでるみたいだけど」
「うん、また師匠が変な物買っちゃって……」
私が朝の出来事を伝えるとレイシアは1つため息をつきました。
「また?で、今度は何?」
「そこにある金色の像だよ。後、裏にある変な鉄の塊」
「何それ?いつも思うけどあなたの師匠ってそこら辺のおじいちゃんよりも詐欺に引っかかってない?」
「気のせいじゃないと思うよ……」
レイシアの言葉に私は頷くしか有りません。実際いつもだまされてるし。
「あなたの師匠ってこの街じゃ唯一魔法を使える魔法使いなのに。あれじゃあね……」
こんなダメな所しか目立たない師匠ですが、彼女は一応国の中でも数少ない魔法使いという人間の1人です。
魔法使いとは魔力という力を使い、魔法という様々な現象を生み出す人のことです。
火を出したり、水を湧かせたりすることが出来る魔法使いですが、師匠はその中でも魔法で物を作ることに優れていて、このお店の商品は全て師匠が作った物です。
そして私はそんな師匠の唯一の弟子なのです。余り……殆ど教えて貰っていませんが。
「でも、師匠ってああ見えても結構研究とかしてるんだよ」
「そうなの?やっぱりあれでも魔法使いなのね」
殆どの魔法使いは自分の家に引き籠もって黙々と研究をするそうです。だから、滅多に人前には出ません。私も師匠以外の魔法使いとは一度も会った事はありません。
「ところでレイシア。この時間に来るなんて珍しいね?」
「あ、そうだ。ちょっとあの魔法使いに頼みたいことがあるのよ」
「へぇ~」
これは本当に珍しい。私は思わず驚いてしまいました。レイシアは基本で1人で何でもやろうとするし、大抵の事は出来る才女。そんな彼女が師匠に何かを頼むってことはただ事ではありません。
「分かった。師匠は今手が離せないから、私が聞くよ」
「分かったわ。じゃあ、しっかり聞いてね」
レイシアはそう言うと一度深呼吸し、息を整える。そして彼女の形の唇から言葉が零れた。