2月14日(丸林智樹の場合)
困った。
朝からはしゃぎまわっている聡史を見ながらそう思う。
ちょっとした冗談のつもりだったんだ。
聡史は毎年毎年チョコもらってなかったし、下駄箱にチョコが入ってれば自慢することは予想がついてた。
でも、さすがにこの状況は想定外。
クラス中、いや他のクラスにさえもチョコを貰ったと自慢していて、多くの人が知ってしまった。
流石にこんな中で「うっそでーす! 引っかかった!」なんてする勇気は俺にはない。
本当にどうしよう。
あぁ、どうかチョコレートの包装を取らないでくれ。
ネタばらしする為に入れた「今日の放課後、校舎裏で待ってます(ハート)」と書かれたメッセージカードだけは見つけないでくれ。
聡史ならすぐに開けるだろうって作った仕掛けだったが、今になっても聡史は開けていない。
ここまで話が広がってから見つかると多くの野次馬が集まることは容易に想像できるし、本当にやめてくれ。
多くの野次馬の前でのネタばらしをするのも辛いし、ここまで喜ばせてから突き落とすのも気が進まない。
あぁ、本当にバカなことをした。
俺がこんなに悩んでるって言うのに、当の本人は仁をからかって強めに殴られている。
人の気も知らないで!
そんな風に心の中で悪態をついていた時――
「兵藤君! いい加減にしてください!」
そんな声が教室に響いた。
その声の主はクラスメイトの小森都子。
長い髪を後ろでお下げにした、良く言えば大人しい、悪く言えば地味な女子だ。
そんな彼女が大きな声を出したのだから、当然クラスの視線が集まる。
いつもの彼女ならそんな状況ではアガってまともに話すこともできないんだけど、今日は違った。
「兵藤君、そのチョコレートは兵藤君を好きな子が勇気を出して送ったものなんですよ」
いいえ、友人としては嫌いじゃないですが恋愛感情はありません。
「下駄箱に入れたのだって他の人には知られたくないけど、思いは伝えたかったからじゃないでしょうか」
下駄箱に入れたのは俺からだってバレないようにするためです。
「そんな人からの心のこもった物を無闇矢鱈に人に見せて自慢するのは良くないと思います」
良し! それには全面同意だ、もっと言って小森さん!
「だからちゃんと、兵藤君も真剣に相手の気持ちに向き合って欲しいんです」
いいや、真剣に向き合わないで!
イタズラだから!
「……そうだな、小森。俺、チョコもらったのなんて初めてだから浮かれてたよ。
ありがとう、俺真剣に向き合うよ!」
やーめーろーよー!
「うん、その方がいいと思います。あ、そうだ。もしかしたら手紙とか入ってるんじゃないです?」
小森ぃぃぃ!
お前は俺に恨みでもあるのかぁぁぁ!
俺の心の声の甲斐なく「お、そんなことあるのか」と聡史は包みを開いていく。
「マジであったよ! えーと何々……ふむふむ」
「おい、聡史。なんて書いてあったんだよ」
「悪いな仁、俺はこの娘に真剣に向き合うって決めたから内容は話せないぜ――ただ、放課後が待ち遠しいな」
遠い目で言う聡史。
バーカバーカ!
そんなこと言ったら放課後に何かあるってバレバレだろうがバーカバーカ!
クソッ!
頭を抱えて机に突っ伏す。
その際、なぜかこっちを見ていた小森と目があった。
小森は小さくガッツポーズをして、声を出さず「ガンバ」と口を動かす。
――なんだろう、小森は何か重大な勘違いをしている気がする。
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