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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
満月の光は優しく
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ふじみ

 血臭漂うこの戦場が夢の中で、実際には衛もお稲荷様も何一つとして傷を負うことはなく、穏やかに眠りこけているのだったらどんなに良いことだっただろうか。

 何度殴ろうと、何度致命傷を与えようと、何度命を奪おうと黙々と向かってくるこの集団の光景は悪夢以上の悪夢だ。

 不死に近い物の怪がいても、それらは決して不死ではない。必ず何らかの原因で死亡するのだ。

 そう、どんな生物であろうとも絶対に死という影は表裏一体で付き添っているのだ。

 故に、目の前の彼らも死んでいるのだが――。

 足元まで尺取り虫のような動きで近寄ってきた男の頭を容赦なく踏み潰し、最上兄は苦々しい表情のままで頭蓋骨が割れて潰れた脳が露出した男を力いっぱい蹴り飛ばした。

 これで彼を引き剥がしたのは何度目だろうか。頭の中で数えていた数字は意味を成さなくなったためにわからない。

 ぼろ雑巾のように擦り切れた狩衣を来た降魔師の集団の奥で、蹴り飛ばした男がまた動き出した。

 脳を破壊された男が、動いた。

 それを見て最上兄は確信した。

 もう彼らは日常を送ることは出来なくなっていると。

 そして、薄々感じていたことだが、最上兄はおろか、例え神である韋駄天だろうが、衛であっても、殺しても死なない降魔師たちに対する対抗手段は誰一人として持ち合わせてはいない。確実に殺されてしまう。

「クソッ……」

 珍しく悪態をついた最上兄はまたしても足元に取り付いた降魔師を遠くまで蹴り飛ばし、他の降魔師たちが多く蠢いている付近を見る。恐らく妹がいるであろうそこまでだいぶ距離が開いている。というより彼が少しずつ開けていったのだ。

 今はまだ自分に向かってきている不死の降魔師たちだが、妹や韋駄天がいる方向に戻るかもしれない。殺しても死なない人間を彼らの元にいかせるわけにはいかない。

 全身をバネにして飛びかかってきた降魔師の顎下を強く蹴り上げ、のけぞった姿勢でバウンドして転がった人間がもぞもぞと動いて再びこちらに向かってくるのを確認した最上兄は山頂に向けた背を右に向け、更に数歩下がって移動する。山の頂上に背中を向けたまま下がってしまえばいずれはお稲荷様とトーコの二人とかち合ってしまうかもしれない。なので最上兄は上下を動くことなく、横に逸れるように動くことにした。

 無事に、といっても良いものなのかわからないが、ひとまず付いてくることに安心する。

 しかし聡明なはずの最上兄は気づいていなかった。

 殺しても死なない人間が、彼の目の前にいる数だけの道理はないことを。

 今まさに、妹が死なない人間の頭部を破壊し、それでも迫ってくる人間に顔を青ざめさせていた。

 半ば機械的に人間たちを竜巻で吹き飛ばしていた韋駄天は作業と化した途中から大きな違和感を覚えていた。その違和感を解消するため、人間たちを深く注視してようやく気づいた。

 竜巻を作り出してから、人間たちの顔ぶれが変わっていないのだ。

 当たり前だ、とも思ったが、韋駄天ははっとした。

 襲いかかってくる人間の顔ぶれが変わらないのは異常だ。どんなに体力自慢であっても、彼らは生き物だ。必ず体力は底を尽きて動けなくなるはずだ。更に竜巻に吹き飛ばされて小さくない怪我を負っているのだ。地上数メートルから落下して怪我をしないのは猫か物の怪くらいだろう。

 だからこと異常なのだ。

 そのことに気づいた瞬間、彼は山を見上げた。視線の先には吸血鬼の兄妹がいるはずだ。自分はほとんど動いていないので体力的にも問題はないが、彼らは違う。

 これは援護にいった方がいいかもしれない。そう思った韋駄天の行動は早かった。

 まずは進路上の障害物をどけるためにいままでに作った竜巻よりも一回り以上大きい竜巻を放った。

 一直線に進む竜巻は韋駄天の操作通りに突き進み、邪魔な降魔師たちを四方八方に散らすとその間を飛行して一番近い人だかりに向かった。

 前列、中列、後列、と降魔師の行列を三人で分けて担当することになったのだが、実際には最上兄が相対する人間の数が一番少なく、逆に妹が一番多い。韋駄天はその中間辺りの敵を相手取っている。

 元々は三人で平等に分けるはずだったのだが、韋駄天の竜巻と最上兄の威圧感が効果抜群だったようで、前後に尻込み、というよりは押し込まれた人間たちは揃って中列に留まったのだ。これは三人にとっても完全な誤算だった。

 ぐんぐんと中列の位置に近づいていった韋駄天は即座に手を前にかざして竜巻を作り出した。

 ごうごうと唸る竜巻は木々をなぎ倒しながら斜面を横断していく。凄まじい風圧に最上妹に取り付いていた人間たちは吹き飛び、もしくは転がっていった。

 自分の周囲から死なない人間が遠ざかったことで幾分か余裕を取り戻したのか、胸に手を当てながらほっと息をついて傍に降り立った韋駄天に目を向けて感謝の意を表わした。

 余裕が出たことは良いことだが、途端に同じ状況に陥っているであろう兄が心配になってくる。彼の安否を確かめたいが既にこちらに向かってのしのしと覚束なく歩く人形のような虚ろな顔をした人間たちが迫ってきていた。

 小さいなりではあるが神が操る風を意に介すこともない人間たちに思わず焦りの色を浮かべるが、ここで慌てても仕方がないと思い直して大きく深呼吸をした。

 幸い、一人ではないのだ。

 前向きに考えながらも体力を回復させるべく、今は韋駄天が次々と作り出す竜巻に任せて体から少し力を抜いてゆっくりと呼吸を繰り返す。

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