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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
満月の光は優しく
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猛攻

 原始的ではあるが今のように密集戦では絶大な効果を望むことが出来るであろう丸太落としを使った最上兄は、まずは様子を見ることにした。

 加速度的に転がり落ちていく丸太の行き先はもちろん降魔師たちだ。

 階段の出っ張った直線の縁に導かれるまま、余計な接触がないように綺麗に整えられた十本の丸太が我先にと止まることなく進んでいく。

 がたがたと振動音がわずかに聞こえているが、光源の一つもないこの山の暗闇の中では警戒されるだけで罠が見破られることはないだろう。相手はただの人間だ。物の怪と渡り合えとはいえ身体能力は何一つ変わっていない。つまり、昼間では対処できるはずの丸太落としも、夜では見つけることすら出来ないということだ。仮に夜目が効く人間がいたところで人間の視力では数メートルの範囲が限界で余程近づいていないと丸太は見えない。そして見えたところで丸太の速度はかなり出ているはずだ。避けることも防ぐことも不可能だろう。

 だからこそ、必ず成功してあの一団に大打撃を与えることが出来るのだ。

 そう、出来るはずだった。

 連なって流れてくる丸太に足を取られ、或いは前列の混乱に巻き込まれた後列の人間が四方八方に散らばって韋駄天の風の餌食にされる最上兄がもっとも求める夢想は霞の雫となって儚くも飛び散って消えていった。

 まるで丸太が魔法を掛けられてバームクーヘンに変化したようだった。

 降魔師たちの集団で、先頭を歩いている男が何事かを喚いた。恐らく落ちてくる丸太に気づいた悲鳴なのだろうがよほど混乱していたのか最上兄には聞き取れなかった。だが近くにいた降魔師たちにははっきりと理解出来たようだ。一度だけ集団がざわめいた次の瞬間。最上兄は風を頬に感じた。

 そして最上兄は目を見張った。

 一陣の風が吹き抜け、十本の丸太は全て同じ角度、同じ幅で輪切りにされていた。

 軸が細くなったことでまともに転がることが出来なくなった木々はバランスを失ってばたばたと倒れていった。例え上手く転がっていったとしても、ほんの数センチ程度の質量ではわずかな痛みも感じないだろう。それどころか薄くスライスされたハムのような幅の丸太もあるのだ。これではどうしようもない。

 こうして、最上兄たちが仕掛けた罠の一つは破壊されてしまった。それも初撃で一番の打撃力があったはずのものがだ。

 だが最上兄は作戦の一つが破綻しただけで逃げ出すような臆病者ではない。

 とはいえ、ここから先は本当の実力勝負になるだろう。いや一対多に実力もなにもあったものではない。もはや蹂躙だろう。ただそれは人間同士だっだ場合の話だ。

 人間に対するのが類稀なる力の持ち主だったとしたらどうなるのだろうか。降魔師約百人を相手に互角以上に戦えるのだろうか。

 闇の中に佇む最上兄を見つけたらしい最前列の人間が大声で後列に知らせるように叫んだ。それ即ち戦いの鐘の音だ。

 自分を鼓舞する雄叫びを上げながら、先頭の男が突っ込んできた。その勢いに続くように後ろの人間も雄叫びを上げながら一気に走り出した。

 圧倒的ともいえる物量に、最上兄は尻込みするどころか不敵に口角を吊り上げた。余裕を以て間合いをとり、狩衣の懐に手を突っ込んで札を取り出そうとした男に一瞬で接近し、その喉元を締め上げたまま駆け出した。

 首を締められたまま引き摺られる男の抵抗に、痛くも痒くもないと男の首を更に強く締め上げ、助走をつけた勢いそのままに階下で待ち構えている降魔師たち目掛けて男を投げつけた。

 情けない悲鳴と共に男を受け止めた最前列の集団に、最上兄は飛び込んで乱世戦に持ち込んだ。

 コンクリートをも砕く腕力に物言わせ、手当たり次第に殴りつける最上兄は女性の降魔師が少数ながらも混じっていることに気づいた。しかし気づいただけだ。

 この非常時にフェミニスト精神を発揮するわけもなく、手加減する気もない。

 年若い男を無造作に放り投げてから札を構えた女性降魔師の鳩尾を一切の躊躇いなく殴り飛ばした。

 仰向けに倒れていった女性の行方を見届けることなく、最上兄は今にも自分を攻撃しようとする人間を最優先に叩き潰していった。

 反撃の隙を与えない最上兄の猛攻に、前線が崩壊するのは目前だった。

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