表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モノノケカミカミ  作者: 水島緑
満月の光は優しく
87/131

人質

突然ですが、今日の更新でモノカミは完結になります。

いままでありが――うそです。エイプリルフールねたやってみたかっただけです

モノカミはまだまだ続きます。ストックもまだまだあるんで楽しんでもらえれば幸いです

「おやおや、顔が真っ青ですよ? 大丈夫ですか?」

 誰のせいだ、という文句は辛うじて飲み込むことが出来た。

 目の前で愉悦の笑みを浮かべている糸目の男は実に嫌らしい性格をしている。今の気遣いですらも自身の欲求を満たすためのものだ。決して彼女の心配をしているわけではない。それどころかこの糸目の男は自分以外の命ですらどうでもいいのだ。人の生き死にまでも己の欲求の糧としているような男だ。他人への気遣いは嫌み混じりのものでしかない。

 男はそういってじろじろの顔を眺めた後、隠すことのない嘲笑を漏らした。

 そう、この男は全てを知っている。いや、全てを話すように脅迫されたのだ。

 西野桃花という友人を人質にされて。

 衛が半ば暴走し、お稲荷様を傷つけた降魔師たちの片腕をもぎ取って叩きのめした後、鳴海明日香は人知れずに山から降りていた。

 そのときはとにかく死にかけている降魔師たちを助けて貰おう、そして卑劣にもほどがある彼らのやり方を抗議しようと父親を含めた降魔師の拠点と呼べる建物に向かっていた。

 凄惨な光景を見た衝撃と、血にまみれた知り合い、衛の尋常ではない怒りに触れた恐怖でほとんど息を吐きながら彼女は必死に走っていた。

 頭の中で繰り返し再生される赤色に染まった人々を追い出すように頭を振ると、鳴海は更に加速した。

 惨たらしい映像を回想しないように、鳴海は今までの経緯とこれからやるべきことを思い浮かべた。

 降魔師たちが動き出したのは桜庭町に住み着く物の怪を殲滅するためだ。

 しかしこれには借りのある鳴海はあまり積極的ではない。何より彼女の友人、西野桃花が命を救われている。更に桃花自身が己を助けてくれた物の怪と仲良くしたいと言っている。それにはあまり賛成出来ないが鳴海も物の怪たちに良くして貰った上にむやみやたらと人間に危害を加えるものたちばかりではないと知っている。だからこそ消極的で、衛を罠に掛けることも気が進んではいなかった。

 そして今や鳴海の心は父を含めた降魔師たちについていけなくなっている。確かに物の怪の殲滅が目的だが、見た目だけとはいえ明らかに幼い少女一人を相手に大人の男が大人数で、更にリンチまがいのことをしていたのだ。鳴海は桃花の影響もあってかそこまで物の怪に悪感情は持っていない。町に住み着いた物の怪たちにも善良な者もいて、人間に親切をしてくれる者たちもいるのだ。それを知っている故に鳴海は殲滅作戦が決まった後でもずっと悩んでいるのだ。

 決定的だったのは衛をおびきよせるときだ。ほとんど交流がなかったが彼は自分たちを助けてくれたのだ。恩人に仇なすことが平気な訳ではないし、ただ騙すことも心苦しい。恩知らずにもなりたくはなかった。だから鳴海はお稲荷様と一緒に衛を逃がそうと計画していた。

 計画していたのだが、失敗した。

 別動隊の降魔師たちがお稲荷様を包囲し、面識のある鳴海が衛をそこに連れていく。そして手が出せない衛を先に倒してからお稲荷様を倒すというのが作戦だった。

 鳴海はそれを利用しようとした。

 包囲されているお稲荷様の元に衛を連れていくまでは作戦通りだが、衛とお稲荷様が揃ったところで包囲している降魔師たちを攻撃して混乱させ、それに乗じて二人をこの町から逃がすつもりだったのだ。

 別動隊の降魔師たちが独断で動かなければ鳴海の計画は成功していたのだ。

 しかし計画は頓挫し、お稲荷様も最悪の状態になってしまった。もうこうなってしまえば裏から手を回して工作するよりも、表から戦いに挑んだ方がいい。少なくとも策略が得意ではない鳴海はそう考えていた。

 少しばかり短絡的ではあるが、このまま寝返りを宣言するほど馬鹿ではない。何かしら降魔師たちの作戦を頭に叩き込めば幾分か衛たちが有利になるだろう。

 もう作戦拠点も目前だ。いつの間にか辺鄙な土地も町の中心も駆け抜けていた鳴海は覚悟を決めて全力でい小池の脇を走った。

 がらりと引き戸を開けて見知った家の廊下を走り抜けていく。

 降魔師たちの拠点は鳴海の家、光鳴寺だった。

 彼女の目的地、応接間の前で鳴海はひとまず息を整える。ついでに乱れた服装も整えた。

 目的は独断先行をして大怪我を負った降魔師たちの回収と、これからの作戦の聞き取り。

 よし、と気合いを入れて鳴海は障子を開けた。

 木製の低いテーブルを挟んで父と糸目の男が会話していたようで、二人とも目を点にして鳴海を見た。

 だが、鳴海の視界の中にはたった一つしか映っていなかった。

「嘘……なんで……」

 目を見開いて思わず口を押さえた鳴海は畳の上に転がって涙を流す桃花に手を伸ばした。

 猿轡を嵌められ、縄で手足を拘束された西野桃花の姿が、鳴海の瞳一杯に映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ