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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
満月の光は優しく
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やさしい言葉

 顔色が悪いままのトーコがお稲荷様に付き添い、最上妹と韋駄天がお稲荷様の服を崩れ落ちた社務所跡で使えるものがないか探すことになった。

 血まみれの服では目が覚めたときに気分が悪くなるだろうという配慮だ。お稲荷様に付き添っているトーコを見ればわかるが、血を見続けるのは精神的によろしいことではない。現に落ち着いたはずのトーコの顔色が戻るどころか更に青くなっていることから見てわかるだろう。

 最上兄は階段手前で見張りをしている。妹と同じように服探しを手伝おうとしたがすぐに蹴り出されたのだ。

 いやらしいことしそうって言われた、とは落ち込んだ最上兄の弁だ。

 落ち込んでいた最上兄もなんとか立ち直ってしっかりと階下を見張り始めた。

 お稲荷様がもう心配ないとはいえ、いまだに衛は意識を失ったまま目を覚ましていない。

 最上妹の血液を飲ませたあと数分はわずかな反応が何度かあったが今ではそれもなくなってしまった。

 もしかしたら失敗したのでは、とつい頭によぎってしまい、その度にトーは何度も思い直した。

 目の前に縋るべき神がいるのにも関わらず何もできないことはひどく歯がゆいものだった。

 またしても考えが悪い方向に向かい始めた直後、社務所跡地から大きな音が響いた。

 積み重なった瓦礫が落下したのだろう、その近くにいる最上妹と韋駄天を心配して不安げな面持ちになるが幸い砂埃は大きく広がらず、心配せずとも無事な様子がすぐに見えた。

 最上妹が薄桃色のワンピースを両手に持ち、ばさばさと振って砂を払っていた。汚れが少なく、破損もしていなかった服がそのワンピースだけだったようだ。

 と、何を思ったのか韋駄天が最上妹が持つワンピースを軽く引っ張り、口を動かした。トーコの位置からでは遠ずきて聞こえないが口論しているようではないのでひとまず静観することにした。

 トーコとお稲荷様のところに戻ろうとした最上妹は呼び止められたことに首を傾げていたが一つ頷くとワンピースを韋駄天に手渡した。すると彼はおもむろに風を操り、三十センチほどの超小型の渦を目の前に出現させた。そしてその渦にワンピースを持った手を突っ込み、ワンピースを離した。

 途端に縦横無尽に暴れ回るワンピースにトーコは驚くが風の勢いはそれほど強くはなく、見た限りでは洗濯機に入れたように見えた。

 トーコの見立て通り韋駄天は風を操り擬似的な洗濯機を作ったようで、最上妹が手で服を綺麗にしていたのをじれったく思ったのだろう。

 服の繊維にまで入り込んでいた砂粒が見事に吹き飛んでいった。心なしか最上妹が手で払ったときよりも綺麗に見えるが決して錯覚ではないのだろう。

「ん、ん……」

 トーコのすぐ傍から声がした。

 それは聞き心地の良い声で、ずっと待ち望んでいたものだった。

 じわりと視界が涙でぼやける。

 すっと瞼が開いて、優しい鳶色の目が空をなぞった。

「紺ちゃん……っ!」

「トーコ、ちゃん? どうしたの? 大丈夫?」

 たった今目覚めたばかりだというのに、確実に自身の体に変調が起きているはずなのに、それを隠してトーコを心配そうに見上げるお稲荷様の声にこらえていた涙がぽろぽろと流れていく。

「ごめんなさいっ、ア、アタシのせいで紺ちゃんが……紺ちゃんが!」

「トーコちゃんのせいじゃないよ。ほら、もう大丈夫だから、ね? そんなに泣いたらわたしまで悲しくなっちゃうよ」

 血の気が薄い顔のまま冗談めかして微笑むお稲荷様の姿と気遣いに、トーコはますます声を上げて泣いた。

 その姿を見た三人は大慌てでお稲荷様の下に駆け寄っていった。

 それからしばらくの間、自分でも感情が制御出来ないらしいトーコを四人で必死に宥め賺すことになった。

 トーコが泣き止んで恥ずかしそうにしながら涙を拭い、ふと目が合ったお稲荷様と小さく微笑み合うと彼女は勢い良くお稲荷様に抱きついた。

 仰向けに倒れそうになったお稲荷様がわたわたと手を動かしてなんとかバランスをとって一息つくと、改めてトーコににっこりと笑って見せた。

 ありがとう、という言葉と一緒に。

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