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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
古より十字架は今と変わらず
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生きる為の

 星は瞬き、風は踊る。数メートル間隔に設置されている鋼色の街灯の明かりが、静かに流れる川で反射していた。

 川の中程から顔を出したのは牛の頭をもつ牛鬼。蜘蛛の体と八本の足で水を掻き分け、流れを気にせずゆったりと上陸する。ぶるりと大きな体を震わせ、全身に生える針の様な鋭い産毛に滴る水を切る。水滴のほとんどを浴びた烏天狗と牛鬼が睨み合った。爛々と光る赤い複眼でじろりとねめつけると突然その姿を変えた。まるで喪服の様な暗い色合いの着物に、漆黒の艶やかな長髪。肌はあまり露出していないが色白で、服を高く押し上げる程豊満な胸を持っている。帯に挟んだ扇を仰ぐ牛鬼は、先程の面妖な姿とは正反対な、過剰な程妖艶で大人の雰囲気を醸し出している美しい姿だった。

 大抵の化け物達は群れない。気の合う者や、縁のある者などとは仲良くするが、思いの他、反りが合わなかったり、本能的に嫌悪して、仲が悪いのだ。しかし、住み心地の良い住居を守ろうとするのは共通で、だからこそこうして続々と集まっているのだ。

 牛鬼から水滴を身に浴びた烏天狗は、面倒臭そうに体を震わせ水を飛ばし、牛鬼を睥睨すると星空に飛び立った。それを追いかけ、鎌鼬三匹組が仲良く空を見上げた。

 衛は最上兄妹と一緒にいた。夜食代わりのトマトジュースを渡し、手持ち無沙汰になった衛は集まった面々を見回していた。

 着物美人の牛鬼。鷹の様に上空を旋回する烏天狗。トマトジュースのスチール缶を素手でいとも容易く握り潰す吸血鬼兄妹。皆は緊張した様子もなく、至って自然体だった。

 知り合い以外では和洋中合わせて三十体程いた。しかしこの数はあくまでも戦える化け物の数だ。集まっていない者の大半は戦えない化け物達で、戦えるが怠慢な、やる気のない化け物も来ていない。

「おーかみくーん」

 その声は聞き慣れたものだった。駆け寄ってくるお稲荷様は、嬉しそうに尻尾と手を振りながら、輝いた笑顔を浮かべていたが、残念な事に衛には見えていなかった。狐面を着けた狐神。声を噛み殺して笑う最上兄の頬を妹は張り飛ばした。

「吸くんはどうしたの?」

 息を整えてからの一言。その声に敏感に反応したのは他ならぬ最上兄だった。

「おお! コンチャン聞いてよ。カレンチャンが、この! 絹のような美しいほっぺを」

 手刀を喉に喰らって最上兄は撃沈した。

 お稲荷様は不思議そうな顔をしたが、砂利を踏む音と周りが殺気立った事に気が付き身をすくませた。

「おーおー。三十? 四十? 多いねぇ。どうする煌」

 左手に鞘を、右手に刀を握った古今が土手の上から身を乗り出してニヤニヤと笑っていた。

「私がやる」

 土手を越え、三十を超える化け物を憮然と見据える煌。

 突如として川から飛び出た一匹の河童が、煌に向かって水鉄砲を噴き出した。だがそれが煌に当たる事なく、砂利を吹き飛ばすだけに終わった。それを一瞥もせず、呆ける河童に瞬く間に肉薄した煌は、手刀を河童の頭に落とし、皿ごと股まで真っ二つに切り捨てた。

 飛び散る血飛沫をそのままに、足早に化け物達に近付く。それを見た化け物達は身を固くするが、風と共に動いた鎌鼬がふくらはぎを切り裂いたの見て、一斉に飛びかかった。だが、血が噴き出したのは一瞬で、すぐさま修道服ごと塞がった。もう一度鎌鼬達が切り着けようとするが、煌に近づく前に胴を割られて絶命した。

 鎌鼬の断末魔を聞いて、時間が止まった。唖然として煌を見つめる化け物達。煌が一歩足を踏み出すと、化け物達は弾かれたように我先にと逃げ出した。

 砂を巻き上げて逃げていく化け物を牛鬼は半目で睨みつけていた。仰いでいた扇を顎の下に持っていき、その紅色の唇から薄青の吐息を煌に吹き付けた。

 薄い青色の毒の吐息を吸い込む前に、煌は右腕を横薙ぎに払った。突風が巻き起こり、放射状に散布された薄青の毒をかき消しながら牛鬼を足踏みさせた。

 出遅れ、ただ眺めていた衛とお稲荷様は眼前に広がった光景に顔を引きつらせた。

 何もかも、圧倒的だった。

 ちっ、と舌打ちした牛鬼は元の姿に戻ると、蜘蛛の足を操り、砂利を次々と弾き飛ばしながら、煌に近付いていく。そして足の爪が届く距離まで近付くと今まで動かしていた前足を振り上げ、風を切りながら振り下ろした。爪が己の腹に突き刺さる前に煌は足を掴み、捻折りながら牛鬼の巨体を放り投げた。

 這い蹲って悲鳴を上げる牛鬼に近付く煌の前に割り込んで入る人影があった。

 恐れることもなく、気負うもことなく、至って平然に歩を進めていく最上兄妹。情けないことに、悠然と歩くのは妹だけで、兄の方は首根っこを掴まれて半ば無理やり歩かされていた。

 それを見た衛も土手から見下ろす古今に目を向けた。


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