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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
満月の光は優しく
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テレパシー

 写真の中で笑顔を浮かべる二人を見て、最上妹は何度目かもわからぬため息をこぼした。

 誰もが微笑ましいと感じる仲の良さそうな写真の中の二人、幼いころの自分を見ていつから兄の顔が見れなくなったのだろうと妹は考える。

 こうして写真に残る兄はしっかりと見れるのだが、いざ本人を目の前にすれば何故だか心が落ち着かなくなってしまい、思いもよらない行動を取ってしまう。

 何故そんなことになってしまったのか覚えておらず、どうすれば治るのかもわからない。確かなことは方向性がはっきりしないものの、自分が兄のことが好きで、兄も自分のことを想っていてくれているということだ。

 また一つため息を積んだ瞬間、壁の額縁が落下した。

 答えが出せない自分を、小さかった頃の自分が笑っているような気がして少し嫌な気分になった。額縁はしっかりと掛けられていたはずなのだが、長く使っていてがたが来たのか、はたまた何か不吉なことが起きる予兆なのか、とにかく最上妹は気にしないことにした。

 ただ、兄は現在外にいるのだ。

 それだけが心に引っかかっている。

 目的も当てもなくふらりと外に出た最上兄は、珍しくため息をこぼした。いつでも笑顔を浮かべている人当たりの良い最上兄にしてはその表情もずいぶんと暗い。

 昼間に太陽が出ていたが、もう既に地平線の向こうに沈んでしまっている。早くも冬を思わせる秋口の冷たい風に体を縮こませた。

 奇しくも、最上兄妹は同じことで頭を悩ませていた。

 妹が自分に向けて笑顔を見せなくなったのはいつからだっただろうか。

 昔は可愛らしい笑顔を見せてくれたんだけどな、と遠い記憶に残る幼い妹の笑顔を思い出して眩しそうに目を細めた。

 と、遠くで一台の自動車がヘッドライトもつけずにこちらに向かってきた。危ないな、と思いながら歩道の端に体を寄せて運悪く赤に変わった信号機の下で待つことにした。

 それにしてもと最上兄は周囲を見回した。

 いくら陽が落ちる時間が早くなったとはいえ、外出することを億劫に思うほど寒くなったとはいえ、不気味なほどに人気がない。

 弱い街灯の下でたった一人で信号が変わるのを待つのは大の大人であっても怖いものだ。

 風が強くなってきたこともあって一人でいるのがどことなく不安に感じてしまう。

 ポケットに入れて温めていた手ですっかり冷えてしまった頬を擦る。じんわりと指の温度が頬に伝わってわずかに暖かくなるがすぐに吹き付けてきた冷風に指の体温共々奪われてしまった。

 もう一度指を温めようとポケットに突っ込んで、最上兄は明かりをつけていない自動車が信号を無視してこっちに向かっていることに気づいた。

 周りの他の人間はいない。明らかに最上兄を轢こうとしている。

 更に自動車が加速しているのを見て、最上兄は持ち前の運動能力を披露した。

 指先がわずかに悴んでいて少しだけ危ないかもと思ったが、もうすぐそこまで自動車が迫ってきていた。

 既に左右に避ける余裕もない。今の今まで気付かなかったことが悔やまれるが過ぎたことを悔いても仕方ないだろう。

 自動車のエンジンの重低音が響いてきて、それが目前にまで近づいたとき、最上兄は跳び上がった。

 バスケットボール選手も真っ青な見事な跳躍で軽々と三メートルの高さまで跳び、更にその高さから地面に着地するまでの滞空時間を合わせれば足元で自動車が通り過ぎることを待つのは簡単だった。

 限界速度近くまでスピードを上げていた故に最上兄のしたを過ぎるのは一秒あるかないかといったところだった。フロントガラスにはスモークが張られていて運転手の人相はわからなかったが、どちらにせよご愁傷様だろう。

 背後で激しい追突音を聞きながら、最上兄は悠々と着地した。

「ちゃんと周りを見て運転しないとね」

 ちらりと背後を振り返り、最上兄は何事もなかったかのように歩きだした。

 電柱にぶつかった車は煙を上げて沈黙していた。

 運転手がどうなったかわからない。しかし興味もない。

 最上兄はそれから一度も振り返ることもなく、病院にも警察にも連絡することはなかった。

 敵対する者に慈悲も情けも必要ない。それが吸血鬼だ。

 行き先も決まらず再びぶらぶらとさまよい始めた史上兄は、ふと気付いた。

 何者かに自分の命を狙われた。もしかしたら妹にもなにか悪いことが起きるのではないか?

 いてもたってもいられなくなった最上兄は、猛ダッシュで駆け出した。

 脳裏に妹と衛の姿が浮かんだ。

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