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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
古より十字架は今と変わらず
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夕暮れ烏

 夕日の差す窓枠からこつこつと音がしていた。机に突っ伏し、腕を枕代わりにして眠っていた衛は徐々に鮮明になっていく頭の中でそれを聞いた。目を細めて怪訝な顔でそちらを見遣ると、首に小さな木箱を掲げた一羽のカラスが嘴に薄い紙切れを銜え、こつこつと硝子を叩いていた。それを烏天狗が化けたモノだと嗅覚で確認し、夕日に照らされたフローリングを歩いて窓を開けた。烏天狗は頭を下げると軽快にサッシに飛び乗り、銜えた紙切れを差し出した。えらく達筆な文字を衛が読み始めると烏天狗は静かに飛んで行った。

 差出人は稲荷神社のお稲荷様だった。

 <教会>の人間が町に来たという趣の一文を読み、衛は嫌そうな顔をしてため息を吐いた。追伸には、また遊びに来て欲しいと書かれていた。エクレアを持っていってあげようと衛は思った。

 この町の警備員を自称する烏天狗はカラスに化けて町中の化け物達に<教会>の来訪を告げていた。

 衛にお稲荷様直々の手紙を渡すと烏天狗は窓から飛び立った。その直ぐ後に目に付いたのは衛の友人の最上兄妹だった。買い物帰りらしき私服の二人の目の前で地面に降りると首の木箱から衛に渡したものと同じ紙切れを銜えて差し出した。しゃがんで受け取った最上妹が文面に目を走らせると、烏天狗をじっと見つめたまま兄に紙切れを渡した。

「なんだって!? 教会が来たって大変じゃないか! やっぱりボク達も行かなきゃ危ないよね? でもカレンチャンに危ないことさせたくないし……。あー、でもマモルクンも行くんだよね? 行くんでしょ? 行くんだよなぁ。それならカレンチャンはボクが守るとして……でもマモルクンが守ってくれた方が安心出来るかも。あ、今のはダジャレじゃないよ? 違うよ? でも笑ってもいいんだよ? え? 面白くない?」

 静かに烏天狗を見つめていた最上妹はこくんと一つ頷き、整然と立ち上がった。そのまま華麗にターンを決め、最上兄と向き合うと、密かに握り締めていた拳を喉に叩きつけた。妙な声を発しながらのたうちまわる兄の背中を踏みつけつつ、無表情のままで唇に舌を這わせた。

「大丈夫かな……」

 ふと足元を見ると、烏天狗は既にいなくなっていた。

 最上兄の一人言に呆れて無言でその場を離れた烏天狗は、次々と化け物の元に舞い降り、紙切れを渡していく。町中の化け物に配り終えた頃には既に辺りは深い藍色に沈んでいた。


 本日未明、町内への教会の侵入を確認。非戦闘可能者は速やかに避難すべし。戦闘可能者は教会の撃退及び殺害を目的として動いてもらいたい。尚、一切の手段は問わない。集合場所は……。


 魔ある所に修道士は辿り着く。それが破滅の道だとしても、この世の魔を根絶する使命があるのだ。

 夕陽がステンドグラスでまばゆいばかりに輝き、鏡のように大理石の床にその絵を写した。聖堂の主祭壇に掲げられている十字架に跪いて祈りを捧げる女に、刀を担いだ美丈夫が声を掛けた。

「もうバレたみたいだなぁ。河川敷に集まってるみたいだぞ?」

「わかっている。用意は済んだのか古今(こきん)

 女の背後に立った古今は、鍔を一度上下させ、刀を鳴らした。

「おーう。お前さんは……って聞くまでもないか。じゃあ行こうぜ(すめらぎ)

「ふん。足を引っ張るなよ」

 煌と呼ばれた女は足音を立てずに歩き出した。その後ろを着いていく男も無音で歩く。その姿はとても神に祈る修道士には見えなかった。

 辺りは藍色に染まり始めていた。

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