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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
風よりも早く!
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おませさん

 鼻血を出しながらどこか幸せそうな顔で気絶した衛に気づいたのはそれからしばらく経ったころだった。とはいつてもトーコが自分で気付いたわけではなく、後ろで見ていたトーコの仇敵に肩を叩かれてだが。

 気だるそうに熱の浮かんだ表情を引っ込め名残惜しそうに衛の体を離すと、改めて怪訝な表情で振り返るトーコに肩を竦めて大きくため息を漏らしたのは見えない敵ではなく、見紛うことない子供だった。年は小学校高学年くらいだろうか。年齢に比例して身長はトーコよりも低いがどこか威圧感を撒き散らすような風貌だ。特に目つきの悪い眼は大人顔負けである。

 そんな眼光鋭い小学生に見覚えの無いトーコは困惑の眼差しを向けた。

 子供はにやりと意地悪く笑うと後ろ手に隠し持っていたトーコのスカートを彼女の鼻先に突き出した。近すぎてピントの合わないそれを見る為に顔を離すと見覚えのある布が。

 ぎょっと目を向いたトーコが慌てて手を伸ばすがそれよりも早く子供はトーコの頭より高くスカートを投げ、更に風を吹かすと前方数メートル先にスカートがひらひらと落ちた。

「アタシの……このっ」

 一度振り返って子供を睨むと手の平でお尻を隠しながらスカートを取りにいった。手で隠すとはいっても全て隠しきれるほどトーコの手は大きくない。指の隙間から見える縞々模様に子供はご満悦でうなずいた。

 さっと掴んだスカートをいそいそと履き服装を直すとキッと子供を睨んで大股で近付く。それを見た子供は笑みを深くするとふわりと浮かび上がった。

 それに驚いて足と止めるものの、目の前の子供がスカートを脱がした犯人、そして衛に怪我をさせた張本人だと思い出すとその綺麗な柳眉を寄せた。

 きつく叱ってやろうか、それとも肉体言語で分からせてやろうか、と少々物騒な考えになるのも致し方ない。だがそれとは別に目の前の子供が妙な威圧感は放っていることが気になる。姿を自在に消せることといい、風を操ることといい、明らかに普通の子供ではない。自分が戦闘向きではないことは身を持って知っているし、頼みの綱の衛も今は気を失っている。少しばかり怖さを感じるが子供を叱るのは誰かがやらないことだ。覚悟を決めて握りこぶしを作る。

 衛の横を通って大股で肩を怒らせながら近付くトーコに、ふわふわと浮きながら首を傾げた子供は好奇心に満ちた目を向ける。しかしトーコは握りこぶしを振り上げると躊躇いもなくつんつんと逆立つ髪が群生した子供の頭に振り下ろした。所謂拳骨というやつだ。

「いっ……てぇー! なにすんだよこらぁ!」

 両手で殴られた頭を押さえながら痛みに浮かんだ涙で眼を潤ませながらきっとトーコを睨んだ。

 幼い顔つきで涙ながらに睨まれるのは罪悪感を感じるが、先ほどまでの所業を思いだして気持ちを持ち直すと目を吊り上げて怒鳴りつけようとした。だがその瞬間、子供はトーコに人差し指う向け、それと同時にトーコの体はふわりと浮かび上がり空中を浮遊し始めた。

「ひゃっ! な、なに? なんで浮いてるの!?」

 足が地から離れて酷く狼狽するトーコを見てニンマリと嫌らしく笑うと、尻餅をついたような格好のまま浮遊するトーコを移動させて何故か衛の顔の真上に持っていった。

「ちょっ……何するつもりなの! 降ろして! 降ろしてってば!」

 子供を睨みながらも、頬をほんのり赤くさせて、だが不安げな面持ちで眼下の衛をちらちらと見て何度もスカートを引っ張って中を見られないように悪戦苦闘していた。もっとも衛は気を失っているし、既にトーコの下着を見てしまっているからあまり意味のない行為だ。それでも気にしてしまうのは女の子ということだろう。

 率先して人の嫌がることをする悪ガキというか、にやつく中年おやじの顔というか、やはり子供っぽくない少年は益々口角を上げると突きつけた指をぐるりと一回転させた。その動作と全く同じにトーコの体が一回転、ではなく半回転した。ちょうどうつ伏せになる格好だ。スカートの後ろを押さえていたトーコは今度は慌てて前を押さえる。後ろより前のほうが恥ずかしいのは明白だろう。

 何を思い付いたのか、はっとした表情を浮かべた子供は指を下に向ける。同じように空中で身動きの取れないトーコの体が下降していき――衛の体にくっついた。

「ぁんっ! な、なに?」

 艶かしい喘ぎ声を漏らして身を捩るトーコの眼前にはちょうど衛の股間が。思わず仰け反ったトーコの柔らかな下着がわずかに触れていた衛の鼻先に食い込んだ。

「んぅっ……。え? 嘘でしょ?」

 思わぬ刺激に振り返ったこトーコは今自分が物凄く破廉恥な格好でいることに気付き一瞬で顔を熟れた林檎のように赤くした。

 衛の上から退こうとしても体が押さえ付けられたように動かない。思い出し、眼光鋭く子供を睨めば大当たり。にまにまとだらしない顔で笑っていた。一瞬とはいえ自らの恥ずかしい姿を見られた羞恥に耳まで赤くして体は激しく捩るトーコを更に風で押し付けさせ――腰周りを重点的に――ぷるぷると足を突っ張らせて耐えるトーコに気持ち悪い笑顔を浮かべた。

「うぅぅぅ……」

 意識の無い衛の鼻に自分の恥ずかしいところを押し付けているような構図が頭の中に客観的な視点で浮かび上がり羞恥のあまり涙がこぼれた。それでどうにかなるわけではなく、妖しい背徳感ともどかしい刺激の板挟みになったトーコは体を震わせてうなり声を上げた。

 眼前には衛の股間がある。その立派であろうものに顔を擦り付けたいと思い慌てて否定する、ということを繰り返しているうちに段々と表情が蕩け、目もとろんと怪しくなり、ひびの入った理性が粉砕されようとしたときのことだった。

「あ! てんくんどこ行ってたの!? 探したんだから……トーコちゃん?」

 その声に我に返ったトーコは前を見遣る。するとそこにはトーコと衛、更に子供に視線を往復させるお稲荷様が不思議そうな表情を浮かべていた。

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