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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
風よりも早く!
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正義の味方

 トーコの姿を見るよりも早く、忍び寄ってきた激痛の足音が衛に辿り着いた。

 まるで堰きとめられていたように、水風船が破裂する瞬間に似た血の噴出が始まった。

 まだ、痛みはない。痛みがない内にもっと前へ!

 止まらない血で無機質なアスファルトに色を足しながらただ駆ける。

 覚束ない足取りでどれだけ進めたのかはわからない。それでも随分と前に行けたのか、待ち焦がれていた匂いが衛の鼻をくすぐった。

 風に乗ったトーコの匂いが鼻腔を刺激したとたんに気が緩んだのか、がっくりを片膝ついたと同時に激痛が衛の体を貫いた。たとえるならまるで、削ぎ取られた傷口が更に炙られるような痛みと熱を持って衛の痛覚をこれでもかというほど叩きのめした。

 それでも、すぐ傍にいて何者かに怯えているであろうトーコを恐がらせないように無事なもう片手で傷を抑えるより先に頬ごと口を掴み無理矢理悲鳴を押さえ込んだ。

 痛みのためか、ぶるぶると震える指先を握る。感覚は鈍いが幸い神経を傷付けていないようで、まだなんとか動かせる。

 ぐっと足に力を入れて駆け出そうとする。刹那、衛の右前方の景色が音もなくぐにゃりと歪んだ。

 これは先ほどの風と同じだ、と直感した衛は真横に転がって避ける。振り返って見ればアスファルトの地面をごっそりと抉って風の刃は四散した。

 その威力に息を呑んだ。不可視な上にアスファルトさえも抉る強さ。なんの冗談だろうか。未だに流血する腕を横目で見遣り背筋を冷たくした。

 次の風が来る前にトーコの元まで行こうと衛は体制を整えて走る。

 先ほどの押し付ける風よりも随分を気が楽だ。もちろん一撃必殺の刃が飛んでくることに気をつけなければならないが体力を著しく減らすこともないし、なかなか前進できないことに苛立ちを感じることもない。

 ようやくトーコを視界の先に確認できた。とはいえ衛の人外な視力で見えてるのでトーコはもちろん気付いていない。

 そのトーコは何故か白黒縞々の下着を露出したまま蹲っている。吹き荒ぶ風の所為で動けないようにも見える。ただ、トーコの周りで宙を飛び回っているのはなんだろうか。しばし唖然と見つめた後、顔を真っ赤にしてトーコから視線を引っぺがした衛は高速で動き回る謎の物体を注視した。

 それはまるで蠅を見ているようだった。むちゃくちゃな軌道で飛び回るそれを掴もうとしてトーコが手を伸ばすが、からかうように更に加速して周りを飛び回っている。

 風に引っ張られるように見える物体に集中する。

 とそのとき。

「スカート返してってばぁっ! もうやだよぉ……」

 そういってえぐえぐと泣き出してしまったトーコの言葉に衛の思考は停止する。

 スカート? 良く見てみれば確かにフリルが付いたひらひらしたスカートだ。なんでスカート? スカートが飛んだ? だからトーコは下着姿なのか。

 ぶびっと、鼻血が噴き出して衛は慌てて目を逸らした。

 ともかく、気を取り直して衛はトーコに近づいていく。もちろん鼻血を拭うのも忘れない。下着姿のトーコがスカートを取り戻さない限り視界はほとんど使えないといっていいだろう。トーコを襲った何者かを退治する前に貧血で倒れてしまう恐れがある。というより、妙な話ではあるが鼻血を噴き出して倒れる自信がある。

 ぎゅっと目を瞑って聴覚と嗅覚を頼りに歩く。ふらふらと危ない足取りだが、一応前には進んでる。

 聴覚よりも嗅覚の優れている衛はくんくんと鼻を鳴らす。狼の血が流れた衛の嗅覚を意識して使えば犬並みのものになる。様々な匂いを嗅ぎ分けてトーコの匂いを辿っていく。

 と、ここまでは警察犬なり飼い主を探すなりする犬と変わらないが、衛は人間だ。邪な想像をしているわけではないが、瞼の裏に焼きついたらしいトーコの艶姿が匂いが濃くなるにつれて鮮明に思い浮かんでくる。頭を振って追い出そうとするが思いのほか強く焼きついてしまっていてなかなか離れない。やはり匂いを嗅がなければトーコに近づけもしないので聴覚のみに頼るという選択肢は却下だ。視覚で探すのはもはや論外だ。

 沸騰しそうなほど熱く煮えた頭で、更に脳裏には目尻を涙で濡らし頬を羞恥で上気させた下着姿のトーコが映っていた。

 いらない想像が働き何故か上半身も白黒縞々のお揃いな下着に成り代わっていた。

 ぶばっ、と勢い良く鼻血を噴き出して熟れたりんごのように顔を真っ赤に染め上げた。

 制服の袖で鼻血を拭い、衛は進む。例え血液がなくなってもトーコを助けるのだと。

 衛がある意味壮絶な覚悟を決めた一方で、スカートを取り返すのを諦めたトーコはぽろぽろと涙を零しながらも下品な笑い声を上げて自分のスカートを振り回す見えない物の怪を親の敵とばかりに睨みつけた。

 その眼光に怯えたのか否か、スカートを振り回すのをやめて表通りの方に体を向けたらしい。もちろん見えないのであくまでも気配でだ。

 何軒もの建物の向こう。ちょうどマンホールの真横だった。

「ちっ、さっきから邪魔しやがって」

 先ほど出していた下品な声と同一人物だとは思えない重々しい声に釣られてトーコも道の先を見遣ると、願ってやまなかった少年の姿があった。

 ぽろぽろと嬉し涙を零して衛を見るトーコの視線はこれまでに無いほど熱いものだった。

「おにーさん……」

 親愛と情愛の篭った声が知らずにこぼれた。その横で、再び舌打ちの音。心底衛が気に入らないようだ。

 だがトーコにはそんな些細なことは気にも留めなかった。まるでよくある正義の味方のように、危機的な状況で現れた衛をどこか呆けてながらもじっと見つめていた。

えーっと。はい。

自分でもあまり信じられないのですが、「エリュシオンライトノベルコンテスト」の一次審査の中間発表にこの作品が選ばれていました。

ここから更に一月八日まで待たなくてはならないのですが、すごく緊張してます。

一次審査通過まで胃が持つのかどうか。

……持ってほしいところです。

それと五十話超えました。文字数が少ないくせにごめんなさい。

PS,大々的に宣伝されるってことがこれなんですね。アクセス数がもうすごいことになってます。

これからも精進します。

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