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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
風よりも早く!
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男たちの楽園

 蝉の鳴き声が聞こえなくなり、夏が終わりに入った頃のこと。

 うだる暑さもなりを潜め、少しずつではあるが秋に近づく快適さも実感し始めていた。とはいえ、太陽の日差しが刺すように強いことは変わらず、外出する人々はやはり涼しげな格好をしている。路上の花壇に咲く花々が強風に煽られて一枚、花びらを飛ばした。

 今日はひどく風が強い一日だった。何か不吉なことが起こる前兆なのか、それとも人知れずに台風が近づいている所為なのか。ともかく、一度風が吹けばふらついてしまうような強風が吹き続けていた。

 不思議なことに年若い女性に向かって、もっといえばスカートを着用した女子生徒や会社員に頻繁に風が吹くのだ。それも不自然に、狙ったように真下から風が吹き上がるのだ。そうなれば当然スカートは捲れるもので、朝も早くからそこかしこで甲高い悲鳴が響いていた。

 偶然それを目撃したは男共は皆鼻息荒く、しかし踊り子には手を触れずのルールに従っていた。その心中はいわずもがな、全員が全員まったくもって同じだったそうな。

 さて、そんな異常気象の中でも通学通勤に問題ないと判断したお偉い方は情け容赦なく登校あるいは出勤させ、その方針を甘受しなければならない者たちは嫌々ながらも従い、今日も変わりない一日を過ごす。

 その例に漏れず、全快した衛も自分の席に頬杖をついて、一向に弱まることのない風ががたがたと激しく窓を揺らす様子を退屈そうに眺めていた。どことなく疲れているようにも見えるのは何故か。普段は健康優良児である衛が血が足らずふらふらと貧血気味なのは何故なのだろうか。

 原因その一である最上妹は上の空の衛に首を傾げ、目の前でぱたぱた手を振っていた。そこへ近づくのは肩を上下させ荒い息を吐く最上兄で、またの名を原因その二と呼ぶ。

 鼻息も荒く、何故か唇を腫らしながらも陶酔とした表情の最上兄はぐったりとしている衛の肩を軽く叩いて一言。

「今日は神が降りた日だね、マモルクン」

 その言葉に何を思い出したのか、衛は一筋の血を鼻から垂らして机に突っ伏した。

 貧血気味の原因は鼻からの出血である。

 いつも通りの通学路を歩くだけなのだが、今日はその普段から通っている道が衛にとっては致死性の地雷で埋め尽くされていた。あちらこちらで上がる悲鳴に思わず目を向けてしまえば色鮮やかな下着と瑞々しい太腿の眩しいコラボレーションが視界に入り、目を背けた先でも同じような光景が続いていったのだ。だが、本当の地獄、または天国はその先にあったのだ。

 桜庭高校のほぼ全女子生徒のスカートが捲り上がる場所。つまりは校門だ。出血多量でぶっ倒れる男子生徒が続出し、彼らを保健室に運ぼうとする心優しい生徒たちも女子の下着に渾身のストレートを喰らったかのように鼻血を噴き出し、軒並みノックアウトされていった。そうなれば当然保健室は満員になり、比較的軽症の男子はふらつきながらも自分の教室へ向かっていった。

 最上兄のようにいくら鼻血を出そうとも血走った眼を女子に向けることを止めない猛者たちもいるが、彼らはことごとく女子たちに制裁を加えられていた。

 建物の中は風が入り込まないので外での不思議現象は起こらず、落胆の声を上げる男子たちに女子生徒一同は猛檎類を思わせる眼光でひたすら睨みつけていた。不可抗力で見てしまった男子たちもそれに含まれているのは致し方ないといえるだろう。犬に噛まれたとでも思ってほしいところである。

 衛の席の正面に陣取ってしゃがみ込み、先ほどから机に突っ伏して動かない彼の旋毛をつんつんと押して首を傾げている最上妹は、不意にその左巻きの旋毛を力強く押し込んだ。

 あまりの激痛に悲鳴を上げ、最上妹の指を払いのけて突っ伏したまま顔だけを上げて、下痢にされては困ると彼女を睨む。すると誰かが窓を開けたのだろうか、思わぬ強風が教室内に飛び込んできた。それは不思議と女子生徒のスカートを捲る風で、眼前には驚いて立ち上がった最上妹のスカートが揺れていた。一瞬の間があってから、最上妹のスカートが捲り上がった。

 見えたのは強い色香を漂わせる黒いガーターベルトに、同色のパンツに包まれた下半身、そしてきめ細かく肌触りの良さそうな真っ白く長い美脚だった。

 そして甲高い悲鳴。

 鼻の両穴から血を噴き出した衛は一瞬で意識を彼方に飛ばし、机に強く顔面を打ち付けた。

 隣で最上兄が「理想郷(ユートピア)だ!理想郷がここに!」と周りの男子たちと共に歓喜の声を上げ、羞恥に顔を真っ赤に染めた妹や、不気味な闘気を横溢する女子たちにぼっこぼこの滅多打ちにされていた。

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