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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
こんこん
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十円玉

「これって……もしかしてコックリさん?」

 へたり込んだままのトーコに手を貸して立ち上がらせてから先に行ったお稲荷様に続いて教室の中に目を向ける衛たちは隔絶した異質さを感じる一角を見た。

 目を向けろといわんばかり月光に照らされて幻想的に浮かび上がる二つの机が気になったのか真っ先にそちらに目を向けたトーコが気づいたように言った。

 誰一人いない静まり返った教室にその声は良く響き、どこか沈んだ表情でお稲荷様は頷いて机の上を指差した。

「私が感じたのはあれのせいで呼ばれた子だったみたい」

 コックリさんと呼ばれる霊の正体は低俗な動物霊たちだ。呪いの一種、降霊術の一つであるコックリさんを始めると、狐や狸などの霊が呼ばれてやってくるのだ。その霊が十円玉に宿り、質問に沿って動いていく、これがコックリさんの正体である。

 科学的な見解では十円玉に置いた指が不覚筋動を起こした結果十円玉は動き、その動きが霊の仕業だと思い込んだ末にそのままそれが自己暗示に繋がり精神に異常をきたすのだという。

 人間の好奇心は時に恐ろしい現象を起こすことがある。その最たるものがこのコックリさんだ。

 良識ある大人たちから「やってはいけない」と言われなかっただろうか? 実際に人が亡くなり報道されなかっただろうか?

 時が流れ、次第に廃れていった遊びを見つけ好奇心の赴くままに遊ぶことでまた「やってはいけない」遊びが再び広まる。

 好奇心の末に、人は命を失うのだ。

「そろそろ来る」

 教室の入り口を睨みつけた衛が抑揚のない声で言った。張り詰めた弓の緊張感を漂わせて廊下に繋がる出入り口を睨む眼光は鋭く、臨戦態勢で油断なく身構える姿にトーコたちは息を呑む。

 遠くから幾つもの足音が連続で反響して聞こえた。次第に近づくそれに全員が教室の出入り口を見た瞬間、不意打ちに背後から激しい衝突音、次いで耳をつんざく甲高い粉砕音が響いた。

 ぴくりとも動かず一瞥すらしない衛以外の者は驚愕の表情で振り返った。床に叩きつけられて粉々に砕けたガラスがそこかしこに飛び散り、遮るもののなくなった窓枠の奥に広がる底無しの闇から白いもやを纏わりつかせた少女が飛び込んできた。

 唇まで白く生気のない顔でガラスを踏み潰し、整然と並んだ机と椅子を無造作に押しのけて脱力した前かがみの姿勢でトーコたちに近づく桜庭高校の制服を着た少女が一人。体中に擦り傷を作り、中には血液の滲む深い傷もあるのだが虚ろな表情には痛みさえ感じておらず、ただマリオネットのように脱力した体で首を僅かに持ち上げて光のない瞳にトーコたちを映していた。一目見て正気ではないと理解するのは実に容易いことだ。

 背後でガラスが砕け散った音を聞きながら衛はすぐそこまで接近した足音に集中していた。

 濃くなっていく人間の匂いに衛は腰を軽く落とした。

 一際大きい足音が目の前で聞こえた刹那、眼下に影が踊った。

 引き戸間際の壁面に手の平が現れ、その指先が力んだ直後、切羽詰まった表情の少女が体勢を崩しながらも教室に飛び込んできた。

 壁の角に指を引っ掛けて速度を維持したまま体を半回転させたために遠心力に引っ張られた下半身は大きくバランスを崩して自らの靴に躓き、たたらを踏んだ少女は前のめりのまま後方に片方の靴を放り飛ばして倒れ込んだ。

 痛快な速度で飛んでいった靴は幸運にも背後まで迫っていた白いもやを纏った追っ手の顔面に直撃した。その上突然の出来事に無防備だった追っ手は顔を押さえて小さく呻き、その場にひっくり返った。

 顔面から転びかけていた少女を、焦りの表情を浮かべつつもなんとか抱き留めた衛の胸に、少女は意図せず痛烈な頭突きを叩き込んだ。一瞬息が詰まり直後に猛烈な痛みが襲ってきた。

 咽せ返り、目尻に涙を浮かべながらも腕の中で眠る少女を見遣る。あまりの衝撃と蓄積した疲労が重なって気を失ってしまったのだ。頬には涙の跡がくっきりと残り、唇を強く噛み締めたために一筋の血が顎を伝っていた。制服はあちこち破れ砂や埃がついていていかにも逃げてきた風貌であり、良く見ればこの少女は登山の時に桃花と一緒に捕まっていた少女ではないか。ミキ、と友人に呼ばれていたのを衛は思い出した。

 胸の痛みを我慢しながら少女の体をゆっくりと床に横たえて、庇うようにその前に立つ。それは丁度もやを纏った追っ手、ミキと呼ばれた彼女の友人と対峙することだった。

 いつの間にかもう一人増えていたがそれは特に問題ではない。問題は如何にして彼女たちを正気に戻すかだ。怪しいのは少女の体に纏わりつく白いもやだが引き剥がせるのかもわからない。

 ふらりふらりとおぼつかない歩き方で近づく少女たちを前に、衛たちは各々身構えた。

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