鐘の音
降りしきる雨は、いつの間にか小雨に変わっていた。
昼食を食べてから、目的地の屋上に向かった衛と最上妹は曇天の下で広がる光景に、偶然にも同じ感想を持った。
多すぎじゃない?
濡れたコンクリートの上で同じくびしょびしょに濡れた少年少女たち。髪を短く刈り上げた目つきの悪い男子生徒を中心に、扇状に並んで間隔を開けて立つ十人前後の少年たちは降魔師見習いだ。
手に札や錫丈、数珠といった霊的な武装をしている全員は、この高校の生徒であり、無数にいる降魔師でもある。
昨日一昨日、それ以前などは一人だったにも関わらず、今日は今まで衛を退治しようと試み、返り討ちにあった全員が集結していた。本気も本気、大本気の布陣だった。
心なしか呆れた表情を浮かべる最上妹がぺろりと舌を回して唇を舐めた。
「ただでさえ質の悪いボンクラ降魔師ですのに、今度は数を揃えて来ましたか。本当に救われませんね。この程度の戦力ごときでワタクシたちを倒せると思っているんですか?」
この場にいる降魔師たちを纏めるリーダー的役割の刈り上げ男の隣にいる、金髪ピアスの不良風な男がその言葉に顔を真っ赤にして激昴し、下の階に聞こえんばかりの怒号を放った。
「うるせぇ化け物ッ! 気持ち悪ぃテメェら化け物は黙ってろッ! 今この場で地獄に叩き落としてやるッ!」
「出来るんですか? アナタ方に? 冗談は顔だけにしてください。今までワタクシたちに傷一つつけられなかったアナタ方が、ワタクシたちを本当に倒せるんですか? ……それに、化け物とひとくくりにしないでもらえますか? 不愉快です。あまりバカにしないでくれませんか? それにワタクシは吸血鬼、アナタ方がことごとく返り討ちにされているこの方は狼男ですよ。見分けすらもつかないのでしたら降魔師を辞めることをお勧めします」
「はッ! テメェらがそんなご大層なバケモンなわけあるか! テメェらは化けて出ただけの犬と蝙だろうがッ!」
今まで口を開かなかった降魔師の面々も声を張り上げて同意する。何を根拠に化けて出たものと判断したのかは疑問だが、衛は口に出さなかった。それよりも不良風の男が、化けた蝙と言った瞬間、総毛立つほどに美しく可憐に微笑み、一通りの身体能力が常人離れしている衛だけが知覚出来る程度の速度で、扇状に広がる右半分、不良風な男を除いた四人を一瞬にして昏倒させた。更に、突然倒れた仲間に驚愕して目を見開く不良風男の背後に周り、その首筋に手刀を当てた。
「うふふ……首と体がバイバイしたくなければ謝罪と訂正をした方がいいと思いますよ?」
「はッ、ざけんな! あんま舐めてっと叩き潰すぞこのくされ蝙がアッ……」
その瞬間、男の首が飛んだ……ように見えた。
「うふ、うふふふふふふ」
どしゃっ、と雨粒から生まれた水溜まりに崩れ落ちた男と、見惚れるほど美しく恐ろしい笑顔を最上妹が更に深めた。
唖然としていた降魔師たちが慌てて不良風男の生死を確認し、しっかりと首が繋がっていれば脈も安定していた。なにせ首が飛ぶのを幻視するほどに鋭さだったのだ。そして切断しないまでも打撃による衝撃で首の骨が折れる可能性もあったのだが、衛を含め誰も気づいてはいなかった。
ますます笑みを深めた最上妹に、降魔師見習いたちは顔面蒼白になりがたがたと震え、気の弱そうな女子にいたっては腰を抜かしたまま泣きじゃくってしまっていた。
常日頃から笑顔を見せない最上妹が笑う条件の一つ、それが怒ることだ。
「今日は平和的に話し合いで済まそうと思っていましたけど、もう無理だと思います」
にっこりと、可憐に、美しく、妖艶に、そして不気味に。笑顔とは裏腹に拳を握って肩を怒りで震えさせながら。
「降魔師の皆さんは死刑、だと思います」
普段の眠たげな目はどこへやら、ぱっちりと開いた最上級の笑顔を振りまいた。
ドミノ倒しの如く連鎖的に降魔師たちが倒れていく奇妙な光景を見ながら、兄がいないと口数の多い最上妹を意外に思った。
ふっと漂う冷たい風の中に、濃厚な血の匂いを嗅ぎ取った衛は眉をひそめた。
授業開始の鐘は、まだ鳴っていない。
自分のパソコンが欲しいです。
家族のパソコンを借りられるには借りられるのですが、ノリノリでパソコン使おうとしていてもパスワード変えられたりしていてすっごく悲しくなります。
アゲアゲだったテンションはどこに使えばいいのかわからず、項垂れながらこれを一から書き書きしました。
もうすんごい切ない。
ともあれ、誤字脱字報告や感想など、がしがしください。




