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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
過激乙女と鬼ごっこ
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同じ友達

「ね、おにーさんさ、アタシのこと何も聞かないの?」

「ん……話さない理由があるじゃないんですか?」

 誰もいないゆえに電気のついていないオフィスビルから無事に出て、先程衛たちが戦った道とは別の小道をいき、すっかり日の落ちた周辺を見回していた衛は覇気のないトーコに違和感を感じて首を傾げた。

「でも、ずっと付きまとったり、尻尾があったり、気持ち悪いでしょ?」

 慣れている、とでも言うような作った笑顔を浮かべ、それでいて瞳を不安に揺らして尻すぼみになるトーコを見て衛は黙り込んだ。

 同じように暴露して、拒絶された過去があることは余程鈍くない限り、トーコの状態を見れば簡単に想像出来るだろう。

 何も言わない衛にトーコの不安は膨らみ続け、息が詰まるほど胸が痛んだ。じわりと滲んだ涙をごまかすように、暗くなった路地裏の隅にあるポリバケツの上で、尻尾を揺らしながら目を細めて肉球を舐める鼠色の猫に目を向けた。トーコの視線に気づいたらしく、トーコと目を合わせる猫に多少癒やされたトーコは、衛に気づかれないように目元拭った。

「いや、僕も尻尾生えますから」

 立ち止まって猫を撫でるトーコに振り返った衛は、黙ってまで考えた言葉を赤い瞳を見つめて言った。

 何を言っているかわからない、と困惑した顔のトーコだったか、十数えるよりも早く合点がいった表情に本物の笑顔足して衛に微笑んだ。

「あっ、そうだね。おにーさんってばわんちゃんになってたし!」

 くすくすと笑うトーコに恥ずかしくなった衛は目を逸らしつつ、正体不明のシルクハット男やトーコ自身のことを聞いた。

 紳士会という組織に所属しているのがシルクハット男だ。

 紳士会は己の欲望に忠実で、人間だろうが物の怪だろうがお構いなしに気に入った者を誘拐する、町の外部から来た犯罪集団だ。物の怪を捕らえるということはそういったことの知識もあるため、シルクハット男が使った札と結界は物の怪に十分通用するのだ。

 そしてその紳士会に狙われているトーコは夢魔、淫魔とも呼ばれる物の怪だ。

 夢魔という種族は女しかおらず、その全てが非常に美形であり、男性はもちろん女性をも虜にする美貌を持っているのだ。その為、己の欲望に忠実な紳士会の人間につけ狙われているのだ。

 小さい角や悪魔の尻尾等、数ある夢魔の特徴の中で、最大の特徴といえば精気を喰らうことだ。夢魔には人間、物の怪関係無しに精気の味がわかるようで、特にお気に召した精気の持ち主には友好的に接するらしい。

「そういえばおにーさんって人間じゃないでしょ?」

「……半分くらい、人間じゃないです」

 苦笑して衛は言う。今や完全に吹っ切れたのか、その表情に悲しみや憎しみの色はなかった。

「やっぱり? だからおにーさんの精気ってあんなに美味しいんだ」

「そ……そうですか」

 いつの間に、と衛は首を傾げ、トーコは精気の味を思い出したのか恍惚とした表情を浮かべていた。

 実のところトーコはホテルの一件で、衛が目覚める前に一度精気を吸い取っていたのだ。これまで吸ってきた精気は味も量も軒並み悪く、半ば諦めながらつまみ食いしたのだが衛の精気は驚くほどに美味しく、吸っても吸っても精気がなくならない為大層気に入ったのだ。それが理由でしつこく衛に付き纏っていたのだが、夢魔の知識に疎い衛は気づいていない。

 会話が途切れ、どこか気まずげな雰囲気が漂う。どちらからともなく黙り込んだ二人は互いを気にしながら沈黙を続けていた。

「ね、おにーさん。……また、またあの変態たちがアタシを追いかけてきたら守ってくれる?」

 静寂を切り裂いたのはやはりトーコだった。

「ん……。いいですけど、その」

「なぁに?」

 言うか、言わざるか。生まれて初めてかもしれない言葉に悩んで口ごもる衛を、怪訝そうな顔で見上げるトーコの顔を見つめ、最大級の勇気を振り絞って一歩を踏み出す。

「僕と……、その、友達になってくれますか?」

 思わず足を止め、呆然と恥ずかしげな衛の顔を凝視するトーコに、失敗したか? と内心で怯えつつ、返答を待つ。しかしいつまで経ってもトーコが動くことはなく、流石に我慢出来なくなった衛はトーコの目の前で手のひらを振った。

「あの……」

「ぷっ……」

 捨てられた子犬の顔で様子を窺う衛に、耳と尻尾を幻視して耐え切れなくなったトーコは噴き出した。

「あっはは! おにーさんだめだって! その顔反則だよぉ。ひぃーお腹痛いよぉー」

 転げ回る勢いで大笑いし、べしべしと衛の肩を叩いて目尻に浮かんだ涙を拭うと、トーコのあんまりな反応にすねてそっぽを向いた衛の正面に回り込んで、月より美麗なとびっきりの笑顔をみせた。

「もっちろん!」

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