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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
古より十字架は今と変わらず
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サンコー

 衣替えが終わり、ワイシャツをしっとりと濡らした同級生が放つ、十五、十六の少女とは思えない年不相応な色香に惑う男子達。

 今日は雨が降っている。

 この雨が降る事によって人間の中は感情が落ち込む者もいる。だが、妖怪やモンスターは例外であり、衛にも大した変化はない筈なのだが、彼は机に肘を付き、不機嫌そうに目を細めていた。その原因は衛の傍らに立つ、数年前に日本に来た帰国子女で、いずれ男女の三高に当てはまるであろう、金髪碧眼の美少年と美少女の双子の兄妹だった。線の細い柔和な顔立ち、高い鼻梁の上には知的で涼しげな切れ長の青い瞳。双子故にその端正な顔も殆ど同じだった。些か、肌色が不健康そうな青白さだが本人達によれば問題はないらしい。

 本人曰く、チャームポイントの尖る八重歯をきらりと光らせ、息継ぎしてる? と聞きたくなる程べらべらと、マシンガンというよりガトリングトークと言った方が正しい、高速話術を得意とする、肩程の長さの後ろ髪を一つに纏めた兄の最上至(さいじょういたる)と、兄曰わく、天然物の長い睫を瞬かせ、眠そうな半眼でそんな兄の高速話術に適当に相槌を打ち、表情筋を動かさずに衛をジッと見つめる妹、最上可憐(さいじょうかれん)。流麗なストレートの金髪に、端正な顔立ちをしているが感情があまり顔にでないのか、ほとんど無表情であり、更には兄の前だとめったに喋らないこの少女はそれなりに付き合いのある衛から見ても何を考えているのかさっぱりわからなかった。ただ、最上兄がいなければ喋ることもある。

「なぁ、マモルクン。彼らの言い分を聞かなかったボクも悪いのかもしれない。でもこの完全完璧完全無欠容姿端麗運動神経抜群頭脳明晰さらには数々の乙女を虜にする罪な男そして薔薇が似合う最高最強最上至がわざわざ、いいかい? “わざわざ”、もう一回言うよ? “わ”ざ“わ“ざ”女性に対する暴力的、恐喝的行為は控え、全うな人生を歩み、色づく青春を……。あっ、そこの美しいキミ、そうそう下着まで雨に濡れたであろうキミキミ。一つ頼みたいことがあるんだがいいかい? おお助かるよ。それでは後ろを向いて前かがみになって貰えるかい? そうそうそう! いいよいいよ! 雨に濡れたワイシャツがブラのラインを映し出す! アウッ!? 痛い、痛いよカレンチャンボクはただ親切な人に頼んで合法的に透けブラを眺めているだけ痛い! 何もビンタすることないだろ!? 嗚呼待って行かないでボクの理想郷(ユートピア)がぁぁぁ!」

 情け容赦なくボディーブローを兄に打ち込む妹をなんとも言えない表情で眺めて、鳴咽と救助の声が聞こえた気がしていたが、衛は黙って机に突っ伏した。いつもの光景だった。

 不意に風切り音が聞こえた。昼下がりの食堂のような喧騒の中で、それが聞こえたのは衛だけだった。顔を伏せたまま右腕を水平に持ち上げ、飛来したそれを掴み取った。ぱん、風船が破裂したような音と共に手の平に痺れに似た痛みが走り、そのまま握り潰した。

 手の平を開けてみれば、幾何学模様が描かれた札がぐしゃぐしゃになっていた。衛と同類である最上兄妹も音と、魔払いの効力に気が付き、衛に駆け寄った。この札が衛の下へ飛んで来る場合、大抵昼休みに、衛からみれば決闘もどき、札の持ち主からすれば、この町に蔓延る魔物退治なのだが、このクラスに降魔師関係の人間はいないものの、入学当時から毎日毎日二ヶ月も続けばうんざりとするもので。

「また、彼女たちかい? あの子は凝りずに何度も頑張るねぇ……。その点頭脳明晰なボクは華麗に……」

「いい加減に決着をつけた方が良いと思います」

 またもや弾丸の尽きないガトリングトークをおっ始めた最上兄の後ろ首にいつもの無表情で手刀を落として気絶させると、最上妹は肌色に対して異様に血色が良い真っ赤な舌をちらりと覗かせ、同じく真っ赤な下唇の左端のほくろをぺろりと舐めてから口火を切った。

 眠そうな半目だがほくろを舐める行為が妙に色っぽく、思わず喉を鳴らした衛は、最上妹から赤くなった顔を背けて言う。

「それは、そうだけど……」

 額を完全に隠し、瞳に掛かる程の前髪を揺らして、鈴を転がしたようなウィスパーボイスで囁いた。

「ワタクシに任せてください」

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