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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
過激乙女と鬼ごっこ
28/131

大神狼


 目を覚ました衛が真っ先に感じたのは臀部の違和感だった。身を起こして下を見ると、なるほど確かに尻尾がズボンを押し膨らませていた。こうなってしまってはしばらくは元に戻らない。仕方なしに衛はふさふさな尻尾を遊ばせながら薄暗い紫の部屋を見回した。

 怪しい雰囲気を作る紫色の照明はいかにも目に悪そうで、天井に向けていた首をぐいっと戻すと、大型テレビが黒い棚の中に収まっていて、脇の引き出しが少し開いていた。覗き込んでみれば青少年には危ないタイトルのパッケージがずらりと収納されていて、衛は悲鳴を上げて引き出しを閉めた。ため息を一つ吐いて部屋の真ん中に我が物顔で陣取るやたらと大きいベッドの端に腰掛けると再び興味深げに部屋を見渡して固まった。

 彼氏彼女関係の男女が利用するホテル。

 ようやくそれに気付いた衛は場違いさのあまり緊張し、何故か正座でベッドに座り直した。背筋を伸ばして動きを止めた衛は部屋の出口を探した。ベッドの足側、テレビが格納されている方向に安っぽい扉を見つけた。扉の対岸には曇ったガラス戸があって、耳を澄ますとシャワーの音が確認出来た。

 シャワー? え、誰?

 口を開けたまま身を固くした衛は、きゅっ、と蛇口を捻る音にびくりと震えた。錆びついたように動かない体を無理やり動かしてそろそろと部屋を出ようベッドを降りるが、どうにも動作が遅く、焦る心中とは裏腹にようやく四つん這いで動き出した。そんな緩慢動きでは部屋から出ることも出来ず、案の定曇ったガラス戸が開いた。

「あ、おにーさん。起きたんだ」

 あらゆる甘味を煮詰めたような甘い声に笑顔を浮かべた。

 髪の水気をタオルで拭いつつ浴室から出てきた少女の足の間から悪魔の尻尾に似たものが見えた気がしたが、そんな些細な事柄は少女の格好の前にあっけなく消し飛ばされた。ガッチガチに固まった衛の硬直が解けると瞬時に顔を真っ赤にして悲鳴を上げながらベッドから落下した。それなりに段差があったようで下半身をベッド上に残したまましたたかに打ち付けた鼻を撫でて悶えた。

 目尻に浮かんだ涙を拭って顔を上げると、眼前には肌色の柔らかそうな何か。水滴が輪郭を伝って落ちるのを赤い顔のまままじまじと見た衛はぐいっと首を持ち上げた。白と肌色に挟まれた影。それがなんなのかわからず更に視線を上げると腕を後ろに組んだ少女が、もの凄く満足そうな笑顔で見下ろしていた。一度視線を戻し、二色に挟まれた影の掛かった溝を見る。俗に言う、絶対領域。

 「うひゃあ!」と悲鳴を上げた衛は腕だけを使ってベッドの上へと飛び乗るとそのまま後退さりしてベッドから反対側に落っこちた。顔面と後頭部にサンドイッチの痛みに悶絶しながら、衛は顔を真っ赤にして保存されてしまった先ほどの記憶を飛ばそうと試みた。だが年頃の青少年の記憶は並大抵のことでは消えることもなく、それがむらむらとくるものであればあるほど強く焼き付いていた。頭を振れば振るほどインプットされた映像が鮮明に浮かんできて、衛は鼻の奥がじんわりと暖かくなるのを覚えて、慌てて鼻筋を押さえた。

「あはっ。だいじょーぶ?」

 目を瞑って煩悩は払っているとからかい混じりの楽しそうな声が聞こえた。恐る恐る目を開けると、ベッドの上で四つん這いになり、片手を衛に差し伸べるバスタオル姿の少女だった。しっとりと濡れる髪を火照った肌に貼り付け、その瑞々しい肢体を見せびらかすような姿は非常に扇情的だった。

 ベッド下に転がる衛を助け起こそうとした所為で上体は深く沈み、ぐっと強調された胸の谷間がちょうど衛の眼前に飛び込んできた。顔を真っ赤にして目を逸らすも、視線の行き着く先が、水に濡れた肌だとか、バスタオルから覗く鎖骨だとか、むにむにと柔らかそうな太腿だとか、鷲掴みにした胸だとか、とにかく男の性が反応してあらぬところに眼が向いた。顔ごと逸らして奮闘するも虚しく鼻血が溢れ、少女の手を転がって避けた衛はそのまま部屋を飛び出した。

 逃げるように階段を飛び降り、フロントに駆け込んで外に飛び出すと、ホテル脇の駐車場に隠れ、背中を預けた金網が音を立て、それを聞きながら首を上に向けた。

 鼻筋を押さえて鼻血を止めようとする衛は深々と嘆息を漏らして、ふりふりと実に正直な反応を見せる尻尾に泣きたくなった。

今日が更新日のことをすっかり忘れてました……

以前のような時間が取れなくなってしまったので書き溜めを作るのも遅れてしまいそうです。とはいえ絶対に五日に一回を間違えることはないとは思います。

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