森林浴もどき
視界の隅々まで広がる緑色に辟易しながら、衛は最後尾を歩いていく。目の前には最上妹がいて、その柔らかな金髪から微かに香る甘い匂いが衛の嗅覚を直撃して頬を赤らめたが、慌てて頭を振って煩悩を追い払った。
一列に並んで進む一行は何故か鳴海を先頭にし、後ろの山姫が道案内をして迷うことなく足を動かしていた。
空を見上げれば木の枝が出来損ないの屋根のように覆っていて、隙間だらけの天然屋根の間からは白っぽい太陽が傾き初めているのが見え、オリエンテーションで来ている四人は日がこれ以上沈む前に行方不明の二人を見つけなければならなかった。だが道案内もいるということで大して危機感を感じていない一行ではあるがそれでも足早に、早急に見つけ出すために、しかしピクニック気分で森を横断していた。
「まっ……だなの?」
土から半ばほどを出した木の根に蹴躓いた鳴海が、両手をせかせかと動かし体勢を直して取り繕って言った。
「もうすこし掛かりますよ」
鳴海が躓いた根を軽やかにぴょんと跳んで微笑んだ山姫は乱れた裾を直して歩く。
その後ろに続く山姥は飛び出た根っこを木っ端微塵に蹴り砕きながら何食わぬ顔であくびを飛ばした。山姥が木の根を粉砕する度に後ろの最上兄が一センチ程垂直に飛び上がって震えた。
太い幹の間縫うようにして歩き、さながらジャングルの景色の中をひたすら歩いて、一本の巨木の前で山姫が足を止めた。
その巨木は青々と瑞々しい葉で空を埋め尽くさんばかりに伸ばし、下から見上げれば存在を誇示するかのように一本だけ頭を突き出し、がっしりとした幹のうろには人一人入れる程度の穴がぽっかりと開いており、ほの暗い奥に微かに見える階段が地下へと繋いでいた。
どことなく不気味な穴を、山姫は怯えることなくくぐり、土で作られた階段を一列で降りていく。一定の間隔に蝋燭が配置され、淡い光がぼんやりと通路を照らしていた。土の匂いが充満するここは見た目通りに狭く、高身長の最上兄はかがみながら進んでいった。
階段を降りて踊り場らしき場所に出ると、山姥が先頭に立って先に行った。一行は無言のまま山姥の後をついていく。どうやらこの洞穴は一本道らしく、最奥部には薄く光が漏れる鉄製の扉がぽつんとあった。
山姥が扉の取ってを掴んで開けようとするが鍵が掛かっているようで、着物の袖に片手を突っ込むとぎらりと鈍く剣呑に輝く中華包丁を握り、上段から一文字に鉄の扉を切りつけた。
衛が慌てて耳を塞ぐのと同時に、甲高い金属音を響かせて中華包丁が鉄製の扉の真ん中を切り裂き、蝋燭よりも少し強い光が薄暗い通路に仄かに差し込んだ。
うわ、やば、こわ。鳴海と男性陣は揃って体を震わせて思った。
観音開きになった扉を山姥が蹴り開け、一人肩を怒らせてずんずんと進む。
鉄を断ち切った刃こぼれ一つない包丁を振りかざし、山姥が怒鳴った。
「山爺! また人っ子をさらったんか! ああ!?」
「来よったな鬼ババア。声がでかいんじゃ」
部屋の奥からぺたぺたと寄ってきたのは矮小な体躯で一本足の妖怪だった。
のんびりとした声を出した口から見える歯は鋸のように鋭く尖っており、扉をくぐってきた衛達を見たのは異様に大きい飛び出た目玉だった。鼠色の体毛に隠れたもう一つの目玉は豆粒のように小さく、布を巻き付けたような風貌はいかにも妖怪であった。
衛は山爺から視線を外し、埃っぽい部屋を見渡した。
仄暗い部屋には出入り口に蝋燭が数本並んでいるのみで、その半分以上が闇に包まれていた。だが衛には部屋の全てが見えており、闇に包まれた部屋の奥にはちょうど人が入れるような檻が三つ、その内二つの格子は南京錠で鍵を締められ、中には縄で手足を縛られ、目の縁に涙を浮かべた少女達が入れられていた。
檻の中に見覚えのある顔を見つけて、衛は目を細めて西野桃花を指差した。恐らくもうひとりはミキと呼ばれていた生徒だろう。
「あそこにいる」
衛声に目を見開いた鳴海は遮二無二駆ける。
見つけた。良かった、良かったっ!
声にならない声で叫んだ鳴海の瞳には透明な涙が浮かんでいた。
PV2000、ユニーク1000越えしました!
いやあ、嬉しいですね。
これからも精進します!




