おばあちゃんは好々爺でした
沈黙の小屋。
邦画タイトルに似たそんな言葉が衛の頭に浮かび、密かにため息を吐いて目を眇めた。
空気が死んでいると錯覚するほどの深い沈黙がこの場を支配していた。誰もが気まずく、口を閉ざしている。
小さなちゃぶ台を挟んで、怒りの形相で仁王立ちの山姥。対面には、流石に扉を壊したのは悪いと思っているのか、ばつの悪そうな顔をしながらもそっぽを向いた鳴海。
その横には自力で引き戸をなんとかどかした最上兄を含めた衛達が場の雰囲気に引っ張られて何故か正座で見守っていた。
「なにか言うことはないか?」
「ない」
「ああん?」
「な、ない」
「ほぉん」
「ない……です」
再び静寂。
勘違いで人の家を壊された山姥の怒りは当然だ。しかし鳴海も物の怪相手ではやはり頑固になるようで、譲れないどころか自分は悪くないの一点張りだった。どちらが悪いのかは客観的に見れば一目瞭然だが感情は別だ。嫌いな相手ならなおさら素直に認められないことだってある。それにしては度が過ぎていると思えなくもないが。
眠そうな目でぼーっと見つめる最上妹は成り行きを見守っているだけ、隣の最上兄は冷や汗をかきながら縮こまっていた。反対側の山姫はおろおろわたわたと顔を青くしてせわしなく目を泳がせていた。並んだ四人の一番端の衛は、最上妹と同じく傍観していたがこれ以上険悪になるようならいつでも割って入れるように身構えていた。
穴を開けんばかりに凝視する山姥。その鬼のような形相をふっと緩めて微笑んだ。
「なかなかどうして、肝が据わってる」
「へ?」
「今時の若い衆には珍しい。気に入ったぞ人っ子」
そう言ってから更に笑みを深くして困惑の表情を浮かべる鳴海の頭を優しい手つきで撫でた。百八十度変わった態度に戸惑いながら鳴海は二重人格かとも思ったがどうやら違うらしい。
「ちょっと、触んないでよ……」
片意地張って言うものの、やはり自分が悪いことは自覚しているのか、振り払うこともできずされるがままの鳴海に山姥はうむうむと頷いた。冷え切っていた温度が平温まで戻ったような気がした。
一方、あまりの急展開についていけない最上妹を除いた衛達は、揃ってあんぐりと口をあけて間の抜けた顔を浮かべていた。最上妹は変わらずの無表情だが、自身も同じような展開だったらしく何度か頷いていた。好々爺然とした態度はよく知っているらしく、山姫は優しく微笑んでいて。
気に入った相手を許してしまう山姥は人間のようだった。
和やかな雰囲気の中、てれてれと恥ずかしそうながらもされるがままにしている鳴海に怪訝な目を向けて最上兄が口を開いた。
「そ、それでこんなところにどうしたんだい?」
「え? ああ、友達……桃花を探してて、それで妖の気配がしたから」
「じゃあ、ボク達と一緒かな? 他のクラスの生徒がいなくなったって騒いでたからね」
「いなくなった? ふむ」
腕を組んで唸る山姥に視線が集中する。何か心当たりがあるらしく、皺だらけの顔を嫌そうにしかめた。
「やっぱり、あの人ですよねおばあちゃん」
その人物を山姫も見知っているようで、その真紅の瞳を瞬かせた。
「私が案内しましょうか?」
「む……姫が行くなら一緒に行こう。この男共では頼りないからの」
至極真面目な表情で二人を見る山姥に、衛と最上兄は心外だと唇を尖らせた。それを見た山姫は口元を袖で隠して小さく笑った。美しく上品に笑う山姫にだらしなく頬を緩ませて見惚れていた最上兄は山姥と妹の絶対零度の視線が突き刺さった。その視線から逃げようと慌てて外に飛び出す最上兄に呆れながらも衛も続く。
「あ、ちょっと。あたしも行くから!」
置いていかれそうに感じたのか、慌てて鳴海が声を上げた。そのまま立ち上がると扉のない玄関まで走っていき、靴を履いたところで振り返った。
「ほら、早くして! 桃花が危ないかもしれないんだから!」




