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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
マウンテン爺婆姫
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光る包丁

 急角度の傾斜に生い茂る樹木の間をいとも簡単にすり抜け疾走する影が二つ。他に森の中を行く人間がいないことをこれ幸いに、十二分に物の怪の力を発揮する衛たち。しかし衛はどことなく嫌そうなしかめ面をしていた。

 土からはみ出た木の根を軽く跳んで避け、全く速度を落とさずに、髪を靡かせ駆け抜ける様は動物の動きだった。

 最上兄のどてかい奇声と、周りの怪訝な視線に耐えられなくなった衛は、思わず最上兄の尻を蹴っ飛ばしてから逃げるように背後の森に突っ込んだ。

 行く手を阻む枝を少ない動きで避けていき、左右に視線を走らせる最上兄はいつになく真面目な表情をしていた。きりっとした顔は美男子と呼ぶに相応しく、そこらの女子なら一遍に虜にしてしまうであろう容貌だった。

 普段からこんな顔してれば妹も優しくなるんじゃないか? と考えつつ、その横顔から視線を外した。

 唐突に足を速めた最上兄は少し先を行く衛を追い越し、そのまま振り切るような速さで駆けていった。

 先ほどは奇声を上げ、情けない限りだったが、妹が絡むと途端に真剣になる最上兄の姿を知っている衛は、多少の疑問を感じつつも口を挟むことなくその流れる金髪を追いかけた。

 小さな木の葉に引っ付いた虫すらも鮮明に見える衛の目が、木々の間におどろおどろしい雰囲気を漂わせる藁葺屋根の小屋を見つけた。静寂が満たす森の中で、不気味な小屋と、その周囲が明らかに隔絶していることに気がついた。不可視の壁か、はなまた別の何かか、明らかな異質を感じるそこには、視界の全てに見える整然と立ち並ぶ木の一本も生えておらず、それどころか、土が剥き出し、雑草も、花も、落ちた葉すらも自ら避けている風だった。

 一切の動植物が見当たらないこの場所は見るからに恐ろしげな出で立ちで、ぐんぐんと近づくにつれて薄ら寒いものを背中に感じた。

 先行する最上兄もこの小屋を目指しているようで、少し勘が鋭いものならこんな異様な場所には目も向けないものだが、微塵の揺らぎも見せず一直線に進んでいる。

 徐々に藁葺き屋根の小屋に接近していく二人は、隔絶された一線の手前で立ち止まり、注意深く小屋を見回す。

 黄土色の壁には全体的にひび割れており、今にも崩れてしまいそうな印象だが、汚れがほとんどなく、藁の屋根共々不潔さを感じることはなかった。小屋の裏には古めかしい井戸が一つ佇み、縁側だろうか、そこは障子が開きっぱなしでなんとも不用心だった。

 警戒して先に進めないでいる衛を置き去りにして、堂々とした足取りで玄関前へと向かう最上兄。玄関で立ち止まり、喉を鳴らしたかと思えば大きく息を吸い込んだ。

「カレンチャァァァン!」

 あまりの大音量にびりびりと空気が震え、予想外の行動に耳の良い衛は目を回してふらついた。自分と同じように耳鳴りがするほど耳元で叫んでやろうと、覚束ない足取りで最上兄に近付く若干涙目の衛。その時、藁葺き屋根の小屋の中からどたどたと足音が響いた。

 がらっと玄関の引き戸が開き、鈍く光る何かが最上兄の鼻先をかすめた。「うひっ」と情けない悲鳴を上げて尻餅をついた最上兄は体をこわばらせながら恐る恐る見上げた。

 鬼の形相で、薄紫の着物を着た老婆。

 山に住む婆。

 そのまま、山姥である。

「うるさいんじゃボケェ!」

 怒号と共に投げられたのは中華包丁。鈍い音を立てて地面にめり込んだそれは丁度最上兄の股の間だった。

 ずりずりと後ずさる最上兄だが、眼光鋭く睨まれて動かなくなった。

 直前までの勇ましさはどこへやら。見上げながら震える最上兄の姿に、嘆息しつつ、やっぱりこれがらしい、と衛は思った。

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