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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
マウンテン爺婆姫
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迷子の迷子のこうもりさん?

 山の中腹、綺麗に整備された休憩所で生徒達は足を休めていた。

 円形の草地の広場には屋根付きのベンチに、鉄棒、滑り台、ブランコといった遊具がある一角に、根っこすら残さずに木々が切り取られた町を一望出来る一角があり、丁度良く今日は空も良く晴れ、眼下に広がる建物は小さく、道行く人たちは姿すら見えず、女子生徒達は色とりどりの景色を眺めては、ほうっと感嘆の声を無意識の内に漏らしていた。

 景色が楽しめる一角とは逆に、遊具の一角に寄り付く生徒はおらず、鈍く輝く様はまるで人気のなさに泣いている様だった。そもそもこんな場所に設置したのが間違いであったが、わざわざ指摘する者もおらず、虚しく放置されていた。

 時間は昼を少しばかり過ぎた頃。

 昼食後の休憩を、思い思いの過ごし方で満喫する生徒達の輪に外れて一人、二人。がっしりとした太く硬い木の幹に背を預け、背中の硬さを気にしつつも、のんびりと寛いでいるのは衛と最上兄である。

「ボクはそこでこう言ったんだ。何をしてるんだ、この男の風上にもおけぬ悪漢め! そのほのかに色づいた桜の蕾のような可憐な乙女に手を出すことはこのボク、このボク! が許さないぞ! さあ、今すぐその手を離しボクの華麗なる制裁を受けるがいい! って。そうしたらどうなったと思う? 聞いても驚かないでよ? なんと笑ったんだ。カバみたいに、いやバカみたいに大口を開けて笑い出したんだ! 可笑しいだろ? 可笑しいよね!? そう、君ならわかってくれると思ったよマモルクン。笑う要素なんてないのにそいつったらほんとにもう大笑いで、ついつい手が出てしまったよ」

 右から左にすっと抜ける最上兄の話に適当に相槌を打ち、やがて最上兄の口が止まらない事に気がついた衛の顔には、嫌そうな表情がいよいよ滲み出し、体をよじって幹に左半身を預け、機嫌良く語る最上兄に気づかれないように、頭の後ろで手を組み肘辺りで顔を隠した。きちんと二の腕で耳を塞ぐことも忘れない。脇腹を刺激する感触が少々気になるが、どちらかというとマシなのでそのまま我慢した。

 この休憩の後は一直線に山頂まで登り、そこで再び休憩を取った後、山を降りるという面白味のかけらもない予定だ。

 特にやることのない衛はふと遠くの声に集中した。最上兄の声が少しずつ薄くなっていき、それが気にならなくなった頃には鮮明で甲高い声が耳に入った。

「あれ、ミキは?」

「え? あ、ほんとだ。ミキー?」

「どこいっちゃったんだろ……」

 騒然とする女子たちに目を向ければ、あちこち回りながらいなくなった友人を探しているようだった。

 そのまま視線を回し、一周してから気が付いた。

 最上妹がいない。

 ぱっと身を起こして、しっかりと目を見開きながらもう一度視線を巡らせる。

 いない。

 突然起き上がった衛を間抜けな顔で見つめていた最上兄に小さく言う。視線はもう一周し終わりそうだった。

「お前の妹……いないぞ」

 ぎょっと目を剥いた最上兄が叫ぶのはその刹那の後だった。

「カレンチャァァァァァァン! 迷子!? 嘘でしょ!? ええっ? ちょ……カレンチャァァン!」


 最上兄が叫ぶ少し前。

 ミキ、と呼ばれた少女は山道を歩き初めた時からずっと、背中に視線を感じていた。気になって振り返っても誰もおらず、だが確かに視線を感じ、徐々に悪くなっていく顔色を懸命に隠しながら、後少しで休憩所、と視線を極力意識せず、自分を励ましてようやく広場に着き昼食休憩になった。奇妙なことに広場に入った途端に視線を感じなくなり、彼女は思い違いだと考えて安堵した。

 顔色の悪い彼女に友人達が口々に気遣う声を掛けるが、何でもない大丈夫、とごまかして、視線のことは一切話さなかった。彼女自身、錯覚だと認識していたので話すこともなかった。

 昼食を共に摂る約束をした友人達の近くにビニールシートを広げ、手元に弁当がないことに気づいた彼女は離れた場所に置いたリュックサックに向かった。その途中、広場に入ってからは一度も感じなかった視線を再び感じ、ぞくりと背筋が冷えた。

 わいわいと騒ぐ友人たちの声を聞きながらも、はっきりとわかる背後の気配に目眩がした。

 鼻息の荒い何かが動いた、と理解した直後、意識は暗転して闇に落ちた。

 待ち合わせの時間ぎりぎりに、涙目でやってきた鳴海と弁当をつつき合っていた桃花は、名前の知らない同級生が地面に引きずりこまれているのを見た。

 心臓が強く脈打つのを感じながら、完全に飲み込まれた少女がいた場所をじっと見た。

 落ち着け、落ち着け、と念仏のように繰り返しながら深呼吸を繰り返す桃花の傍に鳴海はいなかった。風に飛ばされたビニール袋を取りに席を立ったのだ。

 渦を描くようにぐにゃりと歪んだ地面がずるずると移動し、森の中に入っていった。周りの生徒は勿論、シートに座る生徒の真下を通った、悪いもの、に気づく人間はいなかった。霊感の強い桃花が一部始終を見てようやく気づいたのだ。気配の隠蔽に長けた何かに、知り合いの、人じゃない人達も気付いていない様子だった。

 このまま見なかった振りをすればあの人はきっと助からない、そう直感的に感じた桃花は誰も知らせることなく、見失わない内に追跡を始めた。

 紐を通して首に掛けている鳴海に貰ったお守りをそっと握った。

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