表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モノノケカミカミ  作者: 水島緑
霊視少女、克服する
17/131

偽物と本物

 昼下がりの涼しい風が吹き過ぎ、ざわざわと店先の宣伝旗がはためいた。

 随分と過ごし易い気候の空の下、衛たち四人は穏やかな町中を歩いていた。

 今通り過ぎた洋菓子店を名残惜しそうに最上妹が見つめていることに衛と最上兄は気づき、苦笑したが何もいうことはなかった。最上妹も心底残念そうな表情を浮かべていたが甘味の誘惑を振り切ったようだった。

 続いて和菓子店を通り過ぎた際にはもはや辛抱たまらなくなったのか、店頭に置いてある簡易メニュー代わりの食品サンプルの入ったプラスチックケースに張り付いてしまった。腕全体で抱きしめるようにケースの角を掴み、物欲しげな視線でケースの中の数々のサンプルを順番に見回した。その意地でも離れない強硬な姿勢で肩を揺すって離そうとする最上兄に無言の抗議を続けると頭を抱えた最上兄が帰りに好きなだけ買うと約束するといままでの態度はどこへやら、意気揚々と歩き出した。

 そんな最上兄弟の仲の良さに苦笑しつつ、衛たちは後を追った。

 見える人間がいる、ということは幽霊たちも気づいているようで先ほどからふらりと現れる霊たちに衛は背中に嫌な汗が伝うのを感じた。

 普段でも幽霊に遭遇することはあるが、それは十日に一回など気にも留めないほど少ない回数なのだが、今回は桃花が一緒にいる所為か、数分と間を置かずに次々と現れるのだ。見える、という点では衛や最上兄妹も同じなのだが、三人は人外な所為か全くもって寄り付かないのだ。そのためこのような状況、無数の幽霊が間髪入れずに近づいてくるなどといった世にも恐ろしい状態になることはない。

 常日頃からこのような恐ろしく気味の悪い経験をしている桃花に、物の怪一同は同情を禁じ得なかった。

 そのためか、いつもは程々に物事をこなす最上妹が桃花に近づく幽霊を積極的に消し飛ばしていた。肝心の男たちはというと同じように幽霊を消しつつも引きつった顔を隠せないでいた。

 衛たちに守られている桃花は申し訳なさそうな表情と恐怖の表情、更には安心感をごちゃ混ぜにしたよくわからない表情を浮かべていた。

 何もない空間に手足を振るう少年少女が三人、端から見ればなんともいえない奇妙な光景ではあるが、幸いに人気はなく、絶え間ない幽霊の波を除けば至って平穏な道のりであった。

 前方の十字路を衛たちが乗ったバスが曲がっていった。

 バスを乗り継いで町内で端の方にやってきた衛たちは、この先にあるずらりと寺が並んだ通称御寺道を目指していた。

 目的としては幽霊が見えなくなるお守りやお札、霊が近づき辛くなるお払いなど、あるのかわからないほど都合の良い物を購入することだ。そんな眉唾物があるのか、と眉間に皺を寄せた二人と興味なさげな一人に、何故か自信満々に最上兄が胸を張って絶対にある、と断言していた。真偽の方は未だ定かではない。

 幽霊の波に襲われたことを無事といってよいのかわからないがなんとか御寺道に入ることが出来た一行は一番手前の寺からしらみつぶしに探すことにした。当てがあるんじゃないのか、と最上兄を睨むが「当てはないけど何かありそうな雰囲気じゃないか!」と声高らかに言うのみだった。その直後に妹から強烈な脛蹴りを受けたが致し方ないことだった。

 既に帰る気満々の最上妹を無理やり引っ張り一つ目の寺の門をくぐった。物珍しそうに見渡すのは桃花だけで衛たちは一様に醒めた表情で踵を返した。

「あ、あの、入らないんですか?」

「うん、ここは本物じゃないみたいだからね。偽物だよ偽物」

 頭上に大量の疑問符を浮かべる桃花を置いてすたすたと次の寺に向かった。

「え? ちょ、待ってくださーい!」

 慌てて追いついた桃花が首を傾げて問うた。

「あの……偽物ってどういうことですか?」

「ん? そのままの意味だよ。何の力も持たないただの人間が、口先と格好で素人を騙して金を巻き上げる偽物で悪質な寺。ボクたちにはすぐわかるんだよね、こういうの。そうだ。ね、カレンチャン。今度さっきの寺潰さない?」

 はっきりとした物言いに桃花は納得のいった顔を浮かべて頭の上の疑問符を消した。納得すると同時に、自分も騙されたことがあるのかなと不安になる桃花。だがその心残りは最上兄の最後の言葉で吹っ飛んだ。

 ぎょっと目を剥く桃花と、同じように最上兄を凝視する衛。両者共に驚いてはいるがその方向性はてんでばらばらだった。

 桃花は単純な驚愕。衛はこいつならやりかねないという驚き。

 そんな二人の心の内も露知らず、最上兄はへらへらと笑いながら軽い調子で「冗談だよ」と手を振った。

「……いつ?」

「へ?」

 眠そうな瞼を僅かに開けて小首を傾げる最上妹が言った。

「……いつ、壊すの?」

 あんぐりと、揃って最上妹を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ