見える人たち
白い花柄レースのカーテンの隙間から長細い日差しが差し込み、壁に掛けられた額縁に光が伸びた。少しばかり古い写真には、西洋人形のように整った顔立ちをした小綺麗に着飾った幼い双子の子供が写っており、中央に陣取った短髪の子供がカメラに向けて朗らかな笑顔でピースサインを突き出し、もう一人の長髪の子供が短髪の子供のピースサインとは逆の腕をぎゅっと抱きしめていた。澄んだ海を思わせる特徴的な青い瞳は柔らかく弧を描いて満面の笑みを浮かべていた。
十畳間ほどの一室、その壁際の清潔感溢れる白いベッドに寝かされている桃花の顔の傍に手を置き、膝立ちで覗き込んでいる青い瞳は心なしか気遣いの色を映していた。
小さく呻き、ようやく意識が戻った桃花がまず最初に見たのは金色の髪を耳に引っ掛けた青白い顔だった。水の幕が張られたようにはっきりとしない視界では目の前の顔の人相もわからず、唯一分かる青い瞳をぼんやり見つめていると鈍い頭と共に視界も回復してきて、目の前の顔がひどく綺麗なことに気がついた。だが、その背後に翼を大きく広げた蝙が佇んでいるのを見ると桃花は仰天して声にならない声を上げた。
かっと目を見開いた桃花が勢い良く上体を起こし、覗き込んでいた顔の額に衝突する寸前で青白い手が桃花の額を受け止めた。
「大丈夫ですか?」
眠そうな半目に無表情、西洋人形めいた造形の最上妹が言った。
泣きそうな表情で桃花は何度も首肯し、最上妹の顔を上目遣いで凝視する。どこか見覚えのある顔に内心で首を傾げるが、ハッとした。失神する直前に見た蝙男とそっくりなのだ。そのおかげか決して悪人には見えない最上妹に僅かながらも警戒心が薄れた。ほっと息を吐いて今更ながら見慣れない部屋おどおどと見回しているとまたもや最上妹が口を開いた。
「ワタクシの部屋です。……少し、寂しいですけど」
何も感じさせない声色で呟いた。
最上妹の言葉通り、部屋には勉強机、衣類タンス、ベッド、と家具は非常に少なく、カーテンから壁紙、部屋中が白一色に統一された部屋にはポスターの一つもなく、花の女子高生にしては異様に殺風景で、寂蓼感を覚えた。
確かに最上妹の言う通りだが本人の前でなんと言えば良いのかわからず、もごもごと口を動かすばかりの桃花の目を見た。吸い寄せられるように瞳が動き、桃花の目と繋がった。
「アナタの目には何が見えるんですか?」
驚愕のあまり再び見開いた目を見透かすような眼差しでしばらく見つめ、ふと気がついたように部屋の扉を見た。その直後、こんこんと扉がノックされ、目の前の幽鬼の顔色をした最上妹に良く似た顔がひょっこりと現れた。
「入るよー」
目を覚ました桃花を見つけると最上兄はにっこりと笑った。
「目が覚めたみたいだね。良かった」
スナック菓子とオレンジジュースが注がれた人数分のコップを載せたトレイを勉強机に置くと嬉しそうに言った。
最上兄に遅れて、開けられた扉を叩いてからぬっと姿を現した衛は、部屋に漂う女の子の甘い匂いを嗅覚が捉えたことを感じ、知らぬうちに視線を泳がせていた。
女子の部屋に入ることが初めての衛は顔を赤く染めて失礼にも部屋を見回した。そうしてからおずおずと部屋に入り扉近くの壁に直立不動の体勢を取った。
は、初めて入るな、女子の部屋なんて。
そんなことをぼんやりと考えているうちに最上兄が本題に入った。
「さてと。まず、君にはお化けとか幽霊とか、ゴーストとか怪物とかその他諸々が見えるんだよね?」
「ど、どうして……」
「見えるんだよね、ボクたちも」
最上兄の言葉に桃花は心底驚いていた。今まで自分の境遇と同じ人はおろか、理解しくれる人すらいなかったのだ。驚愕すると同時に嬉しさを感じるのは至極当たり前なのだろう。
「ほ、ほんとうに見えるん、ですか……?」
「うん。……まぁ、ボクら人間じゃないから」
「え?」
小さな呟きを唯一聞き取れた衛は顔をしかめてそっぽを向いた。
「なんでもないよ。それで提案なんだけど……」




