純情狼
青天を縦横無尽に駆け巡る雀が羽休めの為に電線に降り立った。小さい体を震わせ首を傾げながら下を見れば風に転がる空き缶が目に入った。かつんと小石にぶつかって止まった空き缶に灰色のアスファルトの隙間から伸びた草がさわさわと触れた。
高い声で雀が鳴き、数匹の雀が電柱に止まる。何度か足踏みを繰り返して感触を確かめていると真下大きな声が上がり驚いた雀たちは揃って空に飛び立った。
「お嬢さーん! 桃色パーカーの可愛らしいお嬢さーん! スレンダーで美脚のお嬢さーん! そうそう、アナタ! ボクに劣らぬほど美しいお嬢さん! 何か困ってませんかー? 例えばお嬢さんの肩を掴もうとしてるお化けとか……おおう!? 裏拳が綺麗に決まったぁぁ! じゃなくてお嬢さん! 待って待って止まって止まって! ボクの話を聞いてよー! え、ちょっと、どうして逃げるの!? ま、待って待って! ボクは君の味方だよ! あっ、ちょ、お嬢さん後ろ後ろ! って止まってってばぁぁぁ!」
背後から聞こえる声に反応して一度は振り返った桃花だが、口元に両手を当てて叫ぶ最上兄の姿を見た途端、走る速度を上げた。既に足は震えて力が入らず体力も尽きかけているがたった今目撃した、大人でさえも泣いてしまいそうな恐ろしい形相をしたどでかい蝙を背負った男、つまり最上兄の所為で桃花は更に駆ける。
唇を噛み締めた桃花の眼には透明な雫が溜まっていた。
「なんでっ、私っ、ばっかり!」
ぐすんと鼻を鳴らして振り返ると幽霊行列の姿はなく、蝙を背負った最上兄だけが追いかけていた。
「……え?」
驚きのあまり桃花が足を止めると、最上兄も慌てて足を止めて叫んだ。
「ストップストップ! ボクは君の味方だ! この距離でいいから話を聞いてくれぇ!」
息切れしていないところは流石といえよう。敵意がないことを両手を上げることで示してその場から動かずにいた。
最上兄の叫び声に足がすくんで動けなくなってしまった桃花は小動物のように震えて縮こまっていたが、言葉通りに最上兄が何もしないと分かったのか怯えながら最上兄に向き合った。
それを見た最上兄は端正な顔ににっこりと笑顔を浮かべた。
「ボクは最上至。幽霊が見える君が怖がるのはわかるけど話を聞いてくれないかな?」
こくりと桃花が頷くと、最上兄はほっと息を吐いて口を開いた。だが言葉が声になる前に桃花の背後からひょっこりと影が顔を出した。
片手を振って首を傾げた大神衛だった。
どういう状況なのか理解が及んでいないのだろう。
背後の気配に気づいた桃花が恐る恐る振り返ると、牙を向いたどでかい狼が衛の頭に喰らいつこうとしていた。それを間近で見た桃花はそのあまりの迫力と驚きに意識を失い、ふらりと後ろに傾いた。
慌てて腕を引っ張り桃花を抱き寄せた衛は困惑した表情で最上兄を見てから、視線を腕の中に戻した。
直後、かっと顔を赤く燃え上がらせて落ち着きなく上下左右に目を揺らし、口を何度も開閉して、混乱ここに極まりといった様子だった。
真っ赤な困惑顔で最上兄に助けを求めて視線を送る衛に、そういえばと思い出し、最上兄は長々と嘆息した。
毎話字数が少なくて申し訳ないです




