事情
最上兄の傍に音もなく着地した衛は、そっとお稲荷様とトーコを横たえながら最上兄の声を聞いた。
「お……、おお! マモルクン! 目が覚めたんだね!? 良かった、本当に良かったよマモルクン! コンチャンもトーコチャンもカレンチャンも心配していたんだよ! ああでも君が目覚めることは信じていたよ! なにせマモルクンだからねっ! そしてボクたちが信じたように君は目を覚ましたんだ! これこそがゆうじょ……あいたぁ!」
ごすっ、と妹にどつかれて口を閉じた最上兄の姿に懐かしさを覚えながら苦笑した衛は、心なしか心配そうに見つめる最上妹に手を振って平気だと返すと殴られた頭をさする最上兄に事の次第を聞こうとしたが、先に周りを囲む人間たちを撃退することにした。再会してからもせわしないがこうでもしない限り落ち着いて話も出来ない。
手近にいた人間の顎を殴りつけ、間髪入れずに鳩尾に逆の拳を打ち付けながら、衛は真っ先に古今たちは味方なのか聞くことにした。敵味方をはっきりさせておかないとこちらの身も危ない。
「ああ、あの二人は今回は味方みたいだよ。あの幽霊が見える子が言っていたし、多少は信用出来ると思うよ」
背後から飛びかかってきた降魔師を後ろ回し蹴りで吹き飛ばしながら最上兄は言った。ほとんど交流のない桃花はともかくとして、最上兄が信用するなら味方として考えてもいいだろう。納得出来ないことも多少はあるが、今こじれさせても良いことはない。
あの二人には必要以上には近づかないことにして、衛は質問を続ける。
後方に飛び退き、着地と同時に前方に飛び出して体当たりをかまし、盛大に転がっていく降魔師を横目にして、衛は拳を振り上げた。
「人間の二人は?」
「んー、幽霊が見える子と降魔師の子は良くわからないけど、教会の二人と一緒に来たからそっちも安心していいと思うよ」
一つ頷き、再び質問を重ねる。
「これからどうすればいい?」
「まずはテンクンがこの囲いを払ってくれるよ。それから教会の二人と人間の子らが話してくれるみたいだよっ……と」
ふっと鋭く息を吐き、掌底を目の前の男の顎先に入れた最上兄は無造作に男を突き飛ばした。その先にはちょうど最上妹が同じように降魔師を突き飛ばしていた。
鈍い音を立てて互いにずつきを喰らわ合った人間はそのまま倒れ込んだ。
周りを見渡してみれば人の壁と化している人間たちが複数人で一組を作って攻勢に出ている。素人が見よう見真似で連携攻撃をしているようなものなので大した脅威にはなっていないが、衛が戦っていた人間たちよりも動きが良くなっていることは確かだろう。何かしらの仕掛けがあることは折り込み済みではあるが、虚ろな目の人間に囲まれて次から次へと飛びかかられるのはやはり気味が悪い。
韋駄天がなんとかしてくれるらしいのでそれまでは攻撃手段を持っていない人間の二人を最上兄と二人で守ることになった。何故二人がここにいるのかは甚だ疑問ではあるがそれもまた後ほど語ってくれるだろう。しかしお稲荷様の一件が尾を引いている衛は鳴海に好感情を持っていない。聞きたくもあり、聞きたくもないという衛本人でも良くわかっていない感情が胸のうちに渦巻いていた。
それはともかくとして、死なれるのはまた別である。
二人を背にし、三人同時に飛びかかってきた人間たちを手早く一掃したとき、韋駄天の高い声が響いた。
「ぶっ飛ばされたくなかったらオレの下に集まれ!」
中空に浮かびながら胸を張って尊大に言い放つ韋駄天の周囲には人一人分ほどの大きさの渦巻く風が四つほど漂っていた。
全員が集まり、衛と最上兄がお稲荷様たちを抱えて退避したのを確認して、韋駄天は何の動作もなしに風の塊を操って衛たちの周囲を高速回転させた。
次第に唸りと風圧を大きくしていく風の壁の中にいる衛たちには騒音や風圧などの影響はなく、台風の目の中にいるようであった。
一番の動体視力を持つ衛でも見えなくなるほど速度を上げた塊は近づいてくる人間たちを片っ端から弾き飛ばしていった。
「ほら、話すんだろ? オレがいる限りこれは動くから安心しろ!」
どうだといわんばかりに口元が緩んでいる韋駄天は教会の二人に言った。
「そうだな。それじゃあまず最初に話すのは私たちがここに来た理由だ」
無表情の煌がそう切り出した。




