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モノノケカミカミ  作者: 水島緑
満月の光は優しく
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怪の常

 結果的に鳴海たちを救うことになった竜巻の創造者、韋駄天は暢気にあくびを漏らしながら一際力を込めて作った空へと伸びる大きな竜巻を使って、山を掘っていた。

 激しく回転する竜巻を掘削機代わりにして土を掘っている彼は暇そうにぷかぷか浮きながらせわしなく動く最上妹を眺めていた。

 こんなものか、と深さ数メートルはあるであろう穴から竜巻を消し、自分で穴を覗き込んで確認すると最上妹に声を掛けた。

「もう放り込んでもいいよ。オレは埋めるための砂を集めてくるから」

 離れた場所で人間たちを千切っては投げていなしている最上妹が頷いたのを見ると、韋駄天は穴から離れて風を繰り出した。

 任された最上妹は彼の言葉通りに人間たちを穴に放り込んでいく。

 何をしても倒れず、起き上がってくる降魔師たちに困った二人は、彼らを無力化するために、穴に埋めてしまおうと考えたのだ。

 斜面を真っ直ぐ垂直に掘り、深くなるに連れて幅を広くしながら作った穴は人間ではとても出られるものではなかった。その上から更に土を入れて蓋をしてしまおうというのだから尚更だ。

 どこを見ているかもわからない焦点の合わない瞳をぎょろつかせて掴み掛かってきた男を半身になって避け、すれ違いざまに首根っこを掴んでそのまま押した。前傾姿勢のまま穴に落ちた男を横目に、最上妹は次々と容赦なく人間たちを落としていった。

「終わったか?」

 半ば機械的に人間を叩き落としてしばらく経った。ようやく最後の一人と思われる人間を穴に蹴落として一息ついていると、退屈そうに浮かびながら近づいてきた韋駄天が周囲を見渡してそう言った。

 見ればわかるだろう、と視線に込めて一瞥してやると、彼は何故か怯えたように身をすくませると最上妹と距離を取って彼女を迂回して穴を覗き込んだ。

 穴の深さと夜の闇が相俟って底はまったく見えないが、何者かが蠢いている気配は感じることが出来る。その気配が数十人の人間によるものだと考えると背筋に怖気が走った。

 自分の発案ではあるが穴の底から人間たちが亡者のように腕を伸ばしているだろうと想像すると冷や汗が浮かんでくる。それを振り払うように韋駄天は風に巻き込んだ大量の土を穴に落とした。

 風が止んだことで一斉に穴目掛けて落下する土を見送った二人は人間たちの呻き声さえも聞こえなくなったことを確認すると山を登り始めた。向かう先はもちろん最上兄のところだ。

 歩みを進めるごとに漂ってくる血の匂いに韋駄天は顔をしかめ、最上妹は胸中に燻っていた不安が首をもたげてくるのを覚えていた。

 そして、彼らが目視したのは湿り気を帯びて赤黒い染まった大地に佇む血濡れの最上兄と、傍らに転がる四肢のない肉塊と化した人間だったモノだった。

 あまりに酷い臭気を韋駄天が風で散らしている間にも最上妹は兄の元に駆け寄っていた。

「これは……もし生きてても死んだほうがマシだな」

 そう呟いた韋駄天の視線の先には達磨になった降魔師たちがいた。全身がぐちゃぐちゃに潰され肉塊となってしまっては何らかの細工を施されていた人間でも流石に耐えられなかったようで、ほとんどの人間は死亡していた。だが二人ほど虫の息ではあるが生きている人間がいた。手足をもがれていては一命を取り留めたところで生きていくことすら支障をきたすだろう。他人の介護なしには水を飲むことすらままならないだろう。

 ならば一思いに楽にしてやったほうが良いだろう。お稲荷様を傷つけたことは許せないがこうなってしまえば報いは受けたと同然だ。

 せめてもの慈悲と、韋駄天は二人の息の根を止めた。

「ん? ああ、カレンチャンか。そっちも終わったんだね。ボクよりも数が多かったみたいだから大変じゃなかったかい?」

 足音に振り返った最上兄はそれが妹だとわかると血濡れながらも笑顔を見せた。

「……埋めた」

「そ、そうか。確かにそれなら簡単だね……。ここも終わったし、コンチャンたちを探しにいこうか」

 汚れちゃったよ、と苦笑する兄に、最上妹はぶっきらぼうにハンカチを突きつけた。だが突然のことと妹にしては珍しい行動に呆然してしまった兄が動かないと見るやいなや彼女は頬を赤く染めながらも兄の顔に付着した血液を拭った。

 我に帰った兄がお礼を言うと妹は恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 いつもと変わらない兄妹だが周りには凄惨極まりない遺体が横たわっている。しかし二人には興味がなく、また韋駄天も何かしようとは思っていない。

 これが人間との違いで、彼ら物の怪の常だ。

百話目ですね。無事ここまで続きました。ありがとうございます。

これといって特別なことはしませんが、完結までよろしくおねがいします。

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