第二章終わりの始まり 第一話
「・・・寒い」
10月の月末。元々町の位置が北寄りだからか、寒くなるのが毎年早い。
今も、雪が降るのではないかと思えるくらいの雲が月明かりを遮って分厚く立ち込めている。
今から向かう家の、これから自分が受け持つ主人の誕生日があと一時間で終わろうとしている。
男は、暗くなって人の少なくなった大通りを特に急ぐこともなく歩いていた。
「次の角を、右に・・・ここか?」
それはどこにでもあるような小さな一軒家。
窓からは暖かそうな明かりが漏れている。
ドアをノックすると中からまだ子供らしさを残す可愛らしい顔の女の子が出てきた。
「こんばんは東雲 歌さん。今日から君の守護をする者です」
歌は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔になって部屋へ迎えてくれた。
「貴方が私の守護霊?・・・綺麗な顔してるけど・・・男、よね?」
「そう。男」
出されたお茶をずずっと啜って男は応える。
「名前はなんて言うの?」
「・・・ああ、そうか。名乗らなければいけないんだったな」
もう一度お茶を啜って男はため息混じりに続ける。
「そうだな。・・ユウと呼んでくれ。生前呼ばれていたあだ名だ」
「え、フルネームは?」
「君にフルネームを教える必要性は皆無に近い。呼び方さえわかればそれで良いだろう」
「・・・」
一瞬しんとなった空気もユウのお茶の啜る音で簡単に破られる。
歌は小さくため息をついて呟いた。
「・・・てっきり(優しそうな)女の人が来るかと思ってた」
それを聞いてか、少し眉をひそめたユウだが歌の呟きに律儀に応える。
「・・・まぁ、大抵の場合は同性なんだが、守護霊は特性や波長が近いやつから選ばれるからな。稀に異性がつく事もあるんだよ」
「波長はわかるけど、特性って?」
「この町の人は魔法が使えるのは知っているな?」
コクッと頷く歌を確認し、ユウが続ける。
「守護霊もそれがつかえるんだ。主人を守らなきゃいけないからな。魔法には攻撃タイプと防御タイプの二種類があって人によって特性がある。火、水、土、木、雷、風の六つだ」
「割と多いのね」
「まったくだ。ちなみに俺は攻撃タイプで水と風と雷の三つの魔法を得意にしている」
「複数使えるの?てっきり一つかと・・・。あ、特性が近いって事は私もその三つの特性を持ってるの?」
「いや、君は攻撃タイプで風と水。あと火の特性も伸びてきているとのデータが出ている。特性は通常二つか三つ持てるんだ、稀に四つ持っている奴もいるがな。守護霊は自分の主人を護る他に、持っている特性を引き伸ばし、使えるように指導するという家庭教師のような役目もある」
「指導って、あなた火の特性持ってないんでしょ?」
「使えないわけじゃない。得意ではないだけだ」
「ふ~ん」
今度は歌が自分のお茶をずずっと啜る。
「・・・ユウさんは私の事はだいたい知ってるのよね?」
「ユウで良い。・・・まぁ、ここに来る前に君に関しての資料は貰っている。護るにしても教えるにしても、何も知らないとどうしようもないからな」
「じゃあさ、ユウの事も教えてよ。あんただけ私の事知ってるだなんて不公平でしょ?」
「・・・」
こんなに色々聞かれるとは思わなかった。
歳や身長ならともかく、死因を聞くのは人としてデリカシーがないのでは・・・?とユウはつくづく思う。
資料には性格までは書いていなかった。
見た目は黒く長い髪が印象的な大人しそうな子だと思っていたが、おてんばで活発そうな子供だ。
・・・なんでだろう、疲れてきた。
騒がしくなりそうな今後を思いユウはため息をついた
早々に第二章に入ってしまいました。こりゃあ、終わるのは早いかな・・・