断片
-------時間が流れて行った。
20:00頃、正確な時間は分からなかった、でも、もはや時間は、少女にとってそこまで重要じゃなかった。
やがて、彼女は体をベンチから立たせた。ふらつく。ずっと座ってるから、座ってたから...。
これはただの立ちくらみ。
そのせいにして、目を閉じた。
目の前にある、春の桃色をまだ実らせてないだろう、木々の海に向かって数歩だけ。
ふらついたから、そう信じさせて足を動かした。
3歩目から、つま先は、踏み込む場所を失って、沈んだ。
たった数秒だけ。...数えるのすら億劫な数秒だけど。
少女は空を飛べたし、翼を授かった。
怖くなかった、かと言って満たされもしなかった、最後に目を開ける、そうしようとしたけど、その前に
「ぐしゃっ」.....って鳴ったから。
開けれなかった。
これから冷めていくだろう体と同じように、彼女は冷えた思考で思った。
呆気ないな、なんて。
ガンガン鳴る頭に響く激しい耳鳴りのさざ波の中に溺れて、意識の浮遊感に身を委ねながら、空を見上げる。
視界が赤かったけど、もう、いいや。
一瞬だけ見えた景色。
沢山の色彩のレイヤーが重なってたみたいだった、歪んだ自分と真っ赤なドロドロ。
夢みたいだった、嬉しさではなくて、単純な光景として。
....ぃ...。
綺麗。そう呟こうとした、だけど、やっと開かれた口からは、音だけしか出せなかった、言葉ではなく、音だけ。
何が綺麗だったのかは、誰にも、少女にも分からない。
やがて、少女はそのまま痛みに勝てるはずだった。
しかし。
神様は本当にいい事をしてくれた。
暗闇じゃなくて、白い天井を見させてくれたんだから。
本当に感謝しかない。
だから少女は、その報いに答えるように、天井の蛍光灯を見つめた。
そして、黒くなったありがとうを呟いた。
精一杯の思いを込めて。




