表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

4本目:辺境の木こり、謎の黒石を拾う

鐘の音が城中に響いた。

重く、鋭く、非常を告げる音だった。


リリアは反射的に振り向く。

「……外だ」

玉座の間の外、開け放たれた扉の向こうから、地鳴りのような喧騒が押し寄せてくる。

兵たちが駆け抜ける足音。怒号。鉄のぶつかる音。

王の声を背に、彼女はすでに走り出していた。

「陛下。私が確かめてきます!」

アルドもすぐ後を追う。


廊下を抜けると、王城の外庭に出た。

高い塔の上に黒煙が上がっている。狼煙だ。

「城の北門……侵入者です!」

憲兵の一人が叫んだ。

リリアの顔に緊張が走る。

「何者が——?」


門の前で、十数人の黒装束の集団が憲兵隊と交戦していた。

人数では圧倒しているはずの憲兵が、じりじりと押されている。

刃の交錯が火花を散らし、石畳を血が濡らしていく。


リリアは剣を抜いた。

「先生、援護をお願いします!」

「おう」


彼女は一息で距離を詰め、憲兵の前に躍り出た。

その姿に一瞬、兵士たちの士気が戻る。

「勇者リリア殿だ!」

「退くな! 押し返せ!」


リリアの剣が閃き、敵兵の槍を弾き飛ばす。

足払いで体勢を崩し、喉を狙う刃が一線を描いた。

鮮血。

倒れた敵兵の口から、嗄れた声が漏れる。

「……勇者……リリア……」

「貴様を……殺す……」

「私が狙いなのか!?」

だがその男は何も答えず、口から黒い液体を吐いて崩れた。


リリアの眉が動く。

敵の目的は——勇者暗殺。


「リリア、上だ!」

アルドの声。

見上げると、城壁の上に黒いローブをまとった魔術師が立っていた。

手には不気味な金属製の装置。円盤のような形に魔法陣が刻まれている。


「……これより“浄化”を行う」

魔術師が装置を掲げる。

眩い光が弾け、空気が一瞬にして重くなる。

次の瞬間、リリアの膝が崩れた。

「なっ……体が……重い……」

憲兵たちも同様に倒れ、鎧が軋む音が広がる。


「先生……これ、魔法です……周囲の者すべてに……!」

「重力魔法か。リリアが動かないとは、最上位魔法に匹敵するな」

「でも、先生は……?」


アルドは平然としていた。

眉一つ動かさず、軽く肩を回している。


「効いてねぇみたいだな」

「ど、どうして……?」

「こんなの、村の爺さんに付き合わされて朝まで飲んだ翌日の木こり作業に比べりゃぬるい」


憲兵の一人が、目を丸くして口を開ける。

「……何を……言ってるんですか……?」

「要するに慣れだ。寝不足と二日酔いのほうがよっぽど堪える」


彼は落ちていた斧を拾い上げた。

リリアが息を整えながら叫ぶ。

「先生、待って! 今動くのは危険——!」

「俺が動かなきゃ、お前ら全滅する」


アルドは地を蹴った。

足元の石畳が砕け、一直線に魔術師へ。

敵の前衛が慌てて立ち塞がる。

「止めろ! あの男を!」


斧の一閃。

鉄兜ごと頭が割れ、血煙が上がる。

次の瞬間、斧は回転しながら別の敵の槍を断ち、返す手で柄を持ち替える。

「木を倒すのと変わらん。どこが脆いか、見れば分かる」


敵の一人が叫んだ。

「な、何者だ貴様!」

「木こりだよ」


アルドの足が地を蹴り、間合いを詰める。

魔術師が焦って装置を再起動しようとするが、彼の投げた小石がその手を弾いた。

「なっ……石だと!?」

「森じゃな、枝一本でも武器になる」


アルドは瞬時に間合いに入り、肘で腹を打つ。

魔術師が折れたように崩れた。

光を放っていた装置が地面に落ち、割れた。


眩い光が弾け、圧が消える。

倒れていた兵たちが息を吹き返す。


リリアが立ち上がり、剣を構え直した。

「残りを囲め! 逃がすな!」

「おおっ!」

憲兵たちが気勢を上げる。


アルドは呼吸を整え、割れた装置を拾い上げた。

円盤の内部には、黒い石がはめ込まれている。

リリアが駆け寄る。

「それは……!」

「前の襲撃者の胸から出たのと同じだな」


周囲に倒れた敵兵たちの体が、黒い靄に包まれて消えていく。

血も残らず、灰だけが風に散った。


リリアが息を呑む。

「まるで……消されてるみたい」

「証拠隠滅だ。組織ぐるみだな」


鐘の音が再び鳴り響く。

遠くで別の塔からも煙が上がっていた。

リリアが顔を上げる。

「他にも侵入者が!」

アルドが頷く。

「行くぞ、リリア」

「はい!」


ふたりは並んで駆け出した。

陽光の下、黒煙が城を包む。

戦いはまだ終わっていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ