3本目:辺境の木こり、王に会う
玉座の間。
高い天井に光が差し込み、赤い絨毯の先に白銀の王が座していた。
リリアとアルドが進み出る。
「勇者リリア、よく戻った」
「はい、陛下」
「そして……その者が“先生”と呼ばれる木こりか」
「そうだ」
「王の前で堂々としているな」
「すまん、敬語が苦手でな」
近衛たちが小さく笑う。
リリアが一歩前に出て膝をつく。
「陛下。魔王は倒れましたが、各地で魔族の残党が動いています。
人々を守るため、先生の教えを兵に伝えたいのです」
「教え?」
「はい。力に頼らず、戦い方や場の使い方を見極めることです。
魔物の動きや特徴から弱点を見つけ、地形を活かし、環境を味方につけて戦う。
先生に学んだことで、私たちは魔王を倒せました」
王は顎に手を当て、静かにアルドを見た。
「君のような者が、それを?」
「俺は木こりだ。木を切ってると、どこが硬くてどこが脆いか分かる。魔物も似たようなもんだ」
リリアが補足する。
「先生のやり方を兵が学べば、戦闘の損失を減らせます」
王はしばし黙考し、頷いた。
「ふむ……騎士団長に話してみよう——他に報告は?」
リリアが少し顔を曇らせた。
「……はい。魔王軍の残党について、気になることがあります。ですが、その件は後ほど改めて報告いたします」
「そうか。では今は休め」
王が頷いた瞬間、扉の奥から金属音が響いた。
リリアの腰の剣が何かに撃たれ、床を滑る。
「——っ!」
衛兵が動くより早く、フードの男が一直線に飛び込んできた。
短剣が光を放ち、喉を狙う。
「危ねぇな」
アルドの手が男の手首を掴み、刃先を止める。
「なんだお前、危ねぇだろ」
「ッ……!」
男が蹴りを放つ。アルドは軽く受け、体勢を崩させる。
次の瞬間、手刀が脇腹に入る。
音もなく、男が沈む。
近衛が取り押さえる。
リリアが息を詰める。
「先生、今の……!」
「脇の下と肋の間。息が止まる」
押さえられた男が薄く笑った。
「勇者に……話すことなど、ない」
「誰の命令だ!」
返事はなかった。男の胸から、黒い炎が噴き上がる。
「離れろ!」
炎が一閃し、ふっと消える。
灰も血も残らず、床には黒い石が一つだけ転がっていた。
リリアが息を呑み、王が立ち上がる。
アルドは石をじっと見つめ、低く呟いた。
「これは——」
——鐘が鳴る。
非常の合図。
王城の外で何かが始まろうとしていた。




