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2本目:辺境の木こり、王都に行く

馬車の車輪が石を弾くたび、リリアの金髪が光を返した。

道の両側は畑から街道へと変わり、丘を越えると白い光の海が広がる。

それが王都だった。


「すげぇな……これ、全部人の家か?」

「うん。ここは外区。三万人くらい住んでるの」

「森の魔物より多いな」

「比べるのそこ?」


アルドは感心したように首を傾げた。

「これだけ家があると、木はどれぐらい使ったんだろう」

「考えるの、そこなんだ……」

リリアは苦笑しながら肩をすくめる。

「でも先生らしいね。王都に来て木の心配する人、初めて見た」

「木は大事だ。切りすぎると森が怒る」

「その理屈でいくと、王都の人全員怒られてるかも」

「なら、なおさらだ」


リリアは吹き出した。

「ねえ先生。王様、きっと驚くと思うよ」

「なんで?」

「だって、“勇者の先生”が木こりなんだもん」

「俺は勇者じゃねぇ。ただの木こりだ」

「その“ただ”ができる人がいないの」

「へぇ」


馬車が石畳に乗る。

王都の門が見えた。見上げるほど高い城壁と尖塔。

アルドは目を細めた。

「森より高い壁だな」

「五十年前に魔族の侵攻を防いだ壁よ。人間の象徴ってやつ」

「木で作れば柔らかくていいのに」

「壊されるわ」


門前では人々が列を成していた。

兵士が合図を送り、馬車が止まる。


「リリア様だ!」

「勇者が帰ってきたぞ!」

「おかえりなさい!」


歓声が広がる。

リリアは照れたように笑った。

「こういうの、何回やっても慣れないな……」

アルドは腕を組んだまま。

「お前、すげぇ人気だな」

「やめて、照れる」

「事実だろ」

「先生がいなかったら、私はここにいない」


群衆から声が飛ぶ。

「その隣の男、誰だ?」

「勇者の護衛か?」

「先生って呼ばれてたぞ?」


ざわめく民衆。

リリアが一歩前に出た。

「この方は、私の先生です!

 私が魔王に勝てたのは、先生の教えがあったから!」


驚く人々。ざわめきが波のように広がる。


「先生……? あの人が?」

「ただの木こりじゃ……?」

「勇者の冗談か?」


アルドは頭を掻いた。

「……やめろ、恥ずかしい」

「事実だもん」

「俺にはそんなことできない。ただ、木こりを邪魔してきた魔物を倒した時のコツを教えただけだ。

 あとは、敵の動きや魔物の特徴から弱点を見つけて、戦いやすくする方法とか、そんなもんだ」

「それが、誰にもできなかったの」


そのやり取りを遠くから見つめる影が一つ。

露店の裏でフードを深くかぶった男が動かないまま、二人を見ていた。

風に混じって黒い煙のようなものが袖の内で揺れる。


「そろそろ行こう。王様が待ってる」

「……王ってのは、木こりが会っていいもんなのか?」

「いいの。むしろ王様のほうが会いたがってる」

「めんどくせぇ」

「はいはい」


鐘が鳴り、王城の門がゆっくり開いた。

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