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ガールズバー問題を斬る!

「朝倉さん、うちの新店……正直、ちょっと雲行きが怪しいの」


その言葉に、営業第二課係長・朝倉修平は手にしていたカップを静かにソーサーに戻した。


場所は新宿の喫茶ラウンジ。

向かいに座るのは高坂沙織

都内で複数のラウンジ、ガールズバー、飲食店を展開するやり手の女性実業家。

朝倉にとっては「最初の営業成約をくれた」特別なクライアントであり、今も40店舗以上と契約を結ぶ重要な顧客だ。


「灯 -AKARI-?」


「そう。今度の店は少し変わってて、私だけじゃなく、もう2人のオーナーと共同出資してるの。グッズ販売で一財築いた坂東さんと、元人気グループの神城さん。3人共同の新店舗なの。」


「それはまた…個性がぶつかりそうな組み合わせですね」


「正解。スタッフは3人がそれぞれ推薦して入れてるから、店の中はすでに派閥だらけなの。」


「朝倉さん。ちょっと現場を見てきてくれない?お願い!」


普通なら断っていた。

しかし相手は高坂沙織。


朝倉がまだ新人だった頃、まともに営業先も持てない時期に初めて信頼してくれたクライアント。

しかも彼女の系列店は、今も会社の水商売系契約の核を占めている。

仮にこの店舗の運営支援に失敗し、契約を失えば会社としての損失も大きい。

何より朝倉は心得ていた。

営業とは、困っている顧客の小さな相談に乗ることで、次の契約が生まれるもの。

ここで顔を出しておけば、また1店舗増やせる可能性もある。

そして、坂東や神城の会社への接点にもなるチャンスもあるかもしれない。

営業冥利に尽きるとはこの事だ。


「分かりました。今夜、現場を見に行きましょう。」


「本当? 助かる! あなたならそう言ってくれると思った。ありがとう!」


その夜、午後8時。


雑居ビル5階にある新規店『灯 -AKARI-』。

きらびやかな照明に彩られた内装、だが空気はどこか緊張していた。


「いらっしゃいませ〜!」


声が揃わない。

笑顔も不自然。

カウンター越しにスタッフ同士の視線が交わらない。

高坂の不安が的中ということか、現場が壊れていると朝倉は一目で察した。


カウンター奥に立っていたのが、若き店長・佐久間大智。


「はじめまして朝倉さん。佐久間と申します。お話は社長の高坂からお聞きしております」


「朝倉です。こちらこそよろしくお願いします。早速ですが、少し状況を教えてもらえますか?」


佐久間は派閥の構造、LINEグループの分裂、スタッフの対立構造、店長の権限のなさ、売上の落ち込みを一つ一つ説明した。

朝倉は、すべてを聞いたうえで静かに言った。


「佐久間さん、今のままだとあなたは名ばかり店長です。ですが、状況は変えられます。私に良い方法の提案があります。」


「え、方法?」


「はい。信頼できるスタッフが何名かいるとおっしゃいましたね?」


「ええ。3人だけなら、僕の指示に素直に従ってくれる子達がいます」


「では、その3人を核にして店を再構築するんです。他のスタッフは一度すべて契約解除してください」


「ええっ…ぜ、全員ですか?」


「そう。あなたが選ぶんです」


「でも、揉め事になります…みんな辞めるって言い出しますよ」


「大丈夫ですよ。辞めると言う女の子ほど、辞めたくないものです。クビになると思った瞬間に、初めて従います。それが女性の職場あるあるです。」


「今の子たちは派閥の延長で動いています。あなたの指示になびかないのは当然です。でも、店長の選別のもとで面接して雇われた子たちなら、あなたの指示に素直に従うでしょう。トラブルになるようであれば契約解除までしなくてもいいです。新しい子が入るごとにシフトをだんだん削ってください。店に協力できない子は必要ありませんからね。決して同情しないように仕事として割り切ることが大事ですよ。」


佐久間は黙り込み、そして口を開いた。


「はい!やってみます。」


翌日、朝倉は高坂、坂東、神城の3人を揃えた席で提案を伝えた。


「皆さん。現場はすでに崩れています。責任ある人間が一人で統括しなければ、店の信用は守れません。」


「佐久間店長に現場の統制を一任し、オーナー様達は経営に専念する体制を敷いた方が良いかと思います。」


「その結果、この店が回れば、坂東さん・神城さんの系列にも、このモデルを提供できます」


坂東が微笑を浮かべて言った。


「面白いな。ちゃんと回せたら、うちの新店舗でも相談に乗ってくれよ。」


神城も頷いた。


「いいよ。俺のルートの子、全部引き上げていい。」


朝倉は静かに深く頭を下げた。



その日の夜、佐久間は覚悟を決めた表情でホールに立ち、女の子たちに伝えた。


「明日から、この店の運営は僕が統括します。」


その言葉の裏には、朝倉の徹底した戦略と確信があった。


その数週間後。

スタッフの大半を一度切った形をとり、新たなバイトを多数採用。

新体制の「灯 -AKARI-」の店内には、緊張感と同時に温かい静けさが漂っていた。

出勤してきたのは、佐久間が信頼する3名の旧スタッフ、そして面接を経て採用された新しい応募者たち。


「この店では、グループ行動や派閥形成は禁止です。互いを認め合い、助け合える環境でなければ、お客様は居心地良く過ごせません。」


それは佐久間に伝えた朝倉のアドバイス。


「女の子が本当に長く働きたいと感じる職場は、結局、人間関係が良い場所なんです。お金のためが第一ですが、人間関係がギスギスしていたらすぐにバイトは辞めます。逆に、仲が良ければ仕事も続くし、お客様も楽しくなります」


「この店はカウンター越しの商売です。お客様はスタッフ全体の空気感を肌で感じています。カウンターからは全てそれが見えてしまうんです。ひとりの空気が悪ければ、店全体が壊れます。」


佐久間はその言葉を胸に刻み、採用時に一人ひとりの人柄を重視し、合わないと感じた子は不採用にしていた。


そして始まった、新生「灯」。


初日から、穏やかで温かい空気が流れた。


新人同士が自然に協力し合い、笑顔であいさつを交わし、グラスを渡す手つきすら丁寧だった。


旧スタッフの3人も、無理に上に立つことはせず、新人たちを気遣うように動いた。


「こんなに静かに、楽しく始まる初日は初めてです!」


佐久間は、開店準備の合間に朝倉に感激しながら携帯で報告をした。


数ヶ月後


「灯 -AKARI-」は完全に生まれ変わっていた。


客席の笑い声が増えた。


ボトル注文も自然に入るようになった。


女の子たちは裏でも表でも和やかに会話し、業務の中で互いに自然にフォローし合っていた。


「この店、働きやすいです!」


「前のところより全然いい!」


そんな声があちこちで聞かれ、営業終了後も誰一人として愚痴を言わなかった。

佐久間はその様子を見ながら、改めて朝倉に頭を下げた。


「朝倉さんの言うとおりでした。人間関係が良ければ、全員が前を向ける。」


「結果的に、お客様の笑顔も増えたんです。」


「それが空間商売の本質です。ガールズバーは演出じゃない。雰囲気なんです。」


「はい。本当にありがとうございます!」


その週末、売上は前月比1.9倍を記録。

しかし、朝倉はまだ満足していなかった。


「ここからが本番です」


「この温かい空気をどう保ち続けるか、それが組織作りです。」


佐久間は真剣な眼差しで頷いた。



それから数週間後の深夜のことだった。


営業を終えた佐久間が、いつものようにカウンター裏の金庫を開けた瞬間、目を疑った。


「な...無いっ!!」


前日の土曜の売上、約30万円分。


封筒に分け、金庫の奥にしまっていた現金が、跡形もなく消えていた。

鍵は佐久間が管理している。

暗証番号も、変更済み。


「おかしい。確かに昨日までは...」


佐久間は手帳の金額記録を見直し、冷や汗をにじませながら、深呼吸をひとつした。


朝になっても気持ちは収まらず、彼はすぐに朝倉へ電話を入れた。


「大変です朝倉さん!金庫の現金が消えました!」


「え!?まず佐久間さん、詳細を聞かせてもらってもいいですか?」


「はい。お金は昨日まで確かにありました。鍵は僕が持ってます。暗証番号も僕しか知りません。なのに、なんで...。」


「防犯カメラは?」


「ありません...」


一拍の沈黙。


「佐久間さん、今起きていることに対して感情的にならず、冷静に、事実だけを見て判断しま しょう」 」


「はい…」


「まず、金庫に入れるお札の番号を、次回からすべて全額控えてください。封筒ごとに一覧にすることです。」


「はい…」


「そして、次に同じことが起きたら、全スタッフの財布などを確認します。」


「えっ…?」


「私が責任を持って立ち会います」


「わかりました。」


そして次の月のとある金曜の深夜、再び事件は起きた。

今度は40万円強。

朝倉と佐久間は、控えていた紙幣の番号一覧を手に、閉店後のスタッフに説明を始めた。


「皆さん。実は金庫の現金が連続して盗まれています。今回、お札の番号はすべて控えてあります。」


「ご協力いただき、あなた達のバックや財布の中身を確認させてください。これは私、朝倉の責任で行います。」


戸惑いが広がる中、スタッフ達は順番に対応していった。

そしてサナの番だった。

彼女が差し出した財布の中にあった数枚の一万円札。

朝倉が目を細め、一覧と照らし合わせる。


「一致しました。完全に同一の番号です」


佐久間は言葉を失い、サナも顔を伏せたまま、震えていた。


「サナさん、金庫のお金を盗んだのはあなたですね?」


その言葉に、彼女の全身が小さく跳ねた。

声は震え、涙声になっていた。


「私…そんなつもりじゃ…」


サナの震える声が店内に響いた瞬間、空気が凍りついた。

カウンターの奥、グラスを磨いていた朱音の手が止まる。

佐久間は思わずその場に立ち尽くし、他の女の子達も誰ひとり声を発さない。


まさか、という想い。

やっぱり、という疑念。


そんな感情が交錯する中、朝倉の声だけが落ち着いていた。


「気持ちを整理してからで構いません。少しだけ話を聞かせてください。」


その声音に怒気はなく、ただ事実だけを求めるような静けさがあった。


サナは小刻みに肩を震わせていた。

そして次の瞬間、激しく首を横に振り、叫ぶように言った。


「違う! 私は…私は、そんなことしてない!」


カウンターにあったグラスを手に取り、床へと叩きつけた。


ガシャン!


割れる音に女の子達が小さく悲鳴を上げる。


「サナ! 落ち着いて!」


佐久間が前に出ようとしたが、足がすくんだように止まった。

その隙に、サナはさらにボトルを投げ、壁際のワイン棚をなぎ払った。


「ふざけないでよ! 私のせいにすんな!」


カウンターに並んでいたショットグラスが次々と破壊されていく。

スタッフたちは呆然とその光景を見つめていた。


一人、朱音が動いた。


「サナ! やめて! 危ないから…!」


だがその手を振り払うようにサナは叫んだ。


「誰も信じてないくせに! あんた達だって、見てたでしょ!? 私が浮いてるからだろ!?」


「サナさん!!やめろ!!!」


朝倉が静かに前へ出た。


「店の物を壊すのは、もうやめましょう!あなたを誰も否定していません!!」


サナは荒い息のまま、後ろに一歩下がった。


「何が…否定してないだよ...。どうせ、クビにするんでしょ…?」


「私は、何も決める立場にない。ただ、話を聞きたい」


朝倉の声は低く、どこまでもまっすぐだった。


「あなたがここに来た理由。ここで何を感じて、どうしてこうなったのか。私はそれを知りたい。」


サナの視線が、ゆっくりと朝倉を捉えた。


「そんなこと、話しても…意味ない。」


「ある。あなたの話を、あなたが一番聞くべきです。」


その言葉に、サナの手が止まった。


騒動の後、サナは一時的に隔離され、店は急きょ早閉めとなった。

割れたグラスの破片、散乱したボトル。


佐久間は、掃除を手伝うスタッフ達を見守りながら、自分の胸の内に込み上げるものを抑えていた。

これまで積み上げてきた空気が、一瞬で崩れた。

自分の判断は…正しかったのか?


そんな迷いの中で、朝倉が後ろから声をかけた。


「佐久間君、よく頑張ったね。大丈夫。君は間違ってない。」


「でも…こんな…」


「組織は、完璧を望むと壊れます。だけど正直であることは次に繋がるんです。」


「君が築いた店は、静かに腐らない組織だと思うよ。」


佐久間はゆっくりと頷いた。


「ありがとうございます。」


「明日、サナさんとしっかり話をします。そのとき、君は何も言わなくていい。ただ、そばにいて立ち会ってください。」


「はい」


その夜、佐久間は一人、閉店後のカウンターで椅子に座っていた。

冷えたコースターの上には、温まることのない水のグラス。


「俺、何をしてたんだろうな…」


そう呟いたとき、そっと隣に座ったのは朱音だった。


「店長…あたし達、今でもこの店、好きですよ。」


その言葉に、佐久間は顔を伏せたまま呟いた。


「ありがとう!」


翌日、「灯 -AKARI-」は一日休業となった。

しかし、店内バックヤードでは、朝倉とサナが向かい合っていた。


「まず、話してください。昨日のことも、それまでのことも。安心してください。何も否定しませんから。」


朝倉の声は静かだった。

サナは目を伏せたまま、ゆっくりと口を開いた。


「私、韓国から留学で来ました。語学学校に通ってます。最初は問題なかったんです。」


「でも、最初の学費を払ったあとは、自由を感じて遊びまくって飲み代などでお金を使い果たしました。もう…毎月のお金をどうやって払えばいいのか、わからなくなったんです。」


「生活費に追われて、バイトを始めました。最初は昼のカフェ。でも、それだけじゃ家賃で消える...」


朝倉は頷き、静かにメモを取る。


「周りの韓国の子達も、みんな同じ。最初は自由な日本で楽しくやれると思って来て…でも現実は違った。」


「親に言えずに、学費も生活費も使い果たす。だから、夜のバイトを始める子が多い。男の人を作って、そこに転がり込む子もたくさんいます。私は…それができなかった。」


サナの手が、膝の上でギュッと握られる。


「私は、男の人に媚びるのが下手です。うまく甘えたり、頼ったりできない。だからバイトだけで全部を何とかしようとした。でも…学費にまで手が回らなかった。お金を管理できないと親が知れば韓国に戻されます。戻ったら厳しい兄にぶたれます。それが嫌だった。」


「それで…金庫を開けた?」


「最初は戻せばいいって思った。だけど、それが2回になって…自分でも、怖かった。この店は、すごく居心地が良かった。みんな仲が良くて、ちゃんと人として扱ってくれて…。バレたとき、酔ってたのもあるけど全部壊したくなった。自分なんか、いなければよかったって…。」


朝倉はサナの言葉を、最後まで遮らずに聞き切った。


「サナさん、あなたは罪を犯しました。だけど、あなたの話には逃げがありませんでした。あなたのようなケースは、実はよくある。構造的な問題です。だが、あなたのように正直に話す人は多くありません。私は、あなたに更生の機会を与える道を探します。ですが、まずは責任を取っていただきます。全額返金。店の損害に対して謝罪。そして、退職。」


サナは、涙を流しながらも真っすぐうなずいた。


「はい。やります。何でもします」


その後、朝倉は佐久間とともに店内の修復、スタッフへの説明、そしてオーナー陣への報告をすべて担った。


「今回の件は警察には出しません。ただし、二度と同じことが起こらないよう金庫管理と札番号記録を正式ルールにします。店長としての責任は重い。でも、あなたが彼女に寄り添った姿勢、それもまた一つの正しさです」


佐久間は静かに頷いた。


「朝倉さん…あの子、救えるでしょうか?」


「それを決めるのは、あの子自身です。私達はその扉を用意するだけです」


翌日。

朝倉修平は、取引先3社のオーナーを前に、一歩も引かずに立っていた。


「繰り返しになりますが、今回の件、私の監督責任も重く受け止めています。その上で、店舗側としての処分内容は以下の通りです」


朝倉の語気は強くはない。

その一言一言は、明確に事実を並べていた。


1.サナに対する全額返金処分

2.スタッフとオーナー陣に向けた謝罪文提出と、内容共有

3.店舗からの永続的な出入り禁止措置

4.再発防止のための金庫運用マニュアルの更新と施錠権限見直し


「また、今回の対応はすべて録音・議事録化し、系列店舗にも共有してもらえるよう準備しております。」


沈黙の中、最初に口を開いたのはグッズ販売会社のオーナー・坂東だった。


「朝倉君、お疲れ様だったね。処分は、十分厳しい。むしろ、よくここまで冷静に対処したよ。うちの社員でも、ここまではできないかもな。本当にありがとう!」


「こちらこそ、ありがとうございます。」


続けて、元アイドルグループ運営会社の神城が腕を組んで言った。


「警察沙汰にしないのが逆に効いてるね。誠意ある処罰がいちばん客とスタッフに伝わるんだよなぁ。」


そして、高坂沙織が深く頷いた。


「今回、朝倉さんがいなかったら店は潰れていたと思うの。私のお願いをここまて責任もってやってくれて本当にありがとう!それでね、お願いがあるの。ふふっ、良いお願いよ。安心して。この先、渋谷でオープン予定の新店舗、灯 SHIBUYAも、朝倉さんの会社と新たに契約お願いできるかしら?」


「はい。もちろんです! 誠心誠意、進めさせていただきます。」


3社から同時に新規契約の申し出。

それは、朝倉が初めて顧客の社会的事件を乗り越えた先に掴んだ報酬だった。


その日の午後、社内では月例営業報告会が開かれていた。

営業二課として提出された朝倉の成績は、単月で売上目標を530%達成。

そのうちの380%が今回の3社からの大型追加契約だった。


その数ヶ月後の会社内。

部長が資料を見下ろしたまま、静かに口を開く。


「来月付けで、営業第二課 係長 朝倉修平を営業第一課 課長へ昇進とする」


室内がどよめいた。

朝倉は椅子を引き、ゆっくりと立ち上がって一礼した。


「私は、顧客の日常の声にこそ商機があると信じてきました。顧客の問題を未然に防ぐことも営業の責任であり、何かが起きたとき、どう収めるかが次の契約を生む鍵だと思っています。」


社内の後輩社員達は、一様に感嘆の表情を浮かべた。

上司に恵まれたこと。

営業の本質を言葉で示されたこと。

それは、数字だけでは語れない指針となった。


その夜。

高坂の新店「灯 SHIBUYA」の仮内装が組み上がる中、朝倉は佐久間と店舗のカウンターに並んで立っていた。


「高坂さんはここの立ち上げを君に任せたいそうです。」


「え?」


「君は最初の灯を作った男だろ?修羅場も乗り越えた。君のように現場を愛せる人間にしか、この空間は任せられないと高坂社長はおっしゃってたんだ。」


佐久間は、数秒無言のままカウンターを見つめてから、深く頭を下げた。


「やります!必ず社員やスタッフ達が誇れる場所にします!」


「その調子だ!期待してるよ!」


かつて火種だった店は、今や再出発の舞台に変わり、追われた一人の少女は、反省と償いの末、留学を諦めず、学校に通いながら生き直しを始め、朝倉修平は営業の本質を次世代へ繋ぐ課長として、また新たな現場へ向かっていった。


『灯』それは、再生と責任の象徴であった。

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