LGBTQ問題を斬る
朝倉修平は、今日もデスクの上で二枚の報告書を並べていた。
ひとつは営業部全体の月間進捗。
もうひとつは入社半年の新人社員、佐久間楓による業務日報。
「また、気分がすぐれないので調整業務を拒否か」
朝倉はため息をついた。
佐久間は、入社から半年。
社内では非バイナリーを公表しており、性別欄には「X」と記載されている。
それ自体は問題ではない。
いや、そんなことはどうでもいいのだ。
問題は、彼...いや、彼女というべきか、その判断さえも躊躇わせる本人の曖昧な態度だった。
「LGBTQとしての尊重をお願いしたい」
「ジェンダーに配慮してほしい」
「その言い方、傷つきます」
言葉の一つひとつは穏やかだが、
どれも注意されたくない、仕事を免除されたいという自己防衛の道具になっていた。
部内の打ち合わせでも、軽作業のローテーションでも、「それ、私には少しハードルが高いです」と言って断る場面が増えてきている。
だがその割に、社内チャットでは元気にスタンプを連打していたり、休憩中には同僚と楽しそうにスマホを眺めていたりする。
「これで、配慮を求められてもな」
朝倉はデスクに肘をつき、遠くで笑い声をあげる佐久間の姿を横目に見た。
彼女がいま、どれだけ自分だけのルールで職場を歩いているか。
周囲の若手社員はすでにうんざりしはじめていた。
そんなとき、隣の課のベテラン社員がこっそり朝倉に耳打ちした。
「すみません係長。うちのメンバーが、佐久間さんと組むの、正直きついって言ってまして」
朝倉は返事をせず、静かに一枚のメモを引き寄せた。
その紙には、佐久間が今月だけで拒否した業務内容が箇条書きされていた。
資料運搬「体調に波がある」
電話当番「声の性別で誤解されるのが苦痛」
出張同行「外出先のトイレが不安」
拒否する理由は多い。
だが成果は驚くほど少ない。
朝倉は思った。
配慮を求めるのは当然だ。
しかし、それが免罪符になると勘違いしてるなら…
彼は手帳を開き、静かにペンを走らせた。
【佐久間 楓】
・LGBTQ(非バイナリー)を公表 ・業務拒否多数/周囲への配慮要求過多
・同調圧力に過敏な態度/一部の言葉を差別と訴える傾向
・成果ゼロ、責任0、主張は100
この手帳は誰にも見せることはない。
だが朝倉はこれまで、違和感を感じた部下を全員記録してきた。
それは懲罰のためではない。
彼らに必要な成長の処方箋を見出すためのカルテだ。
翌日。
業務会議での一幕。
「この件については、佐久間さんと田辺くんで調整お願いします」
朝倉が指示を出すと、田辺が「はい」と答えた直後
「係長、申し訳ありません。今週、生理的にちょっと体調が不安定でして、同席が難しいかもしれません」
佐久間が申し訳なさそうに手を挙げた。
「生理的に? 何か持病か?」
「いえ…あの、ちょっと…この時期は、心の波が出やすくて…」
会議室が一瞬、しん…と静まり返った。
田辺が苦笑しながらフォローする。
「じゃあ、自分だけで行ってきます。まあ、平気っす」
朝倉は何も言わなかった。
言わなかったが、明らかに空気が変わった。
さらに別の日。
社内アンケートにて、職場でのジェンダー的配慮が不足しているという記述が匿名で提出された。
しかしその内容には、「上司から、なぜこの仕事ができないのかと問われたことに、性別的違和感を感じた」と書かれていた。
匿名ではあるが、その日できない理由を述べていたのは佐久間だけだった。
なぜ差別にすり替わる?
朝倉は冷静な目でログを洗い直した。
彼に使った言葉は
「できない理由を確認させてくれ」
「調整が難しい理由を教えてくれ」
のみ。
威圧も攻撃もない。
そしてその翌週
社内で一人の女性が話題になり始める。
「知ってる? うちの会社の初めてのLGBTQ社員って、今でも第一線でバリバリやってる人いるんだよ」
「まじ? どの人?」
「開発の城嶋さん。もともと男性だったけど、今は女性。ていうか、仕事めっちゃできる」
その話が佐久間の耳にも届いた。
「なんで、そんな人が…普通に働けるんだろ」
彼女は、うっすらと笑みを浮かべながら呟いた。
が、その笑みに、焦りの色がにじんでいた。
翌週、社内は妙な空気でざわついていた。
きっかけは社内イントラネットに掲載された「多様性と配慮の在り方に関する提言」というコラムだった。
総務が定期的に載せている啓発記事の一つだったが、その中に「業務上のやりとりとジェンダー配慮を混同しないこと」という一文があり、特定の社員が暗に批判されたように受け止めたことで、火種が生まれた。
「あれ、絶対佐久間さんのことだよね…」
「なんか配慮を盾にするなって読めるよな」
執筆者は開発部の社員で、性転換経験を持つ城嶋麻衣だった。
ホルモン療法と手術を経て、現在は戸籍も女性に変更している。
「係長!」
昼休み、佐久間が不満げな顔で朝倉のデスクにやってきた。
「このあいだのコラム、見ましたか? あれって、完全に私への当てつけじゃないですか?」
「どう受け取るかは、読み手の自由だろう」
「配慮と甘えは違うって、あれって私が甘えてるって言いたいんじゃないですか? だって私、何か悪いことしました?」
朝倉は視線を上げた。
「君は今、悪いことという言葉を使ったな。だが問題は悪いかどうかじゃない。仕事として成立しているかなんだ」
「仕事として成立?」
「例えば、自分が苦手な業務を気分で拒否した場合、その穴を誰が埋める?」
「田辺さん、とか?」
「そう。じゃあその田辺は、ずっと負担が増える。性別やジェンダーに配慮しろという主張が、誰かの負担を許容しろという強制になっていたとしたら、それは配慮じゃない」
佐久間はムッとした表情で唇を噛み、黙り込んだ。
翌日。
開発部の一角で、朝倉は城嶋麻衣に声をかけた。
「城嶋さん、少し話を聞かせてもらえますか」
「いいですよ。なんですか?」
「実はうちの部に、LGBTQを公表してる社員がいて…佐久間楓、知ってますか?」
「ああ…名前だけなら。社内チャットで見たことあります」
「彼女が、ジェンダーを理由に業務の一部を拒否し、周囲から孤立しかけてる。差別だという声も上がってるようで…」
城嶋は静かにうなずいた。
「配慮を求めるのは当然。でも、免責を求め始めたら、それはもう違うんですよ」
「どういう意味ですか?」
「私も最初、女子トイレに入ることすら迷ってたんです。周囲の女性たちに入ってもいいですか?って、毎回聞いてました。ある人が言ったんです。私は気にしません。でも、誰か一人でも不安を感じるなら、それも尊重すべきですよねって」
朝倉は黙って聞いていた。
「だから私は、トイレ利用中の札をドアに掲げて使うようにしたんです。誰もいない時に入る。でも、私はそれでも構わなかった。成果を出せば、人はちゃんと見てくれるから」
「あなたは、最初のLGBTQ社員でしたね」
「はい。だからこそ後に続く人達が配慮を履き違えて信用を壊すのを私は見過ごしたくないんです」
「わかります。私も、そういう線引きをちゃんと教えるべきだと感じています」
「言葉で伝えても伝わらないなら、行動で伝えるしかありません」
朝倉は、静かに頷いた。
盾にするのではなく、道として生きている人間の強さ。それを佐久間にぶつけてやろう。
朝倉修平は、先輩社員・城嶋麻衣の話を聞いた翌朝、意を決して佐久間楓を呼び出した。
時間は午前10時、場所は応接フロア奥の簡易ミーティングルーム。
扉を閉めると、佐久間はすでにどこか警戒した表情を浮かべていた。
「あの、何かありました?」
「話がある。君にとっても聞いて損はない内容だ」
朝倉は一枚のタブレットを机に置いた。そこには社内イントラのコラム、配慮と甘えの境界線が表示されている。
「これ…またその話ですか?」
「この文章を書いたのは、城嶋麻衣。開発部の主任だ。君よりずっと前から自分の立場と向き合ってきた人だ」
佐久間の顔色がわずかに変わる。
「だからって、私に関係あります?」
「彼女は、最初から『女子トイレを使わせてほしい』なんて主張していない。むしろ誰かが不快に思うなら使わないと自分から引いた。その上で、社内で成果を出し、今では誰からも認められている」
「それって、私にも我慢しろってことですか?」
「違う。だが、主張の前に責任を果たせと言いたい。佐久間、お前は配慮ばかり求めて、自分がチームのために何をしたか振り返ったことがあるか?」
「私はちゃんと頑張ってます!体調が不安定な時だってあるし、声の問題だって...」
「それが全て他人のせいだというのなら、君は社会に向いていない」
「…それ、差別ですよ」
佐久間の目が鋭くなる。
「今、私のこと社会に向いてないって言いましたよね? そういうの、セクシュアリティの否定って取られますよ」
「違う。職業人として言ってる」
「私がLGBTQだから、こんなふうに厳しく言うんでしょ?」
「それは違う。成果を出している人間には、俺は何も言わない。ジェンダーも性自認も関係ない。だが、君は仕事の成果も人間関係の構築も、何ひとつ果たしていない」
「もういいです!」
佐久間は椅子から立ち上がった。
「これ以上、私の存在を否定するならハラスメント窓口に行きます」
その瞬間、朝倉の目が一段冷えた。
「そうか」
「失礼します」
佐久間がドアを乱暴に閉めて去っていく。
朝倉はその背中をじっと見つめ、手帳に一行だけ記した。
「指導に対して反抗。今後、制裁の準備に移行する」
そして午後、開発部の城嶋に改めて声をかけた。
「城嶋さん。…彼女、やっぱり自分は特別と思っていたようです」
「でしょうね。態度でわかりますから」
「お願いがある。次のチーム研修で、彼女と直接話してもらえませんか?」
「もちろん。そのために、私はここにいますから」
週明けの月曜日、午後2時。 社内のミーティングスペースに少人数の若手社員が集められた。
表向きは「ダイバーシティ理解促進のための座談会」だったが、実質は朝倉が仕掛けた直接対話の場だった。
参加者の中には、当然佐久間楓の姿もある。
そして彼女の真正面に座ったのは開発部主任・城嶋麻衣。
空気は静かに、しかしどこか張り詰めていた。
「皆さん、こんにちは。城嶋と申します。今日はすこしだけ、私の話をさせてください」
いつもと変わらぬ、落ち着いたトーン。
しかしその内容は、これまで語られることのなかった過去だった。
「私は、5年前まで戸籍も見た目も男性でした。いまは女性として暮らし、働いています」
佐久間の表情が一瞬、緊張に変わる。
「私は最初、女子トイレを使いたいなんて言えませんでした。誰もが快く受け入れてくれるとは限らないから。だから私は自分が何をすべきかを考えた。誰にも迷惑をかけないことを...」
社員たちの視線が城嶋に集中する。
「配慮してほしいって思ったことも、もちろんありました。でもそれ以上に信頼されたいと思った。この人なら任せられるって思ってもらいたかった。私が私である理由をできない言い訳にしたくなかった。会社は仕事して成果を出す場所です。成果も出していない私の意見なんて無意味だと思いました。」
城嶋はそこで一度、佐久間をまっすぐ見つめた。
「佐久間さん。LGBTQであることは何かを免除される理由にはならない。むしろ私は最初の存在だったからこそ、後に続く人のために絶対に失敗できないと思ってた。」
佐久間は口を開きかけたが、言葉が出なかった。
「だから、女子トイレを避け、男子トイレも使わず、どっちのトイレにも私は今トイレ使用中という札を持ち込んで、時間をずらして使ってた。誰にも迷惑をかけたくなかったから」
「でも、それって…つらくないですか?」
佐久間が、かすれた声でそう言った。
「つらい? もちろん。でも、私は自分のためだけに生きてるわけじゃない。LGBTQの未来を背負ってるつもりだった。だからこそ、誤解されない行動を選んだ」
「……」
「そして、それは我慢ではなく誇りなんだよ、佐久間さん」
空気が静かに変わっていく。
その場にいた誰もが胸を打たれていた。
だが、佐久間はその場で何も思っていなかったようだ。
彼女の目には、まだプライドの残骸が張りついていた。
朝倉はそれを、冷静に見届けていた。
このまま変わらなければ、次は徹底的な排除に進む
その日の夕方。
社内メッセージに、匿名投稿でこうあった。
『ある特定の個人を持ち上げるような行為は、逆に差別的です』
朝倉は画面を閉じ、呟いた。
「もう、逃がさない」
しかし、あれから何も変わらなかっ
あの日、先輩社員・城嶋麻衣が語った覚悟も、誇りも、佐久間楓の中には一切届いていなかった。
月曜の座談会から1週間後。
佐久間は朝倉に再び業務拒否を申し出た。
「今日、同行の件ですが…私、ちょっと今の環境ではパニック気味になってしまうかもしれなくて」
「環境?」
「チーム構成が全員男性で、私のことを彼って呼ぶ人もまだいて、それが精神的に負担なんです」
朝倉は静かに言った。
「そのメンバーは、先週お前の希望で選んだ相手だったな」
「はい。でも昨日の夢に出てきて…」
「仕事の話をしているんだが?」
「だから、体調面で難しいってことです。これを無理に押しつけたら、それはもうハラスメントですよね?」
朝倉の頭の中で、音を立てて何かが折れた。
…あぁ、もう無理だな。
こいつは自分が人に迷惑をかけているという自覚が一生芽生えない
彼は静かに、手帳を閉じた。
その日の午後。
朝倉は会議室に城嶋麻衣を呼んだ。
「彼女、何も変わりませんでした」
「そうですか…」
「今後、彼女にしか通用しないルールをやめます」
「つまり?」
「社内手続きとして、正式にチーム内職務回避リストから除外します。すべての業務を通常ローテーションに戻し、拒否すれば職務怠慢として処理する」
「それが彼女のためだと思います。よくいるんです。私達の業界にあーゆうタイプ。多くのLGBTQは愛されて尽くされたことないんですよ。あぁ、その事を可哀想だとか思わないでくださいね。それはあーゆう人たちにとっては期待の餌でしかありません。尽くされたことない分、優しくしてくれる環境にもっともっとって欲しくなるんです。それって普通は恋愛でやるもんなんですけどね。」
翌日、朝倉は佐久間を会議室に呼び出した。
「佐久間。来月からトイレ利用ルールを一般社員と同じに戻す」
「はい?」
「配慮として札を用意し、時間調整をしてきたが、それが特権だと勘違いされている以上、続ける理由がない。以後は男子トイレを利用するか、上申して多目的トイレの導入を求める形に変える」
「ちょっと待ってください、それって!」
「また差別だと騒ぐか?」
佐久間は言葉に詰まった。
「次に、成果報告制度を導入する。週次で業務報告を提出し、拒否業務がある場合は理由と証明を添付。提出なければ勤務実態不明として、社内監査の対象にする」
「そんな…」
「言い訳ではなく成果を記録してもらう。これが本物の対等だ。君の望んだ平等な扱いというやつだ」
佐久間は、その場に立ち尽くしたまま何も言えなかった。
その日の夕方。
朝倉は記録用に佐久間のすべての過去拒否業務と周囲のフォロー履歴をリストアップし、総務に提出。
内容は「社員対応配慮終了に伴う確認手続き」として処理され、同時に社内の多様性対応方針が改訂されることになった。
翌週、社内報に一文が掲載された。
『配慮とは、責任の上にのみ成立する。権利は、義務の果たし手に宿る』
佐久間はそれを見て、何も言わなかった。
だが彼女の席には、誰も話しかける者がいなくなっていた。
しかし、本当の地獄はここからだった。
朝倉は翌週の朝礼でこう通達した。
「来月より、営業課の若手社員を対象に現場耐性研修を行う。外部委託なし。社内異動なし。直属上司とのペアワークで全業務を実地経験してもらう」
全社員がざわついた。
だが佐久間だけは、顔面蒼白だった。
「係長…それって…」
「例外は認めない。性別、役職、社歴にかかわらず、対象者は全員同条件」
朝倉は佐久間をまっすぐ見た。
「これは訓練ではない。社会人として働く覚悟を取り戻す研修だ」
佐久間は、その場に立ち尽くしたまま、初めて自分が本当に守られなくなったことを知った。
佐久間楓は孤独を選んだわけではなかった。
だが、結果として彼女は職場から一人ずつ切り離されていった。
その始まりは、正式な業務適応不良者としての内部処理だった。
朝倉が総務に提出したのは、こういう書類だった。
【職務拒否記録一覧】
業務拒否:計19回 同行拒否6、資料作成4、当番回避5、電話対応拒否2、その他2
フォロー代替者の記録:延べ31人
明確な成果報告:0
【最終指導対応記録】
座談会 LGBTQ先輩社員との対話 反応なし
通常業務復帰指示 拒否
指導後の改善なし
これを受け、社内で個別業務研修室という名の隔離業務部署が準備された。
場所は旧備品倉庫。
冷房は旧式、窓はなく、外との通話も遮断された個室。
与えられた仕事は全社員分の紙資料の仕分け・印刷
ファイル分け・棚整理
故障プリンタの紙詰まり対応
しかも一切のチーム作業なし。
業務連絡もチャットツールではなく、掲示板への貼り出し。
トイレは、旧更衣室横の多目的トイレ。
使用は朝と昼、夕方の3回まで。
社員との接触を避けるために、使用中は札を掲げるルールが改めて厳格に施行された。
「最初は楽だったんです。誰にも見られないし、何も言われない」
それが佐久間の第一印象だった。
だが、3日目。
昼休みになっても誰も声をかけない。
食堂に行っても、誰一人視線を向けない。
チャットの通知は一つも来ない。
社内SNSには、彼女の投稿に誰もリアクションをしない。
「あれ?」
自分は今、いないことになっている。
1週間後。
彼女はノートにこう書いていた。
なんで? 私は差別されてるだけなのに
2週間後にはこうなっていた。
何も話さない日が3日続いてる。
私の声、誰か覚えてる?
3週間目。
彼女は無言でファイルを詰め、ラベルを貼り、黙って報告書を箱に入れた。
誰も見ない、誰も褒めない。
だが、それが仕事というものだった。
ある日、朝倉のもとに城嶋麻衣がやってきた。
「佐久間さん、どうしてますか?」
「作業は続けている。だが、反省というより、現実から逃げないだけの機械になっている」
「そうですか」
「彼女は自分が差別されていると今も思っている。だが、それを主張する相手が、もう社内にはいない」
「……」
「誰にも届かない言い訳は、声とは呼ばない。それは、ただの独り言だ」
それから半年。
佐久間楓は社内から退職願を出した。
理由は「社風との不一致」
社内報には一切掲載されず、送別会もなし。
ただ、業務引き継ぎマニュアルの一行にだけ、彼女の名前が残った。
そして、彼女の過去の事例は 「研修教材:業務免責を盾にした失敗例」として、今も全社員教育資料に残されている。
朝倉の記録には、こう書かれていた。
『彼女は旗(導く者)ではなかった。壁(立ちはだかる障害)だった』