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スーパー上司  作者: マリブン


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17/19

【Season2】インバウンド幻想を斬る! ①

火曜日の午前八時四十五分。

ASAホールディングス本社ビルの三十六階、執行役員フロアは、まだ始業前だというのに妙な熱を帯びていた。


エレベーターホール前の壁には、昨夜遅く差し替えられたばかりの電子掲示板が光っている。


【臨時・特別経営会議】


議題:インバウンド依存度見直し、および地方小売網の再構築について

出席:


代表取締役社長 八重樫 雄三

取締役副社長(経営戦略担当) 一ノ瀬 眞

取締役CFO(財務担当) 神宮寺 孝志

取締役(物流・小売事業担当) 真鍋 遥

営業第二課 課長 朝倉 修平

経営企画室 主任 田島 理久

営業第二課 事務担当 佐伯 美羽(議事録)


最後の二つの名前を、エレベーターを降りたばかりの朝倉修平は、ちらりと見上げた。


(わざわざ名前を出すってことは、見せたい人間を揃えたってことか)


いつもの落ち着いたスーツ。

ネイビーのジャケットに、わずかに光沢のあるグレーのネクタイ。

営業第二課のフロアではすっかり「スーパー上司」として定着したその男も、このフロアに足を踏み入れると、さすがに背筋を一段階伸ばす。

自動ドアが開くと、廊下にはすでに二人の姿があった。


「朝倉課長、おはようございます。」


最初に声をかけてきたのは、経営企画室の主任・田島理久。

細身の体に、少し大きめのジャケット。

奥の目は、興味と緊張が半々だ。


「早いな〜田島君。八重樫社長は?」


「もう、お入りになってます。副社長と神宮寺CFOも。真鍋取締役は、さっきエレベーターに乗られたのを見ました。」


「そうか...。」


朝倉は短く頷き、隣に立っていた女性にも視線を向けた。


「おう、佐伯さん。君も呼ばれたのか?」


「は、はい。おはようございます!議事録担当ということで呼ばれました...。」


営業第二課の事務を支える佐伯美羽は、いつものオフィスカジュアルより少しだけ落ち着いたベージュのジャケットを羽織っていた。

緊張で指先をもぞもぞさせているのが、遠目にも分かる。


「大丈夫。いつものように、事実だけを書けばいいんだよ。余計な色は、つけなくていいからね。」


「はい...。」


佐伯は、小さく息を吐いてうなずいた。

彼女がこの場にいるのは、単なる議事録要員ではないことを、朝倉は知っている。


現場の言葉を、そのまま上に届ける人間。

それが、彼女の役割。


特別会議室の扉の前に立つと、内側から低い声が聞こえた。


「インバウンド比率、四〇パーセントですよ?中国が止まれば、あの地方の店舗はほぼ全滅です」


「だからこそ、依存から抜けるべきだと言っている。補填の話は、その後だ。」


声の主は、神宮寺CFOと、一ノ瀬副社長だろう。


田島が朝倉を見る。

朝倉は軽く顎を引き、ノックした。


「失礼します。営業第二課、朝倉です。」


「入ってくれ。」


落ち着いた低音。

それは、この会社の頂点である八重樫雄三の声だった。


―――


特別会議室は、いつもの部長会議の部屋より二回り広い。

大きな窓からは、秋晴れの東京の高層ビル群が一望できる。

しかし、今この部屋にいる誰も、その景色を楽しむ余裕はない。


楕円形のテーブルの最奥に、社長席。

そこに座る男は、六十代前半。

白髪交じりのオールバックに、深い皺が刻まれた額。

その目つきはまだ現役の営業マンのそれに近い。

ASAホールディングス代表取締役社長、八重樫雄三。


その左隣には、副社長の一ノ瀬眞。

四十代後半。

細い目と、いつも微笑んでいるような口元。

その実、社内では「微笑みながらナイフを抜く男」と囁かれている。


右隣には、CFOの神宮寺孝志。

五十代半ば。

銀縁メガネに、いかにも数字の人間という無駄のない身振り。

報告書の数字を一桁誤魔化しただけで、課長を一人飛ばしたという噂もある。


窓側には、物流・小売事業担当取締役の真鍋遥が座っていた。

四十代前半。

ショートボブの髪をすっきりまとめた女性で、その視線には常に「現場の数字」と「倉庫の棚」が同時に浮かんでいるようなリアリティがある。


その一角に、営業第二課課長 朝倉修平。

さらに壁際には、経営企画室の田島と、ノートPCを開いた佐伯が控えていた。


「わざわざ来てもらってすまないな、朝倉君」


八重樫が、微かに口角を上げて言う。


「いえ。本日は、呼んでいただいて嬉しい限りです。」


「ここからは形式張らなくていいからな。ここにいるメンバーは、全員が現場を壊す覚悟がある連中を揃えている。そうでなければ呼んではいないけどな。」


さらりと言ってのけるその一言に、部屋の空気が一段階締まる。


(やっぱり、今日は本気だな)


朝倉は、静かに着席した。


「さて」


資料も配られないまま、会議は始まった。

プロジェクタもついていない。

テーブルの上にあるのは、各自のノートとペンだけだ。

このやり方を好むのは、八重樫の癖。


「数字は、頭に入っているな?」


八重樫が尋ねる。

全員が黙って頷いた。


神宮寺がメモを一枚開きながら、淡々と口を開く。


「地方の百貨店、家電量販店、ドラッグストア、アウトレットモール等、当社傘下及び提携先の売上構造です。直近三年平均で、インバウンド比率は全体で約三二パーセント。そのうち、中国本土・香港・台湾からの顧客が七割強。」


「つまり…?」


一ノ瀬が、わざとらしく問う。


「中国人が来なくなれば、少なく見積もっても売上の二〇パーセント前後が吹き飛びます。固定費はそのままですから、利益率が...」


「吹き飛ぶどころか、沈む...な...。」


真鍋が、低く言葉を挟んだ。


「地方の倉庫と店舗維持コストを考えれば、あのエリアは赤字転落どころか、撤退せざるを得ないところが続出します。」


「撤退すれば?」


八重樫の質問は、いつも短い。


「雇用喪失。固定資産売却による一時的な利益は出ても、長期的なブランド毀損。『ASAは地方を切り捨てた』というレッテルが貼られます。」


「メディアが大好きな、格好の餌だな。」


 一ノ瀬が肩を竦める。


「反中は結構だが、補填は誰がする...か。」


八重樫の口元が、わずかに歪んだ。

その言葉に、朝倉は心の中で小さく反応する。


(どこかで聞いたフレーズだな)


SNSでも、居酒屋でも、現場の社員の雑談でも。

「中国人観光客、いなくなればいいのに」という声とセットで、必ず出てくる問い。

その穴埋めは誰がするのか?

誰も、まともに答えられないまま、罵り合いだけが続いている。


この会議室は、少なくともそれをやめようとしている。

その点だけは、悪くないと朝倉は思った。


「八重樫社長。」


神宮寺が、慎重に言葉を選ぶようにして続ける。


「率直に申し上げて、インバウンドからの脱却”を掲げること自体は、私も反対ではありません。ただ...」


「ただ、の後が長いのが、お前の悪い癖だ、神宮寺君。」


一ノ瀬が笑う。

しかし、CFOは動じない。


「補填の筋道が見えないまま、反中の空気に乗って動けば、株主から真っ先に問われるのは、政治姿勢ではなく回収可能性です。数字を見せずに『気合いで国内需要を喚起します』と言っても、誰も信用しません。」


「それはそうだな。」


八重樫は頷き、視線を真鍋に移した。


「現場は、どう見ている?」


「インバウンドがゼロになれば、まず地方の店舗から死んでいくでしょう。」


真鍋の返答は短く、はっきりしていた。


「都市部はなんとか耐えますが、それでも免税売上に依存している店舗は多いですね。『中国人が来る前提』でフロア構成を組んだ家電量販店やドラッグストアは、モデルそのものを見直さないと、ジリ貧です。」


「なるほど。」


八重樫は、テーブルを軽く指で叩いた。


「では、質問を変えよう。中国人に頼らずに、地方の店を生かす方法はあるか?」


会議室に、一瞬沈黙が落ちた。

誰も、すぐには答えない。

田島が、壁際で手帳を握りしめたまま、そっと視線を上げる。

佐伯は、キーボードに置いた手を止めた。


(ここで答えられる人間は、この部屋に一人だけ)


田島は、そう思っていた。

その一人が、いま視線を上げる。


「あります。」


静かな声。

朝倉修平が、テーブルの中央を見据えていた。


「ほう。」


八重樫が、目を細める。


「聞こうじゃないか、朝倉君。」


「はい。」


朝倉は、椅子に深く座り直すことも、わざわざ立ち上がることもしなかった。

ただ、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「中国人に頼らずに地方を救う。その問いを、私は少し別の角度から見ています。」


「別の角度?」


真鍋が、眉をわずかに動かした。


「はい。『誰が買うか』の前に、『何に金を払っているのか?』を問い直す必要があると思っています。」


「…。」


八重樫は、面白そうに口元を緩めた。


「続けろ。」


「今、当社が運営している地方の百貨店や家電量販店、ドラッグストア、アウトレット。どこも『商品』と『在庫』を前提に設計されています。インバウンドに頼ったのも、大量に仕入れて、大量に売る”というモデルに、都合が良かったからです。」


「それは、当たり前の話ではないのか?」


一ノ瀬が、半分挑発するような声音で言う。


「小売は、物を仕入れて売る商売だ。違うのか?」


「昔はそうでした。」


朝倉は、さらりと返した。


「しかし、今は違います。少なくとも、お客様は既に違う世界にいるのです。」


神宮寺の視線が、わずかに鋭くなる。


「説明してくれ。」


「はい。」


朝倉は、壁際の二人。

田島と佐伯に一瞬視線を送り、それから再びテーブルに目を戻した。


「お客様は、もう『店に並んでいる在庫』を見に来ているわけではありません。」


「では、何を見に来ている?」


「それは、責任です。」


短い一言に、神宮寺のペン先が止まった。


「責任…?」


真鍋が、ほんの少し身を乗り出す。


「オンラインで何でも買える時代です。メーカー直販サイトもあれば、大手ECもありますよね?そんな中で、わざわざお客様が地方の店舗まで足を運ぶ意味は何なのか?」


朝倉は、指を一本立てる。


「『何かあった時に、責任を取ってくれる窓口がある』という安心感。それにつきます。」


会議室の空気が、わずかに揺れた。

田島が、無意識のうちにペンを動かしている。

責任の窓口。

その言葉を書き留めながら、自分の心にも刺さっているのを感じていた。


「なので私は、こう考えます。」


朝倉は、続ける。


「当社が捨てるべきなのは、店ではありません。店に在庫を持つ前提です。」


静かな声だったが、その一言はテーブルの上に重く落ちた。


「在庫を、持たない…?」


神宮寺が、半ば反射的に聞き返す。


「在庫を持たない店が、小売と呼べるのか?」


「呼べます。」


即答。


「店は、物を置く場所から、責任を引き受ける場所になるだけで、そうなるでしょう。」


「具体的に言ってもらえないか?」


八重樫が短く指示する。

朝倉は一拍置いて、はっきりとつづけた。


「はい。まず、在庫と配送は、全てメーカーに移します。店は、展示と注文受付と保証とクレーム対応だけを担う。商品はメーカーから、各店舗の名前でお客様の元に直接送るのです。」


その言葉を聞いた瞬間、会議室の中でいくつかの視線が交錯した。

真鍋は、物流ネットワークの図を頭の中に描き直している。

神宮寺は、在庫回転率とBSの形を組み替えている。

一ノ瀬は、「政治的な絵」にこの案をどう乗せるかを計算していた。


「つまり、こういうことか?」


と、一ノ瀬が口を開いた。


「各店舗は、商品のショールームになる。仕入れはしない。発注だけする。その代わり、何かあった時の責任はすべて店が引き受ける、と?」


「はい。その通りです。」


「在庫リスクは、メーカーが持つ?」


「はい。」


「じゃあ、地方の店に何のメリットがある?」


その問いに、朝倉は少しだけ表情を和らげた。


「そうです!そこが、一番大きなポイントです。」


「おお、聞こうか。」


「地方の店は、地方の窓口としての価値を持てます。」


朝倉は、指を二本、テーブルの上に立てた。


「一つ。ECが苦手な高齢者や、オンラインに不安を持つお客様にとって、地方の店は『注文してくれる人』になります。」


もう一本の指を立てる。


「もう一つ。トラブルが起きた時に、『電話一本で相談できる相手がいる』という事実が、地方の店の最大の価値となります。」


「…。」


真鍋が、腕を組んだ。


「つまり、こういうこと?」


彼女の声には、現場を知る人間特有の厳しさと、わずかな期待が混じっている。


「商品の箱は、地方の店には届かない。けれど、困った声は地方の店に届く。その声を受け止めること自体が、地方の店の仕事になる、と?」


「はい。その通りです。その代わり、地方の店は在庫地獄から解放されます。」


朝倉は、淡々と続ける。


「売れ残りを気にして、無理な値引きや押し売りをする必要もない。店員は、『この商品が本当にこの人に合うかどうか』だけを考えればいいのです。」


「また構造の話か?」


一ノ瀬が、半ば呆れたように笑った。


「君は本当に、現場の努力や根性という言葉が好きじゃないんだな?」


「それは誤解です。むしろ、好きです。現場の努力も、根性も。私がそれを証明してきた一人です。」


朝倉は、ふっと笑う。


「ただ、間違った構造の中で消費される根性を見るのが嫌いなだけです。」


その一言に、田島の胸が、きゅっと掴まれる。


(ああ...。これだ...。)


営業第二課の若手たちが、なぜこの課長を「スーパー上司」と呼ぶのか。

数字で殴るだけでもなく、感情に流されるわけでもない。

構造の話をしながら、人間の疲弊を一番嫌う。

そのバランス感覚が、彼の武器なのだと、田島は感じていた。


「うむ。理屈は分かった。」


神宮寺が、ペンを回しながら言う。


「しかし、それはメーカーが在庫リスクを持ってくれるという前提だ。全てのメーカーが、そんな条件を飲むと思うのか?」


「飲まないメーカーも、当然出てくると思います。」


朝倉は、即座に認めた。


「だからこそ、選別が必要です。」


「選別?」


真鍋が、目を細める。


「はい。在庫を押しつけてくるメーカーではなく、責任を分担してくれるメーカーと組む。こちらも『売り場』ではなく『責任の窓口』として振る舞うのです。」


八重樫が、静かに目を閉じた。


「責任の分担か...。」


その言葉を、かみしめるように繰り返す。


「君たち、ちゃんと聞いてたか?」


ふいに、社長が視線を上げる。


「中国人が来なくなったら店が潰れる、という話は間違っていない。だが、インバウンド依存から抜けようとすると、『じゃあ誰が補填するんだ』という話になる。今、朝倉君が言ったのは...。」


八重樫は、ゆっくりと周囲を見回した。


「補填を、一社で背負わない構造を作れという提案だ。」


会議室の空気が、少しだけ変わる。

反中でも、親中でもない。

政治スローガンでもない。

数字と現場の両方を見ながら、誰がどこまで責任を持つかを組み替える話。

それは、この会社がずっと先送りにしてきた種類の議論だった。


「面白い。」


一ノ瀬が、口元を緩める。


「つまり、君の言いたいことを極端にまとめると...。」


指を一本立てる。


「店は潰さない。ただ、在庫は店に置かない。地方の店は、物を並べるのではなく、責任を引き受けることで生き残る。」


「はい。」


「キャッチコピーとしては、悪くないな。」


一ノ瀬が笑うと、田島が思わず吹き出しそうになるのを必死でこらえた。


(この人たち、本当にこのレベルで世界の構造を動かしてるんだ。)


普段、自分が回している企画書や数値報告のスケールの小ささを、思い知らされる瞬間だった。


「ただし。」


神宮寺が、あえて水を差す。


「そのモデルを実際に動かすとなると、システムの統合、物流の設計、契約書の見直し、コンプライアンスの整備など、課題は山ほどありそうだね。」


「おっしゃる通りです。」


朝倉は、真正面から受け止めた。


「だからこそ、いきなり全社展開を決めてほしいなんて言えないです。」


「では、何からはじめようか?」


八重樫が、静かに問う。

朝倉は、短く息を整えた。


「まず、一つの地方エリアで実証実験をさせてください。」


会議室に、再び静寂が落ちる。


「具体的なエリア、店舗数、メーカー数、期間。それを整理した上で、改めて正式なプロジェクトとして上程します。」


朝倉は、しっかりと八重樫を見据えた。


「その前提として、お願いしたいのは一つだけです。」


「一つ?」


「はい。」


彼の声は、いつもと同じトーンのはずなのに、どこか熱を帯びて聞こえた。


「店を守るという目標のために、店の形を壊すことを、経営として許容していただきたいのです。」


その瞬間、佐伯の指がキーボードの上で止まった。

打ち込むべき言葉が、胸の奥に染み込んでいく。


店を守るために、店の形を壊す。


議事録の一文としてだけでなく、

この会社の、そして地方の店で働く人間たちの、これからを象徴する言葉として。


(これを、ちゃんと残さなきゃ)


佐伯は、そっと深呼吸をしてから、再びタイピングを始めた。


「八重樫社長...。」


田島が、思わず口を開きそうになったその時。

社長は、ゆっくりと椅子の背にもたれ、天井を一瞬見上げてから、再び視線を戻した。


「朝倉君。」


「はい。」


「君の話は、よく分かった。」


静かな口調。


「だが、私はまだ、それが本当に地方の店の現場で受け入れられるのかを、腹の底からイメージできていない。」


「正直におっしゃっていただき、ありがとうございます。」


朝倉は素直に頷く。


「だから、こうしようじゃないか。」


八重樫は、テーブルの上に置いていたペンを指で弾いた。


「次のステップとして、現場の声を、ここに連れて来て欲しい。」


会議室の空気が、わずかに揺れた。


「地方の店長。ドラッグストアでも、家電量販店でもいい。インバウンドに依存した結果疲弊している現場の人間を、何人かこの場に連れて来て欲しい。」


社長の視線が、一瞬だけ佐伯に向き、それから朝倉へ戻る。


「店の形を壊すという話をするなら、今の形を支えている人間の顔を、私は見ておきたいと思う。」


その言葉に、誰も反対しなかった。

店を守るために、店の形を壊す。

その議論は、いよいよ現場を巻き込んでいく段階に入るのだ。


「よし。」


八重樫は、短く息を吐いた。


「今日はここまでにしよう。朝倉君、現場の顔ぶれの候補を、三日以内に出してくれ。」


「承知しました。」


朝倉は、席を立って一礼した。

会議室の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


―――


会議室を出ると、廊下の空気が急に軽く感じられた。


「お疲れさまでした!」


田島が、半ば呆けたような顔で声をかけてくる。


「何だよ、その顔は(笑)」


「いや…。スーパー上司ってあだ名、あの場だと、何かすごく納得しました。」


「やめろよ。変なあだ名は、社長の耳に入る前に終わらせてくれ。」


「もう遅いと思いますけどね〜。今日ので確信しましたよ。課長は、店の上司じゃなくて、構造の上司なんだなぁって。」


「意味が分からないよ(笑)」


朝倉は肩を竦め、隣を見る。


「佐伯さん。議事録は間に合いそうかな?」


「私、がんばります...!」


彼女は、まだ少し震える声でそう答えた。


「店を守るために、店の形を壊す。この一文だけは、絶対に間違えないように打ちたいと思います!」


「そうしてくれたら嬉しいな。」


朝倉は、小さく笑った。


(さて...)


頭の中では、既に次の段取りが始まっている。

地方の店長たち。

誰を連れてくるべきか。

どの店のリアルな疲弊を、このフロアに見せるべきか。


そして何より。


「店に在庫を置かない」という発想を、どうやって彼らのプライドを折らずに伝えるか。

それは数字だけでは解決できない、

人間の物語の領域。


(ここから先は、構造と感情の両方が要るな)


朝倉修平の、新しい戦場が決まりつつあった。

それは、在庫でも、中国人観光客でもなく。

店の形を壊す勇気と、店を守りたいという気持ちを、どう同じテーブルに乗せるかという戦いだった。


②へ続く

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N1502KW
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