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どっちが本当?


 大きな光の塊に包まれ、あわやここまでと覚悟したローゼライトをダヴィデが助けた。ように見せ掛けて死を偽装した。

 会場の外に転移魔法で連れ出されたローゼライトはあの光がダヴィデが態とローゼライトの方へ跳ね返した敵の魔法だと説明。



「他の人に被害はいってないわよね!?」

「当然さ。おれを誰だと思ってる」

「はいはい。とても強い魔法使い様よ」



 王国屈指の魔法使いがヘマをする筈がないかとローゼライトも釣られて笑った。



「戻って調査をしないと確実なことは言えないが恐らくあの襲撃での犠牲者はお前さんだけだ」

「他に死んだ人はいないのね。良かった」

「大なり小なり怪我を負った奴は何人かいたが命にかかわる程じゃない」

「うん」



 これからが大変だ。とローゼライトは意気込む。

 父やフレアには頃合いを見計らって生存の報せを届けるとし、先ずは一旦この場を離れる事となった。

 ダヴィデの転移魔法で舞踏会会場から森の中の一軒家に移った。二階建てで周囲に背の高い灯りが設置され、夜の森でもとても明るい。



「おれの家だ。部屋は無駄に余ってるから好きに使え」

「一人で暮らしてるの?」

「ああ。偶に家を掃除しに来るのがいるから、来たら紹介してやる」

「うん」



 ダヴィデに家の中を案内され、空いている部屋でも掃除が行き届いてるダヴィデの隣をローゼライトは与えられた。

 家具が何もない。今夜はダヴィデの 部屋のベッドで眠ることに。ダヴィデは一階で寝る。初めはローゼライトが一階で寝ると譲らなかったものの、伯爵令嬢をソファーの上で寝させられないとダヴィデから却下されたのだ。

 家主が言うのなら仕方ないとローゼライトは諦めた。

 一通りの案内が終わると「腹は?」と聞かれ「空いてない」と答えた。



「あ……しまった。女物の服がない……」

「街の店は閉まってるから…………あ、ダヴィデ。こっそりと私の部屋に行けない? 今ならまだお父様やフレアも戻っていない筈だから、私の部屋にある服を幾つか持って来たいの」

「構わんがバレないか?」

「普段着ない服は沢山あるから、それを持って来ればバレないわ」



 早速、ダヴィデの転移魔法でシーラデン伯爵邸のローゼライトの私室に飛んだ。隣のドレッサールームから持ち出しても無くなったとバレない服を幾つか選び、大きな鞄に下着や小物類、財布を詰め込んだ。後は街で買えば十分。

 ローゼライトの予想通り、邸内はとても静かだ。父やフレアがまだ戻っていない証拠だ。



「行けるか?」

「ええ、お待たせ」



 差し出されたダヴィデの手を取り、再びダヴィデの家に転移した。



「おれは会場に戻る。お前は風呂にでも入ってろ。おれの魔法で勝手に湯が出るから」

「すごいわね」

「あと、タオルは浴室の前にある棚に入ってる」

「ありがとう」



 必要な事だけを説明するとダヴィデは転移魔法で会場に戻った。



「あ」



 髪や体を洗う石鹸等はどうしよう……と悩むもダヴィデのを借りようとローゼライトは浴室に行った。お風呂から上がったら、父やフレア宛の手紙を書いてそれから何をするか決めていった。


 風の魔法を上手に使ってドレスを脱ぎ、浴室に入ると天井に吊るされた小さなシャンデリアが明かりを灯した。橙色の光に照らされた浴室は広々としており、宙に浮いていた水玉から勢いよくお湯が浴槽に注がれあっという間に満杯になった。

 ダヴィデは毎日こんな浴室を使っているのかと感嘆としつつ、髪の毛を下ろしたローゼライトはまず体を洗おうと椅子に座った。別の水玉がローゼライトの頭上に現れると浴槽にお湯を注ぐ程の勢いはなく、ゆっくりと適温のお湯が流れ出る。髪全体を濡らし、次に洗髪剤はどれかと周りを見たらボトルがこっちだと言わんばかりにローゼライトの顔の前に浮いた。



「これね」



 便利な魔法だと、明日ダヴィデに方法を教えてもらうとしつつ、ローゼライトはボトルから洗髪剤を適量手に取った。



「いい香り」



 何の花の香りだろうか。薔薇とはまた違う甘い香り。好きな香りだと微笑み、手で泡立て髪を洗っていった。

 泡を宙に浮かんだ水玉から注がれるお湯で洗い流し、今度は体を洗う番となった。こちらもボトルが唐突に浮かんだのですぐに分かった。一緒に浮かんでいたスポンジに液体を染み込ませ、少しお湯を含ませて泡立てていく。もこもことした弾力のある白い泡と洗髪剤と同じ香りが心やすらぐ。泡で体を丁寧に洗い、背中部分は手こずったもののなんとか洗えた。

 一人でお風呂に入った経験がなかった為、不安に感じていたのに一人でも入れると知った。良い経験だ。

 髪を上に一つに纏めて浴槽に入ると少し熱いが心地よいお湯が体を包み込んだ。



「癒される……」



 今頃会場はどうなっているのか。ラルスは無事ヴィクトリアと脱出しているか気になるがローゼライトの他に死者はいず、命にかかわる大怪我を負った者もいないと語ったダヴィデの言葉を信じる。



「お父様に話しておいて良かった」



 前以て話すつもりはなかったのに父の前になると隠し事も嘘も通用しないようになって口にしてしまう。今回はきっとそれで良いのだ。

 ローゼライトは鼻ギリギリまで体をお湯に沈めた。

 お風呂から上がり、タオルは浴室の隣にある棚にあると教えられたので引き戸を開けた。大量のタオルがあり、適当に手に取って吃驚した。ふわふわなのだ。初めて会った時、空腹で倒れていたダヴィデに生活力は皆無の気配がしていた。実際はしっかりと生活していると分かり、何故あの時空腹で倒れていたのかが非常に気になる。本人曰く、食べるのを忘れていただけらしいが。

 タオルで体を自分で拭くのも初めてで、普段侍女がしてくれるように拭いていき、下着を身に着け、服を着た。ワンピースだから一人でも着られる。



「しまった、化粧品やボディクリームを忘れてた」



 お風呂上りは必ず体や顔のケアを徹底してするのに大事な道具の存在が頭から抜け落ちていて、肩を落としながら明日街へ買いに行くとする。シーラデン家御用達の商人から購入している化粧品と同等の物が街で売っているかのかとふと抱いた。



「どうせなら、自分で作ってみようかしら」



 ローゼライト自身魔法薬に詳しく、薬草の知識も十分持ち得ている。自分で自分に合う化粧品を作る。今までになかった発想を得て嬉々とした様子で着替えを終え、ダヴィデの戻りを待った。





 会場に戻ったダヴィデは中央に集められている襲撃犯を囲む国王や王太子の許に近付き、状況の説明を求めた。王国屈指の魔法使いが何処に行っていたのだと王太子に呆れられ、急用が出来ただけだと躱し話を求めた。王太子は「全く」と呆れながらもダヴィデの求める説明に応じた。



「襲撃犯はやはり敵国の者だ。捕縛された場合に発動する自爆コードが体に刻まれていた」

「解除は」

「もうしてある。爆発する心配はない。会場の修理も他の魔法使い達が現在作業中だ」

「そうか。尋問は騎士に任せるとしよう」

「こらこら、お前が勝手に決めるな。ダヴィデ、お前の急用って……」



 途中で王太子の声は途切れた。誰かが喚く声がダヴィデや王太子の許まで届き、何事かと振り向くとラルスが数人の騎士に抑えられながらも損傷が激しい場所で抗っていた。あの場所はローゼライトが爆発に巻き込まれた場所。死者はローゼライトだけと報告を受けている王太子は悲痛な面持ちを浮かべた。



「犠牲者は絶対に出さない計画の筈だったのにっ、何故こんな事に」

「……」



 ローゼライトの爆死を偽装した本人がいると知らないのは当然で。ダヴィデは明らかに生きている筈がないのにローゼライトを呼び続けるラルスを見続けた。ローゼライトの話から、彼はアバーテ公爵令嬢のヴィクトリアを好いていると聞かされてそう思っていたのだが様子を見ていると違う気がする。いや、婚約者が無残な死を迎えればたとえ好きな相手がいても取り乱すか、と自分を納得させた。



「陛下」



 ラルスを見つめているダヴィデの耳に今度は別の声が入った。相手はよく知る男性——シーラデン伯爵だ。側に養子のフレアはいない。



「伯爵……」



 国王もまた王太子と同じで娘を失った伯爵に悲痛な面持ちを見せた。



「ローゼライトの事はお構いなく。不運だった。それだけです」

「だが」

「後日、ローゼライトの死亡届け、並びにベルティーニ公爵家との婚約解消を求めます。受理して頂けますね」

「あ、ああ。伯爵、そなた無理をしていないか」

「いいえ、陛下。私への心配は無用です。今、魔法使い達への魔力回復薬を屋敷で保管している在庫から早急に王宮へ運ぶよう手配しております。修理が終わった頃には届くかと」

「そ、そうか」

「では、私はこれで」



 社交界では愛妻家と有名でローゼライトを出産後体を壊し、領地で療養する妻の許へ足繁く通う伯爵に愛人や第二夫人として娘を宛がおうとした貴族は多く、その度に伯爵は断り続けた。子供はローゼライトしかいなくても既に養子のフレアがいる。嫁ぐ前に亡くなってしまっても後継者問題はない。

 娘を失った伯爵の冷静さは後継者の問題がないからか、それとも元々ローゼライトに愛情が無かったのか、どう言葉を掛けてやれば良いのか非常に悩んでいた国王を別の意味で悩ませる。



「伯爵ってあんなに冷たい人間だったのか」



 王太子もまた、伯爵の態度に驚愕している。



「あれを見るとラルスが増々痛々しい」

「確かシーラデン家の娘とベルティーニ家の坊ちゃんの婚約って、シーラデン家の娘の額にベルティーニの坊ちゃんが傷を付けたからだろう」

「そうだとしても……って、珍しいな。貴族の事情に興味がないダヴィデが知ってるなんて」



 内心「やばっ」と焦るものの、決して表面には出さずシーラデン伯爵家が領地で栽培している薬草はダヴィデにとって非常に重宝しており、ローゼライトとも何度か言葉を交わしたことがあるのだと適当に理由付けをした。

 王太子もダヴィデ含めた魔法使いがシーラデン家の薬草を重宝していると知っているので疑わず「そうだったのか」と納得した。 



「苦しい結果になったが今度は好きになった娘と婚約すればいいだけじゃないのか」

「馬鹿! ラルスはシーラデン嬢を好いていたんだぞ。そんな簡単な話じゃない」

「そうなのか?」



 内心「うん?」と首を傾げながら王太子にこんな話を聞いたと出してみた。



「ベルティーニ家の坊ちゃんってアバーテ家の娘が好きだって、何時だったかシーラデン家の娘が言ってたような」

「昔の話だ。確かに昔はアバーテ嬢に片思いしていた。シーラデン嬢の額に傷を作ってしまい、アバーテ嬢と婚約が出来なくなって公爵から大層叱られ落ち込んではいたがラルスはもうシーラデン嬢の事しか……」



 まだ王太子の話は続いているがダヴィデの意識は既に違う方へ行っており、全く話を聞いていない。ローゼライトの言う通りラルスはヴィクトリアが好き、だが現在は違うと王太子は話す。


 ——どうなんだ?


 襲撃犯をあしらいつつ、そろそろローゼライトの死を偽装するかと実行に移そうとした時に見えた、足を挫いて動けなくなったヴィクトリアを抱き上げたラルスの瞳には好意の気持ちが出ていた。それを見てローゼライトがいなくてもラルスにはヴィクトリアがいる、安心と言えるだろうと判断してローゼライトの死を偽装した。



「こうなってしまっては、アバーテ家の娘と婚約しても問題ないんじゃ」

「アバーテ嬢には既に婚約者が決まっている。もうすぐ、その発表をする茶会を開く予定だ。ラルスやシーラデン嬢も招待すると張り切っていたのに……これではラルスも参加出来ないな……」



 更に内心「うん???」と深く首を傾げる羽目になった。







読んでいただきありがとうございます。



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