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襲撃



 ヴィクトリアに婚約者が決まったという衝撃的事実を聞かされた後でも、何とかラルスとファーストダンスを終えたローゼライトは普段の夜会通り自由行動にしましょうとラルスと別れた。ラルスに一瞬呼び止められるも冷たい風に当たりたいと後にしてもらい、テラスに出たローゼライトは深く息を吐いた。

 自分と婚約解消になってもラルスは好きな人と結ばれなくなった。もっと早くから事を起こしていたら、ヴィクトリアに婚約者は現れずラルスは好きな人と結ばれていただろうに。

 情報収集をしていなかった自分も自分だ、とローゼライトは再び息を吐いた。

「あまり溜め息ばかり吐いていると幸せが逃げていくぜ」と頭上から声が降った。声の主が上から現れた。



「ダヴィデ」

「よお」

「珍しいわね。ダヴィデも参加していたの」

「何言ってる。お前さんの為だ」

「そうだったわね」



 魔法使いも場合によっては出席を求められる夜会。貴族出身者もいれば平民出身もいるが魔法使いにとって身分はあまり関係がない。貴族と平民でも昔から付き合いがあるかのように仲が良い。

 夜になって見ると一段と深みがます青の瞳。ダヴィデにしかない深い青の瞳に魅入られていると「ローゼライト?」と呼ばれ、顔の前で手を振って誤魔化した。



「何でもないわ。何時決行するの?」

「丁度良いのが来るだろうから、それに紛れてローゼライトが死んだと偽装する」

「どういうこと?」



 夜会を狙った敵国の集団が襲撃をすると情報を得ており、今回ダヴィデの他に数人の凄腕の魔法使いが会場に待機している。国王にも情報は入っており、夜会を楽しむフリをして警戒に当たる騎士も大勢いる。

 騎士は貴族出身者が多いので婚約者と参加している者も多い。



「一人でテラスに出てベルティーニの坊ちゃんはどうした?」

「ファーストダンスを踊ったら毎回二手に分かれていたから、今回もそうしたの」



 ラルスは何かを言いたげにしていたが一人になりたかったローゼライトが無理矢理出て来たとは言わず。



「そうか」

「ダヴィデは誰かと踊らないの?」

「生憎とおれはダンスがからっきしだから」

「そうだったの」



 意外だと笑うと「笑うな」とダヴィデに頬を指で突かれた。痛い、とジト目で睨むもお互いまた笑った。

 ヴィクトリアとの婚約は無理でも他に好きな人を作って幸せになってもらいたい。傷物にしてしまった罪悪感から解放してあげたい。死を偽装してもダヴィデと一緒なら何とかなるだろう。父には事情を伝えた、フレアは……後から父が説明してくれるだろう。落ち着いた頃を見計らって手紙を送るのもありだ。



「もうそろそろだな」



 ダヴィデの真剣さが増した声色にローゼライトに緊張が走った。会場では大勢の参加者達の声で賑わっており、とても襲撃されるとは思われない。



「……ローゼライト……?」



 頭をダヴィデに撫でられ緊張を解したローゼライトの耳が自分を呼ぶ声を拾った。会場の方へ向くと呆然とした面持ちで佇むラルスがいた。ラルスという婚約者がいるのにテラスでダヴィデと二人きりになるのは拙かった。いつもの感覚で接してしまい、つい忘れていた。



「ラルス……どうしたの?」

「どうしたのってローゼライトを探していたんだ。話があったから」

「そ、そう」

「ダヴィデ様と何をしていたの?」



 親し気に頭を撫でられた場面はバッチリと目撃された。シーラデン伯爵家が栽培する薬草は魔法薬の材料として、また魔法の触媒として非常に魔法使いに好まれていると国に住む貴族なら大抵知っている。最強と名高いダヴィデがその筆頭だとはあまり知られていない。



「冷たい風に当たってぼんやりしていたら声を掛けられて話をしていただけよ。ダヴィデ……様は我が家のお得意様でもあるから」

「……その割には随分と親し気にしていたな」

「え、ええ。ダヴィデ様や魔法使いの方々にはいつも親切にしてもらっているから」



 これもまたいつもの癖でダヴィデを呼び捨てにしそうだったのを何とか様付で呼べた。横にいるダヴィデの笑いを堪える気配にカチンとしつつ、特別な関係ではないと必死に説明をした。ラルスはまだ疑いの眼をダヴィデに向けていたものの、ローゼライトの話を受けて渋々納得してくれた。



「ラルスの話って?」

「それは……」



 チラリとダヴィデを気にしつつも、ポケットの中をラルスが漁り始めた直後。


 会場の方から大きな爆発音が届いた。

 会場から発生した爆発音と強い揺れに思わずローゼライトは隣にいたダヴィデに抱き着いた。ダヴィデもローゼライトを受け止め揺れが収まるのを待った。



「止まった……」



 ダヴィデに身体を離されると「此処にいろ」と告げられ、ダヴィデは会場へ走って行った。いろと言われても会場には父やフレアがいる。

 ラルスに戻ろうと振り向くとショックを受けたような面持ちでいて。「ラルス?」と声を掛けるとハッとなったラルスに父やフレアが心配だから会場に戻ると告げると「僕も行く! ローゼライトを一人で行かせられない」二人で戻る事となった。



「……どうして僕を頼ってくれなかったんだ」



 ヒールが高い靴を履きながらも出来るだけ走るローゼライトの耳がラルスの声を拾うも、会場中大パニックとなって他者の声でかき消され言葉までは分からなかった。



「あ!」



 一緒に走っていても人の波が二人に迫り、ラルスは後ろへ、ローゼライトは前へ押されていった。



「ローゼライト!」

「ラルス! 私はお父様とフレアを探しに行くから、ラルスもおば様やおじ様を探して!」

「ローゼライトを一人に、」

「私は大丈夫だから!」



 人混みを掻き分け父とフレアを必死に探す。遠くの方から魔法の衝突音や人の怒声、更には金属がぶつかり合う音も。魔法使いだけではなく騎士達も応戦している証拠だ。急いで二人を見つけたいローゼライトは魔力感知を使った。一定範囲内にいる相手の魔力の波長を見て父やフレアを探し出す。



「いないっ」



 ローゼライトが今いる周囲に父もフレアもいない。更に魔力を増量させ範囲を広めるが見当たらない。



「もしかして、会場を出ている可能性があるかも!」



 そうと決まれば逆走して会場を出ると決め、来た道を走り出した。幸い、奥へ進んでいたのはローゼライトだけで他は外へ向かって走る人だかりだったので今は多少人の量がマシだ。今の内にとローゼライトは外を目指した。

 走っている最中視界に入ってしまった光景に思わず足を止めた。座り込み動けないヴィクトリアをラルスが横抱きにした。全幅の信頼を寄せるヴィクトリアの瞳と安心させる笑みを浮かべるラルス。場違いな感想ではあるが二人の姿はあまりにお似合いだった。側にいた令息に急かされたラルスが動き出したのを見たローゼライトも再び走り出した。

 一際大きな爆発音が響き、地面が揺れて大勢を崩すローゼライト。再び走り出すべく立ち上がった時、ローゼライトの周囲だけ明るくなった。上を向いたら、大きな魔力の塊が迫っていて。


 逃げないと死ぬ。


 頭で理解しても体は理解してくれない。



 ——これじゃあ本当に死んでしまうわ……



 致死量の魔力量が感知される大きな光の塊から逃げようにもどうしてだか足が動いてくれない。「ローゼライト!!」誰かの叫び声がした。ラルスだ。ヴィクトリアを抱えたままローゼライトの名を叫んでいる。

 嫌いじゃない。

 熱烈な愛情は持てなかったが好きではいた。



「ラルス。幸せにね」



 声は届かなくても口の動きは何となくでもいいから伝わってほしい。せめて最後に残る自分の姿が酷い物になりたくなくて精一杯の笑みを浮かべ、ローゼライトは光に包まれた。

 眩しい光で目を閉じたら「大人しくしてな」とダヴィデの声と共に温もりに包まれた。


 

 ——ヴィクトリアを友人に託してローゼライトを助けに行こうとしたラルスだが、光の塊がローゼライトの頭上に落下した直後爆発が発生し逆に他の友人に止められてしまった。



「ローゼ、ローゼっ!」

「無理だラルス! もう手遅れだ!!」

「嘘だ、ローゼライト、ローゼ!!」



 一人ではラルスを止められないと判断した数人の友人達が加勢した。数人がかりで止めてもローゼライトがいた炎の中に飛び込もうとするラルス。無理矢理外へ出た時にはラルスは力なく泣いていた。


 




読んでいただきありがとうございます。



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