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とある決意



 憧れを恋と誤認するのはよくある話。幼いラルスがヴィクトリアに向けていたのは、姉のような存在を思う気持ち。経緯はどうであれラルスにとっての好きな女の子はローゼライトただ一人。夜会で友人達との会話を聞かれていたのはラルスにとって痛手だろうが、もう一度会う機会を与えられるならローゼライトを納得させられる話をしなくてはならない。



「アバーテの娘はお前さんとの婚約に乗り気だ。それをお前さんがどう断るかじゃないか」

「分かりました。きっとヴィクトリアは僕に会いに来る。その時に、きちんと断ります」



 貴族の体面としてはお互いこれ以上ない相手。肝心なのは個人の心。他に縁談を見込める相手がラルス以外いないヴィクトリアにとっては死活問題だとしても、ラルスからするとローゼライトが生きているなら尚更ローゼライト以外の相手は考えられない。


 ソファーから立ち上がり、ダヴィデに深く頭を下げたラルスは心の中である決意を固めた。


 


 ——ダヴィデがやって来た四日後。ベルティーニ邸の庭園に設置されたテーブルで向かい合うのはラルスとヴィクトリア。三日前、先触れの報せがラルスに届いた。相手はヴィクトリア。大事な話がある為、会ってほしいというもの。ダヴィデや改めて父に確認をしたラルスは訪問理由をすぐに察し、了解の返事を送った。指定した日時通りにやって来たヴィクトリアを庭園の席に案内し、人払いをした。

 美しいヴィクトリアに懸想する男性は多い。一部の女性には強い嫉妬心を抱かれているものの、生来の性格の良さがあって女性人気も強い。ティーカップの取っ手に指を掛ける仕草も、紅茶を飲み込む動作も、どれも完璧な公爵令嬢と呼ばれるに相応しい。彼女に憧れ、真似をする子供もいるくらいだ。



「ヴィクトリア」

「なあに」



 席に着いて二人共会話を切り出さなかった。ヴィクトリアの方はラルスが話すのを待っていたのだろうか。嬉し気に笑い掛けられる。



「今日君が来た理由は大方父上から聞いている」

「なら、話は早いわね」

「君の婚約者の件は残念だと思っている。けど、申し訳ないが僕はヴィクトリアと婚約しない」

「え」



 快い返事を貰えると顔に書かれていたヴィクトリアは、断りの方向で話を進めるラルスに面食らう。瞬きを幾度か繰り返した後、戸惑いの言葉を並べ、訳が分からないと首を振った。ラルスの婚約者であったローゼライトは一年前の夜会で爆発に巻き込まれ一人だけ死亡してしまった。一年過ぎたのならラルスに新しい婚約者が出来ても問題はないのに、何故、どうして、と疑問の言葉を続けるヴィクトリアを止めたのは勿論ラルスだ。



「僕は一年前のあの時からローゼライト以外と婚約も結婚もしないと決めていたんだ。たとえ、相手がヴィクトリアだろうと誰であろうとね」

「貴方はベルティーニ家を継ぐのよ? 結婚もしないなんて子供はどうするの?」

「親類から養子を貰えばいい」

「簡単に言うけれどラルス、貴方」

「ヴィクトリア」



 尚も説得を試みようとするヴィクトリアの声を遮り、自身の決意を明かしていく。並々ならぬ熱意を受けてもヴィクトリアは引き下がらなかった。

 ラルス以外の公爵令息でヴィクトリアのお眼鏡に適う男性はいない。他国に目を向けるなら可能性はある。勢いをなくし、俯いたヴィクトリアを見て罪悪感を感じるが一瞬で消えた。ラルスの決意に比べれば、ヴィクトリアへの情の差は大きく開いていた。



「ヴィクトリアなら、きっと良い相手が見つかる。僕はこれでいいんだ」

「そんな……ラルスとならきっと上手くいくと思っていたの」



 婚約解消となってしまった令息とは良好な関係を築いていた。しかし、ヴィクトリアを娶る余裕がなくなった家に愛娘を嫁がせられないというのがアバーテ公爵夫妻の考え。両親がそう考えるのなら、とヴィクトリアは従った。誰が悪いという話ではない。そういう運命だっただけ。


 その後もラルスはヴィクトリアを説得し続け、納得いくまで話を続けた。


 終わった時の空は朱色に染まっており、見送りを断ったヴィクトリアの泣いている姿に多少の罪悪感はあれど後悔はなかった。きっとまた納得していない。今度はアバーテ公爵夫妻を使って説得をする場合もある。



「早急に父上に」



 急ぎ足で邸内に戻り、執務室を訪れたラルスはある事を父に頼んだ。



「父上。お願いがあります。僕に——一年の時間をください」



 一年で何をするのか、成し遂げられなかった場合は父の決めた相手と結婚し、公爵家を継ぐ約束を交わした。





読んでいただきありがとうございます。



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