60話:街の声を守る剣
街の声を守る剣として歩み始めたフィン・グリムリーフ。
街道沿いの村々から届く物資が、市場を少しずつ再生させる兆しを見せる中、王都には新たな不穏な影が忍び寄っていた。
統治令の公布によって芽生えた人々の希望と安堵は、決して消えてはいない。
だがその一方で、街の声を奪おうとする者たちの気配もまた、夜の王都に確かに存在していたのだ。
街の声を守るため、そして王都を導くため――フィンは剣を抜く覚悟を胸に刻む。
その決意が、夜の王都に新たな戦いの幕を開けようとしていた。
夜明けの王都には、一時の静寂が訪れていた。
フィン・グリムリーフが統治令を公布し、街の声を守ると宣言してから、街の人々の表情には安堵の色が戻り始めていた。
市場では、笑顔を交わす商人や、荷車を押しながら声を掛け合う労働者たちの姿があった。
「王様の剣があるから、もう大丈夫だ。」
「街の声を奪われることはない。」
そんな声が、夜明けの空気に少しずつ溶けていった。
だがその一方で、街の片隅には、希望とは別の影がひそやかに忍び寄っていた。
「王様の剣なんて、街を縛るだけだ。」
「街の声なんか聞く価値があるのか?」
そんな声が、瓦礫の間で蠢いていた。
王城の執務室。
フィンは、統治令に署名をした時のことを思い出していた。
(街の声を守る剣。それが、この街を生かす唯一の剣だ。)
その覚悟が、剣の柄を握る手に静かに力を込めさせた。
執務室の扉がノックされ、ノーラが帳簿を手に入ってきた。
「王様、統治令の影響で市場の物流が安定し始めました。
街の人々の声も、少しずつ戻りつつあります。」
その言葉に、フィンは小さく頷いた。
「街の声が戻るなら、それでいい。
街の声さえあれば、この街は必ず立ち上がる。」
ノーラの瞳が一瞬だけ陰を帯びた。
「ですが、街道沿いの村で盗賊団の残党が再び動いているとの噂もあります。
街の物流を再び断とうとしているのかもしれません。」
その言葉に、フィンの瞳が鋭く光った。
「街の声を奪う者には、街の剣で応える。
その覚悟は、統治令を公布した時から決めている。」
その声には、剣を抜く者としての強さが宿っていた。
その時、執務室の奥からリナが顔を覗かせた。
「王様、近衛隊の巡回から報告がありました。
王城周辺で、見慣れぬ動きをする影が確認されたそうです。
今夜は警戒を強めてください。」
その声に、フィンの眉がわずかに動く。
(街の声を守る剣である以上、街の影も抱えねばならないのかもしれない。)
リナの瞳が真剣さを増す。
「もし、街の声を奪う者が再び現れるなら、私もその剣になります。」
その言葉に、フィンは深く頷いた。
「お前がいてくれるから、俺は街の声を守れる。」
執務室の窓の外に、夜風が吹き抜ける。
街の灯りが揺れ、石畳の上に淡い影を落としていた。
その影の中に、街の声を奪おうとする者が潜んでいるのではないか――そんな考えが、フィンの胸をかすめた。
街の声と街の剣。
どちらが欠けても、この街は生きてはいけない。
その想いが、フィンの瞳をさらに鋭くさせた。
(街の声を守るための剣なら、いくらでも抜く覚悟はある。)
クラリスが帳簿を胸に抱き、そっと声をかけた。
「王様、街の声を守る剣の戦いは、もう始まっていますね。」
その言葉に、フィンは深く息を吐き、静かに頷いた。
「そうだ。街の声を奪う者がいる限り、この剣は必ず抜く。」
その言葉が、夜明けの空気を震わせるように響いた。
そして、その声は、街の片隅に潜む影にも届いていた。
(王様の剣は、街の声を守る剣だというのか。)
瓦礫の影に潜む男の瞳が、夜闇の中で怪しく光った。
(だったら、その剣を折ってやる。街の声ごと。)
街の未来を照らす朝日が、今まさに昇ろうとしていた。
だがその朝日を遮るように、街の声を奪おうとする影は着実に動いていた。
街の声を守る剣と、街の声を奪おうとする者。
その戦いは、王城の執務室の中でも、すでに始まっていた。
執務室の蝋燭の灯りが、夜の王都をぼんやりと照らしていた。
統治令を公布し、街の声を守ると誓ったフィン・グリムリーフの胸には、それでもなお深い不安が渦巻いていた。
(街の声を守る剣……だが、この街の影は一度の剣で払えるほど浅くない。)
剣の柄を握る手に、じわりと汗が滲む。
窓の外、王都の街並みには灯りがともり、夜風がかすかに石畳を撫でていた。
街の声と街の剣、そのどちらも抱いてこの街を導く。
その覚悟を胸に刻むたびに、剣を抜く決意が静かにその手を熱くさせていく。
その時だった。
執務室の扉がわずかにきしみ、影が音もなく滑り込んできた。
一瞬のことだった。
フィンが剣を抜くよりも早く、影は短剣を閃かせ、王の喉元へと迫った。
「王様、危ない!」
ノーラの声が響くよりも早く、フィンは体をひねり、短剣をかろうじてかわした。
「街の声を奪う者か!」
剣を抜き放ち、フィンは影と対峙した。
月明かりが差し込む執務室に、影の瞳がぎらりと光る。
「街の声? そんなものは幻想だ!
街を縛るのは剣だ! 街を操るのは血だ!」
影は狂気を孕んだ声で叫ぶと、再び短剣を構え、フィンへと飛びかかった。
フィンの剣が火花を散らし、短剣を弾く。
鋭い金属音が執務室の静寂を裂き、影は怯まずに切り込んでくる。
「街の声は、剣で縛られるだけだ!」
影の叫びが夜風に混じった。
「違う!
街を守る剣は、街の声を奪う剣ではない!」
フィンの叫びが夜の王都に響き渡る。
その瞬間、ノーラが横合いから剣を抜き放ち、影の腕を打ち払った。
「王様は街の声を守るために剣を抜くお方だ!
お前のように街を支配する剣じゃない!」
その声が影を鋭く射抜いた。
影は口元を歪め、血を吐きながら笑った。
「街の声? その声を操っているのは王の剣じゃないのか?
街の声なんて、いくらでも偽れる……!」
その言葉に、フィンの胸が一瞬だけ揺らいだ。
(街の声を偽る……?)
だが、すぐに剣を構え直す。
「街の声は偽れない。
声で支える剣こそが、この街を守る唯一の力だ!」
その声が夜風を震わせた。
リナが執務室の奥から飛び込み、影の背後に迫った。
「街の声を奪う者、覚悟!」
リナの剣が影の足元を払うように閃き、影は体勢を崩す。
「くっ……!」
影は呻き、血を吐き捨てた。
「街の影には、お前たちが知らぬ真実が潜んでいる……!」
影の瞳に狂気とも絶望ともつかぬ光が宿る。
「街の声を守る? お前たちが信じているその声の裏に、真の敵がいることを知らずに……!」
その声が夜の闇に溶けていく。
影は最後の力を振り絞り、短剣の刃を自らの喉元に押し当てた。
「真の敵は、すぐそこまで来ている……!」
その言葉を残し、影は自らの血に沈んだ。
ノーラが駆け寄り、影の亡骸を確認する。
「王様……息はありません。」
リナが剣を鞘に納め、厳しい声を吐き出した。
「街の影に潜む真の敵……一体誰が……。」
フィンの瞳が夜空を鋭く見上げた。
(街の声を守るために剣を抜く覚悟は決めた。
だが、街の影に潜む真の敵……それを見極めなければ、この街を導けない。)
執務室の蝋燭が揺れ、壁に長い影を落とした。
街の声を守る戦いは、すでに新たな局面へと移ろうとしていた。
フィンの胸には、王としての誇りと、街の声を守る剣の重さが刻まれていた。
(街の声を守る剣として、俺はこの街を導く。)
その決意が、夜の王都を照らすように鋭く輝いていた。
暗殺者の血が執務室の床に広がり、その残響がまだ夜の帳の中に漂っていた。
街の声を守るために掲げた剣は、またしても血の匂いをまとってしまったのだ。
フィン・グリムリーフは剣を鞘に収めると、深く息を吐き出した。
「街の声を奪おうとした者を止めただけだ。
だが、あの影の言葉……真の敵とは何を意味していたのか。」
その言葉が、胸の奥に棘のように刺さって離れない。
窓の外では、街の灯りが淡く揺れていた。
暗殺未遂の知らせはまだ市民の耳には届いていない。
しかし、街の空気はどこか張り詰めていた。
王城の警備を強化したという知らせが、街の広場を走り抜け、人々の胸に不安の火種を灯していた。
ノーラが剣を収めて一歩前に進む。
「王様、あの暗殺者の言葉……“真の敵が潜んでいる”というのは、おそらく街の影に潜む大きな陰謀です。
この街の声を奪おうとする存在が、まだ潜んでいるのかもしれません。」
その声には、街の声を守る盾としての責任が宿っていた。
リナが厳しい瞳を向ける。
「街の影を断ち切るためなら、剣を抜く覚悟はできています。
王様が街の声を守る限り、私たちはその剣になります。」
その決意の言葉に、フィンは小さく頷いた。
「ありがとう。
お前たちがいてくれるから、俺は街の声を守れる。」
その言葉が、胸の奥の棘を少しだけ和らげた気がした。
執務室の片隅で、クラリスが帳簿を抱きしめるようにしていた。
「王様、街の声を守る戦いは、もう統治令だけでは足りないのかもしれません。
言葉だけでは届かない声が、まだ街のどこかにある気がします。」
その声には、街の声を記す者としての痛みがにじんでいた。
フィンはその瞳をまっすぐに見つめ、口を開いた。
「街の声を奪う者には、剣で応えるしかないときがある。
それでも、俺は剣を抜いたあと、必ず言葉で街の声を紡ぐ。
それが、街を導く王の役目だと信じている。」
その声には、王としての決意と、一人の人間としての苦悩が混ざり合っていた。
ノーラが剣の柄を握り、真剣な眼差しを向けた。
「王様、あの影の背後に潜む存在を見極めるため、街の影を探ります。
たとえ剣を抜くことになっても、私は王様の剣になります。」
その言葉に、リナも力強く頷いた。
「街の声を守るためなら、どんな影でも斬り裂きます。」
その時、王城の外からかすかな声が届いた。
「王様! 市場の一角で、見慣れぬ者たちが集まっているという報告がありました!
武器を隠し持ち、街の声をかき乱す噂を流しているようです!」
駆け込んできた近衛隊の兵士の声が、執務室の空気を震わせた。
フィンの剣に再び決意の重みがのしかかる。
「街の声を乱す者がいる限り、この剣を抜く覚悟はできている。
街の声を守る剣として、俺はこの街を導く。」
その言葉に、仲間たちは一斉に頷いた。
窓の外、夜の王都の空は暗雲を孕み、いつ雨が降り出してもおかしくない気配を漂わせていた。
街の声を守る戦いは、まだ終わらない。
街の声を奪う者が潜んでいる限り、この剣を抜き続けなければならない。
それが、フィン・グリムリーフが選んだ王の道だった。
蝋燭の灯りが小さく揺れ、執務室の影が長く伸びる。
街の声を守るための戦いは、まだこれからだ。
その瞳に、フィンは決意を宿し、剣を抜いた自分を抱きしめるように深く息を吐いた。
(街の声を守る剣として、俺はこの街を導く。
それが、街の未来を創るための覚悟だ。)
夜の王都は、蝋燭の火のように揺らいでいた。
街道沿いの村々からの物資が徐々に届き始め、市場は少しずつ再生の兆しを見せていた。
だが、その空気を切り裂くように、暗い噂が流れてきた。
「市場の一角に、街の声を乱す者が集まっているらしい。」
「武器を隠し持ち、街の声を奪う準備をしていると……。」
その知らせは、執務室に戻ったフィン・グリムリーフの耳にも届いた。
剣の柄を握る手が、夜の冷気にわずかに震えた。
「街の声を守るために、俺は剣を抜く。」
その声が、夜の帳を裂くように鋭かった。
ノーラが剣を握りしめて立ち上がる。
「王様、現場の指揮をお願いします。
街の声を奪う者には、街の剣で応える覚悟です。」
その瞳に宿る決意は、これまでのどの戦いよりも揺るぎないものだった。
リナも剣を腰に携え、気迫を漲らせた。
「街の声を守るためなら、どんな敵でも斬り捨てます。」
その言葉が、夜の王都に新たな風を呼び込んだ。
クラリスは帳簿を胸に抱き、フィンの背に向けて静かに言った。
「王様、どうか記憶してください。
街の声を守る戦いを、私の手で歴史に刻みます。」
その声には、街の声を支える者としての誇りがあった。
フィンは一歩前へ進み、街の未来を見据える瞳を夜空へ向けた。
「街の声を守る剣として、俺はこの街を導く。
そして、街の声を奪おうとする影がある限り、俺はこの剣を抜く。」
その決意が、剣よりも鋭く夜気を裂いた。
街の市場は、夜でも小さな灯りが揺れていた。
瓦礫を片付ける者、荷物を運ぶ商人、声を潜める市民たち。
その空気の中に、剣の気配があった。
フィンと近衛隊が市場へと入ると、空気がぴりりと張り詰めた。
「街の声を乱す者はどこだ。」
その声に、市民たちは一斉に顔を上げた。
その瞳に、不安と、そしてかすかな希望が揺れていた。
瓦礫の陰から、黒衣の影がひとり立ち上がる。
「街の声だと? そんなものは幻想だ。
街を操るのは、恐怖だ。
街を縛るのは、血だ!」
その声は、まるであの暗殺者の声のようだった。
フィンの瞳が鋭く光る。
「街を恐怖で縛るなど、許すものか。
街の声を守る剣として、俺はお前を止める。」
その声に、ノーラが剣を構えた。
「王様、私が先陣を切ります!」
リナも剣を抜き、真っ直ぐに黒衣の影を見据えた。
「街の声を奪う者を、街の声で裁く。
その剣、私たちが王様の手となり、必ず振るいます。」
黒衣の影は短剣を抜き、狂気を帯びた笑みを浮かべた。
「王の剣など恐れるものか!
街の声などいくらでも操れる!」
その言葉に、市場に集まった市民たちの瞳が大きく揺れた。
「街の声を操る……?」
その囁きが、まるで夜風のように広がっていく。
フィンは剣を構え、声を張り上げた。
「街の声は操れない!
街の声は、市民一人ひとりの心の中にあるものだ!
その声を奪おうとするなら、俺は街の声を守る剣になる!」
その言葉に、市場の空気が一変した。
「王様……」
「王様が……剣を抜く……!」
市民たちの瞳に、街の声を守る王の姿が映った。
黒衣の影が短剣を振りかざし、フィンへと突進する。
「偽りの声など、いくらでも斬り捨ててやる!」
その声は、街の声を踏みにじる剣だった。
フィンの剣が夜空を裂く。
「街の声を奪わせはしない!」
その剣が、街の声を守るために振り下ろされた。
火花が散り、剣戟の音が夜の市場を震わせた。
黒衣の影は短剣を弾かれ、地面に膝をつく。
「なぜだ……なぜお前の声が……街の声を動かす……。」
その言葉に、フィンは剣を振り下ろさず、瞳を細めて言った。
「それが、街の声だからだ。」
その声に、影は短剣を落とし、崩れるように倒れた。
市場の空気が静まり返り、夜風が瓦礫を揺らした。
街の声を守るために剣を抜いた王の姿は、市民たちの胸に深く刻まれていった。
(街の声を守る剣として、俺はこの街を導く。)
その決意が、夜明け前の空に確かに輝いていた。
――次巻へ続く。
街の声を奪おうとする者を前にして、剣を抜いたフィン。
街の声を守る剣としての覚悟は、夜の市場で剣戟となって響き渡り、市民たちの胸に刻まれた。
王都を縛る恐怖ではなく、市民一人ひとりの声を守るために――。
夜明け前の王都に立つその姿は、街の未来を照らす光となった。
街の声を守る戦いは、これからも続く。
そして、フィン・グリムリーフの物語は、さらなる戦いと希望を胸に、新たな章へと進んでいくのだった。
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