110話:契約の記憶
“語りかける”という行為に、どれほどの力が宿るのか。
そして、“忘れない”という意志が、どれほどの契約を生むのか――。
地下神殿での祈りから、王都の記録庫へ。そして今、封じられていた“火の記憶”が動き出します。
フィンの中に眠る火龍の幼竜と、炎の精霊との共鳴。
失われた章の再生が、次なる扉を開く鍵となる物語、第110話をお届けします。
地下回廊に仄かに灯る焚き火の光が、岩壁に柔らかな影を落とす。
火のそばで本を読み上げたフィンの声が静まり、ほんの一瞬、すべてが止まったような静寂が訪れた。
そして――扉の“風の環”が、かすかに青白く光を放つ。
リナが驚きの声を上げた。
「今の、反応したよね……!」
「ええ……読み上げた言葉に、何かが応えたのよ」
セリアが本を手に取り、扉に近づく。その指先が“風”の環に触れると、ひやりとした感触とともに微細な振動が伝わってきた。
「これ、完全に目覚めてるわ。ノーデルの名を呼び、こうして声を届けたことで……“記録”じゃなく、“存在”そのものが動き出してる」
「じゃあ……次もこの本に書かれてることを読めば、封印が解けていくってことか?」
フィンが問いかけると、セリアは小さく首を横に振った。
「違うわ。これは“風”の章。つまり、精霊ノーデルにまつわる部分だけしか書かれてない。他の精霊――“炎”“水”“大地”“空”の章は……」
「……載ってない?」
「正確には、“抹消されてる”。この本、途中の頁が何枚か切り取られてるの。誰かが意図的に、“他の精霊に関する祈りの記録”を封じたのよ」
焚き火の火花が、ぱちりと音を立てて跳ねた。
「誰がそんなことを……」
リナが不満げに言いかけると、セリアはやや険しい表情で口を開いた。
「――王宮か、あるいは教会よ。どちらにせよ、“精霊信仰を禁じたい側”がいたのは確か」
「だとしたら、尚更探さなきゃだね。切り取られた章を」
フィンが静かにそう言うと、二人は彼の横顔を見て、同時にうなずいた。
「……本気なんだね、やっぱり」
「フィンは昔からそうよ。“一度、心を決めたら戻らない”タイプ」
セリアが微笑むと、リナも頷きながら笑った。
「そのかわり、迷うまではすごく悩むのよね。……でも、そういうの、ちょっとずるいわ」
「ずるい?」
「うん。真剣さが伝わってくるから。……あたしまで、逃げられなくなる」
リナの声に、照れたようにフィンが視線をそらした。
「ごめん……」
「謝らないで。嫌なわけじゃないし」
ぽん、とリナが軽くフィンの肩を叩いた。
その空気の中で、セリアは再び祈祷書の表紙に手を添えた。
「切り取られた章の手がかりを探すなら……王都の旧記録区画か、あるいは廃棄書庫ね。どちらも、一般の閲覧は禁止されてるけど」
「それって……また無断侵入ってこと?」
リナが目を細めた。
「こっちはただの探索者で、盗人じゃないから、できれば穏便に済ませたいんだけど……」
「私は、まず“聞きに行く”ところから始めたいの。学士長バルク様なら、話が通じるかもしれない。精霊信仰に否定的な人ではなかったし、昨日の“異変”を知ってるはず」
「……わかった。じゃあ、明日はバルクさんのところに行こう」
フィンがそう決めると、三人はその晩を仮の野営地で過ごすことにした。
岩壁にもたれ、毛布を羽織りながら、それぞれが火の揺らめきに沈黙した。
――けれど、誰の胸にも“次の扉”が浮かんでいた。
切り取られた章。眠る精霊たち。かつて語られ、今は忘れられた存在。
「……あの本、読んでる時、妙な感覚があった」
リナがぽつりと呟いた。
「風が、動いた?」
「うん。それだけじゃなくて……声がした。“呼んでくれて、ありがとう”って」
セリアとフィンが顔を見合わせる。
「リナにも、聞こえたんだ」
「なんだか、夢みたいだけどね。でも、たぶん、あれは……“まだ残ってる記憶”の声だと思う。誰かが、本気で忘れないって思ったから、今でも残ってる」
リナの言葉に、セリアがふっと目を伏せた。
「……それが“語る”ということなのかもしれない。祈りでも、詩でも、名前を呼ぶことでもなく……その存在を、“忘れない”という意思」
「それって、“契約”じゃない?」
「……え?」
セリアの瞳が、はっと見開かれる。
「形のある契約じゃなくて、もっと根っこの話。“忘れない”って、つまり――つながりを絶たないってことだろ? だったら、それこそが“精霊との契約”なんじゃないかなって」
焚き火が、静かに燃え続けている。
やがて、セリアはそっと目を閉じた。
「……その考え方、好きよ。ありがとう、リナ」
「べ、別に、そんなこと……」
赤くなったリナがごそごそと毛布をかぶるのを、フィンは笑いをこらえて眺めていた。
その夜――岩壁に風がそっと舞い降りた。
静かに。確かに。
まるで、次なる“記憶”が目覚めようとしているように。
翌朝、仄かに霧が立ち込める王都の石畳を、フィンたちは静かに歩いていた。
目的地は、王宮北東区画に位置する“王立図書院本館”。その最奥、学士長バルクの執務室である。
セリアはフードを目深にかぶり、手に古ぼけた祈祷書を抱えていた。リナは左右を警戒しながら、革の外套に手をかけている。フィンは静かに歩きながらも、頭の中で昨夜の祈りの言葉を何度も反芻していた。
“風の環”が応えた、あの微かな光。あれは偶然ではない。
ならば――次も、きっと“語りかける声”があるはずだ。
王宮に近づくにつれ、衛兵の数が増えてくる。彼らは三人の姿を見ると一瞬目を留めたが、セリアの胸元に提げられた王立研究院の徽章を認め、通過を許した。
「……便利ね、この徽章」
リナが皮肉めいた笑みを浮かべる。
「学徒の立場、最大限に利用するわ」
セリアは肩をすくめながら答えた。
やがて、三人は本館の石造りの扉の前に立った。セリアが銅製のノック棒を手に取り、三度、重々しく打ち鳴らす。
――コン、コン、コン。
数十秒後、重厚な扉が静かに軋みながら開き、館内の空気が流れ出た。
「……おや、珍しい顔ぶれですね」
現れたのは、学士長バルクその人だった。灰色の法衣に身を包み、眼鏡の奥から三人を見つめるその表情には、わずかな驚きと、計りかねる警戒心があった。
「学士長、突然の訪問をお詫びします」
セリアが一歩前に出て、礼を取る。
「構いませんよ。昨夜の件で、ちょうど君に連絡を取ろうと思っていたところでしたから」
「……昨夜?」
「“禁書庫”に侵入の痕跡がありました。一部の文献が、煙のように消えてしまったのです。記録に一切の痕跡を残さずに、ね」
バルクの目が細くなる。
「おそらく“精霊関係書架”の巻物、“ノーデルとの記録”が消えたのでしょう」
フィンの言葉に、バルクが目を見開いた。
「……君たち、何を知っている?」
セリアが懐から祈祷書を差し出した。
「これは、“風の精霊”にまつわる古い祈りの書です。昨夜、地下神殿の遺構で、この書を通して“声”が届きました」
バルクは書を受け取ると、その表紙と数ページを丹念に確認し、静かに息を吐いた。
「……これは、旧精霊会の文体。王政初期に禁忌とされた、“契約祈祷”の形式ですね」
「他の精霊――“炎・水・大地・空”に関する章は、切り取られていました」
「つまり、“語る手段”が封じられているということですか……」
バルクはしばし沈黙したのち、机に向き直り、古い鍵束のひとつを取り出した。
「……ついてきなさい。見せたいものがあります」
彼が案内したのは、図書館本館の地下――通常は学徒も入れない、廃棄書庫と呼ばれる保管区画だった。
天井の低いその通路は、かつて研究対象から外された文献や、宗教的に危険とされた記録が眠る“影の倉庫”である。
バルクが鉄扉を開けた瞬間、埃と古紙の匂いが鼻をついた。
「ここは……?」
「精霊にまつわる記録が“明文化を禁じられる”以前の、最後の保管所です。君たちが求めている章も、おそらくここに断片として眠っているでしょう」
彼は一冊の大判本を取り出し、ページを開く。
「これを見なさい。“炎の精霊アール=ブレイズ”に関する手稿です。“風”の章と文体が一致しています。断片的ですが、祈りの言葉と精霊との“対応儀式”の一部が記されている」
フィンが目を落とすと、そこには確かに“語りかける形式”の文が並んでいた。
《――その炎、我が内にて光となりて、記憶の塵を焼かん。名はアール、形なき熱よ――》
「これは……」
「もしこの祈りが有効ならば、“炎”の環が次に反応するかもしれません。ですが、気をつけなさい。精霊は善なる存在ではありません。“忘却”され、“封じられた”には、それなりの理由があるのです」
バルクの言葉に、三人は静かにうなずいた。
「それでも、進みます」
「……ならば、これを持っていきなさい」
彼は本と共に、一冊の記録簿と手記の写しを手渡してくれた。
「“契約者”の系譜――つまり、かつて精霊と“声を交わした者たち”の名前と記録です。今後、何かが“呼び寄せられる”時、この記録が助けになるでしょう」
リナが手記を受け取り、ぱらぱらとページをめくると、ある一文が目に留まった。
《最後の“声持つ者”は、己が炎に焼かれし者なり。されど、その想いは今も――》
「……この人、どうなったんだろう」
「分かりません。ただ、“精霊の声”は、その者の中に生きていたはずです」
バルクが扉を閉めると、外の空気がどこか違って感じられた。
王都の空は、相変わらず穏やかに晴れていた。
だが――その下で、もうひとつの“語られざる声”が、静かに動き出していた。
王立図書院を後にした三人は、王都の北門近くにある古びた宿へと足を運んでいた。元は巡礼者向けの簡素な宿泊施設で、壁の石積みも年季が入っているが、今は探索者たちが時折利用する静かな隠れ家となっている。
宿の奥、暖炉の火がわずかに灯る一室に落ち着くと、セリアは机に書物を広げ、フィンとリナは椅子と寝台に分かれて腰を下ろした。
「“炎”の祈りは、思ったよりも詳細だったわね。文体も“風”の章と一致してる」
セリアは祈祷書と照らし合わせながら、古文書の文面に指先を走らせていく。
「でも、断片だよね? その“対応儀式”ってやつ、途中で切れてる」
リナが寝台に寝転がったまま、天井を見上げながら口を開いた。
「ええ。たぶん、記憶されている文面を“音”として発したときに、何が起きるかを記した部分……その“結果の記録”が失われてる。意図的か、それとも……」
「燃えたのかな。炎の章だけに」
リナの冗談に、セリアは肩をすくめた。
「可能性は否定できないわね。けど……ここが引っかかるの」
そう言って、セリアは一枚の手記の写しを指差した。
《“契約者”は、祈りと名を通じて“精霊の記憶”を繋ぎ止める。その代償に、己が“何か”を預けるとされる》
「“何か”って……命とか、記憶とか?」
「おそらく、それぞれの精霊に応じた“代価”があるのだと思うわ。“風”のノーデルなら“言葉”や“記録”、でも“炎”のアール=ブレイズなら……」
「“熱”……?」
「もしくは、“情動”。あるいは、もっと抽象的な“激情の記憶”」
セリアの瞳が、赤々と燃える暖炉の炎に映り込む。
「ねえ、セリア」
リナが体を起こし、セリアの横に腰かけた。
「……もし、祈ったら。今度は、あたしたちの記憶も“持っていかれる”可能性、あるの?」
セリアはしばらく黙っていたが、やがて、小さく頷いた。
「あると思う。けれど……“失われた記憶”が、“精霊の内に保たれる”という可能性も同時にある。つまり、どこかで誰かが“繋ぎ止めている”限り、完全には消えないってこと」
「忘れられない、ってこと?」
「ううん、“忘れられないように、誰かが願った結果”。それが、精霊の“声”として残っているのだと思う」
「じゃあさ、さっきの“契約”って話……リナが言ってたやつ、それって……あたしらが“忘れない”って決めれば、それで充分ってこと?」
「十分とは言えないけど……“始まり”にはなる。契約って、“条件”と“意志”で成り立つものだから」
セリアの声には、迷いと決意が入り混じっていた。
「私たちが“語る”ことで、精霊は“呼び戻される”。でも、それが“望ましいこと”かどうかは、また別の話なのよ」
「それでも……止まらないんだよね、フィンは」
リナの言葉に、フィンは穏やかに微笑んで頷いた。
「うん。だって、“声が届いた”んだ。それは、誰かが待ってたってことだろ?」
「うーん……もう、ほんと真っすぐすぎるんだから」
リナはわざとらしくため息をつきながらも、どこか嬉しそうに笑った。
「でも、たしかに……あたし、昨日の夜、すごく胸が温かくなったんだ。“誰かが、ありがとうって言ってた”ってだけで」
「リナの感性、私は信じてる。精霊と対話するには、言葉よりも“感情”の方が通じやすいと感じることもあるから」
セリアの言葉に、リナがくすぐったそうに頬を赤らめる。
「そ、そう? なんか褒められると恥ずかしいな……」
「素直に受け取りなさい。あんまりそういう機会、ないでしょ?」
「なにその意地悪な笑顔!」
二人のやり取りに、フィンは少し離れた椅子で静かに笑っていた。
やがて、セリアが立ち上がり、暖炉の前に手をかざした。
「……今夜は、ここで“炎の祈り”を試してみる。書に記された手順を使って、できるだけ忠実に」
「ここで……?」
「地下神殿のような“遺構”ではないけど、“祈り”は場所を選ばない。むしろ、語りかける“心”のほうが大事」
その言葉に、リナとフィンは無言で頷いた。
部屋の明かりを落とし、暖炉の炎の明かりだけが壁を照らす。
セリアが静かに祈祷書を開き、手稿と照らし合わせながら一行ずつ読み上げていく。
《――その炎、我が内にて光となりて、記憶の塵を焼かん。名はアール、形なき熱よ――》
読み終えた瞬間、炎がかすかに揺れ、壁に映る影が踊った。
しん……とした空気の中、耳を澄ます。
――その時だった。
暖炉の炎が、青白く、かすかに色を変えた。
「……!」
セリアが声を呑む。
炎がまるで“誰かの息吹”のように、脈動している。
「聞こえる……“声”だ。違う、“熱”の形をした記憶……!」
その場にいた全員が、それを感じていた。
“語られなかった記憶”が、炎の中に生きていたことを。
そして――また一つ、“契約”が結ばれたのだということを。
静かな夜が、ゆっくりと過ぎていった。
青白く脈動する炎を、三人はじっと見つめていた。
言葉はなかった。だが、炎の揺らぎは確かに“呼吸”のようであり、その奥に誰かの記憶が息づいていると――誰もが感じていた。
しばらくして、フィンが静かに立ち上がる。
腰に佩いていた剣に、何かが触れた気がしたのだ。
いや――“内側から”反応している。まるで、剣そのものが炎に呼応するように。
フィンはゆっくりと柄に手をかけ、その剣を鞘から抜き放った。
その瞬間。
剣の刃が、かすかに赤く染まった。
「……フィン、それ……」
セリアの声が、驚きと畏れを含んで震える。
「……前に契約した、“火龍の幼竜”がいる。だけど、普段は眠ってるんだ。俺の中で」
「その気配が……剣を通して、反応してるの?」
フィンはうなずいた。剣の表面に浮かび上がった“紋”は、契約を象る古代の火文字。幼竜との誓いの印が、炎の記憶に呼応して顕現したのだ。
「なあ、セリア。さっき言ってたよな。祈りは“言葉”だけじゃなくて、“記憶”や“感情”でも届くことがあるって」
「ええ。でも、それは……」
「なら、俺は――“剣”で祈ってみる」
「剣で……?」
フィンは剣を両手で持ち、ゆっくりと目を閉じた。
剣に込められた“火の記憶”。幼き火龍との出会い、命を救い、互いに誓いを交わしたあの瞬間――
“忘れない”という想いが、彼の中に強く根づいている。
それは、リナが言った“契約の本質”そのもの。
“つながりを断たないこと”――それこそが、真の契約の始まりなのだ。
フィンの呼吸が深くなる。
炎の前に進み出て、剣を水平に構える。
そして――口を開いた。
「アール=ブレイズ。“火の名を持つもの”よ。俺は――忘れていない」
その言葉に、剣の紋様が激しく赤く輝いた。
次の瞬間、炎が爆ぜるように揺れ、部屋中に熱風が吹き抜けた。
だが、不思議と熱くない。むしろ、その風は“心の奥”を撫でるような、優しい暖かさだった。
《――呼びし者、汝は誰ぞ。記憶を持ちて、名を語るか――》
それは、言葉というよりも、“心に響く声”だった。
リナとセリアもその場にいたが、声はフィンの内にだけ、明瞭に響いている。
「俺は、フィン。“剣に契りし者”」
《……その剣、我が子の気配を帯びしもの。ならば、確かに“記憶は継がれし”》
剣が、小さく震えた。
“火龍の幼竜”――フィンが命を救い、契りを交わした存在が、その気配を強めていく。
幼き鳴き声が、どこか遠くで聞こえた気がした。
《……ならば、問う。我が“熱”を継ぐか。記憶を、命を、誓いを抱くか。》
「誓う。忘れない。“火”の声を、俺は受け継ぐ」
その答えとともに、炎が大きく揺らめき、やがて一点の光が放たれた。
それは小さな火玉となって宙を舞い、フィンの剣に触れた。
直後――剣の内部から“もう一つの鼓動”が立ち上がった。
「……目覚めてる。幼竜が……!」
フィンの言葉に、セリアとリナが息を呑む。
剣が、熱を持ち始める。だが、それは焼くような熱ではない。“共鳴”の熱だ。
「この剣、ただの武器じゃない。“記憶の器”なんだ。火の精霊の記憶も、幼竜の命も、全部つながってる」
剣を通して、炎の精霊と幼竜の存在が重なる。
“火”はただの破壊ではない。“記憶を燃やし、想いを灯すもの”なのだ。
リナがそっと呟く。
「……あったかい」
彼女の頬に流れる涙は、熱くなかった。ただ、なぜかこみ上げてきたのだ。
セリアもまた、小さく笑う。
「……ああ、これはもう、“封じられていた存在”じゃない。“応えてくれた声”よ」
フィンが剣をそっと鞘に戻すと、それまで揺れていた炎が落ち着いたように静かになった。
だが、誰もが感じていた。
確かに、あの時。
“火の記憶”と“幼き命”が――つながったのだと。
「これで、“炎の環”にも行けるな」
「ええ。今なら、きっと“門”が応じる」
セリアの言葉に、フィンは力強く頷く。
リナが、そっと問う。
「ねえ、精霊たちって、本当はどうして“封じられた”んだと思う?」
しばしの沈黙のあと、セリアが答えた。
「力が大きすぎたから。それに、“語ることで、世界を変えられる存在”だったから」
「……つまり、怖れられたってことか」
「そう。けれど、それは同時に、“希望を灯す存在”だったとも言えるわ。私たちが忘れなければ――その希望は、まだ続いている」
静かな夜が、再び訪れた。
だがその夜、宿の暖炉の奥に――新たな火が灯っていた。
“失われた精霊”の記憶と、“剣に宿る命”が、重なった焔。
小さく、しかし確かなその火は、まるで次なる扉を照らすように――静かに燃えていた。
ご覧いただきありがとうございました!
この110話では、「契約とは何か」「祈りの言葉とは何か」に焦点を当て、リナの感性とセリアの知識、そしてフィンの剣に宿る“火”の記憶を通じて、精霊との新たな接触を描きました。
“剣を通じて祈る”という表現や、火龍の幼竜との契約が物語にどんな余韻を与えたか――感じていただけましたら嬉しいです。
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