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白と黒の聖女  作者: 武尾 さぬき
終章 ふたりの聖女
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第69話 旅路

 ソフィア様を連れて、グランソフィアを出てから私は隣りの国でこっそり荷馬車を降りた。予め、貯めていた金貨をガーネットさんに渡していて、それを馭者さんが預かってくれていた。もちろん、この危ない仕事を請け負ってくれた分のお代を差し引いてだ。




 それからは宿を転々としながら、また別の国へと移っていった。聖ソフィア教団の追っ手が来るかもしれない、という恐怖と、グランソフィアから離れすぎるとロコちゃんやガーネットさんたちと連絡が付かない、という不安との葛藤に苛まれた。




 だけど、私はソフィア様の安全を最優先にしてグランソフィアから距離を置くことを選んだ。彼女との旅は楽ではなかったけど、決して辛いものでもなかった。これが独りだったら早々に心が折れていたかもしれない。






 どのくらいの月日が経っただろう。「グランソフィア」の国名すらほとんど聞かない遠くの国へとやってきた。


 そこで私は小さな空き家を見つけてソフィア様と暮らすことにした。日雇いのお仕事(主に力仕事)をしながら、生計を立てて、時々グランソフィアの情報がないかを探ったりもした。




 ソフィア様は、暗い部屋にずっといたせいか最初はあまり目が見えていないようだった。だけど、一緒に旅をしていくうちに視力を取り戻し、木の枝みたいだった足も人並みの逞しさになって歩けるようになった。




 彼女がこれまでどんな人生を歩んで、聖ソフィア教団からどんな仕打ちを受けてきたのかはわからない。ただ、自ら言葉を発することはほとんどなく、私からの問い掛けには、不気味なほど的を射た返答をくれるか無言かのどちらかだった。




 一応、ともに旅をするうちに()()()()()()()にも心を開いてくれるようになっていった。





 私はソフィア様に特別な教育をしようとかは思わなかった。ただ、一緒に生活を送っていればきっと普通の「らしさ」が芽生えてくると信じていたから。




 外の空気を吸って、陽の光を浴びて、一緒に食事をして、街を歩いて、夕日を眺めて、夜の暗さを知って、一緒に寝ていたら……、他の誰でもないソフィア様らしい女性になると……。





◇◇◇





 グランソフィアから遠く離れた国に留まるようになって、3年以上の月日が流れた。ソフィア様は深緑の美しい髪が伸びて綺麗な少女となっていた。




 私以外の人ともごく普通に話すようになり、彼女がかつて「女神」だったと言っても笑い話にもならなそうだ。




 今でもきっと、想像も及ばないくらいの膨大な知識をもっていると思うのだけど、あえてそれと気付くような話を彼女はしなかった。とても頭がよくて、周りにいる人に合わせて、不自然に見えないよう振るまっているんだと思う。




 ソフィア様と話して気付いたのは、おそらく彼女は成長の「時」がとても緩やかということだ。ほんの少しずつだけど身長が伸びたり、身体が大人になっている自覚はあるみたい。





 ソフィア様が自立していくにつれて私は、グランソフィアの中にいる人と連絡を取る手段を探すようになっていた。目立ったことをするには、まだ過ぎた時間が短すぎると思ったけど、気にしないではいられなかった。




 ソフィア様にロコちゃんの話をすると「『しゃーねぇな』のお姉ちゃん?」と彼女からは返ってきた。よっぽどあの言葉が印象的だったみたい。




 ロコちゃんにも立派になったソフィア様の姿を見てもらいたいな。





 ロコちゃん、約束したもんね? 私たち友達だって、ずっと一緒だって……。


 


 離れていても変わらないからね?




 絶対に会いに行くよ。

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